晴れの日も雨の日も決まって私はベッドの中にいた。
 
 
 
物心ついた時から。ずっと。
 
 
 
白い天井。
 
 
 
それが私の風景だった。
 
 
 
窓から見る季節の移ろいだけが、唯一の楽しみだった。
 
 
 
何故私はこんな身体になって生まれてきたんだろう。
 
 
 
疑問。
 
 
 
そして、自分の身体を呪う私。
 
 
 
人はみんな、生まれてきたことに意味がある。
 
 
 
何かで読んだ本に書かれていた言葉。
 
 
 
それなら、私の生まれてきた意味とは何なのだろう?
 
 
 
疑問。
 
 
 
そして出ない答え。
 
 
 
 
でも、何故だろう?
 
 
 
 
 
手が・・・温かい。
 
 
 
 
 
とても・・・温かい。
 
 
 
 
 
誰かが私の手をぎゅっと握ってくれているからなのか手がとても温かい。
 
 
 
 
 
まるで・・・私の疑問や悩みを吹き飛ばすかのようにとても温かい。
 
 
 
 
 

 

 
 
Tear...
 
Story.6 静寂に包まれて・・・

 
 

 
3月22日―――PM4:00   海鳴市  海鳴大学病院325号室  
 
 望「はっ!?こ・・・ここは病院?そ、そうかあの人に倒されて・・・」
 
私ははっとなって目が覚める。そして、そこには眼鏡をかけた長い黒髪の女性が座っていた。
 
望「あのう・・・あなたは・・・。」
 
黒髪の女性「僕ですよ・・・。といいましてもこの格好じゃ分かりませんか・・・。」
 
そう言って、黒髪の女性は溜め息をついた。でも・・・この声はどっかで・・・。
 
望「ひょっとして・・・風音さん・・・ですか?」
 
風音「はい。神楽風音です。」
 
風音さんはそう言って笑顔で答えた。
 
望「いつからそんな可愛い姿・・・いや美人に・・・。」
 
風音「望さんが幻丞さんに敗れた後に僕が幻丞さんに勝って、それから望さんを治療する為に海鳴大学病院に戻ったんですが・・・。望さんが寝ている間にフィリスさんにこんな姿にされちゃいました。」
 
ずこ〜ん!!
 
 
それを聞いて私はベッドから転げ落ちた。
 
望「うっ・・・。い、いたた。」
 
風音「無理しないで下さい。大した事ないと言っても心臓に打撃を与えられたのですから。でも、目覚めてくれてよかった。」
 
風音さんはそう言うと笑顔になる。
 
望「い、いえっ。こちらも良かったです。風音さんが無事で。」
 
私は慌てて答えた。しかし・・・。
 
風音「すみません。僕のせいで望さんがこんな事に・・・。」
風音さんの顔は再び暗い顔になる。
 
望「いえっ。それは私がついカッとなって闇雲に戦ったから・・・。」
 
風音「いえ。僕のせいです。僕が裏山で倒れなければこんな事には・・・。」
 
望「いや、私が・・・。」
 
風音「いえ。僕が・・・。」
 
 
??「二人ともそこまで。」
 
 
 
風音・望「えっ!?」
 
 
私達は思わず振り向く。そこには・・・フィリス先生とわかばと翠屋の店長で私の叔母である高町 桃子さんが立っていた。
 
桃子「自分の事ばかり責めては駄目よ。どうしようもない時も確かにあるけど・・・でも、その度に自分を責めてもキリがないわよ。」
 
風音・望「「はい、すみません。」」
 
私達は素直に謝る。でも、何か忘れているような気が・・・。
 
望「あのう。何故桃子さんが此処に・・・。翠屋は放っておいていいんですか?」
 
 
桃子「いいわけないわよ。でも、誰かさんの帰りがあまりにも遅いから連れ戻しに来ただけよ。(怒)」
 
 
 
私は桃子さんのその言葉を聞いて顔が思わず青くなった。その時の桃子さんの顔は笑顔だったが、何故か恐怖を感じた。
 
望(そ・・・そうだった。忘れてた・・・。翠屋のこと完全に忘れてた・・・。)
 
だが・・・
桃子「でも、今回は許してあげるわ。理由が人助けだし。」
 
桃子さんは笑顔で答える。
 
望(ふ〜っ。良かった〜。)
 
桃子さんの笑顔を見て私は思わず安堵の溜め息をついた。しかし・・・
 
 
 
 
桃子「でも、それならそうとちゃんと電話してくれても良かったのではと思うんだけど。」
 
望「すみません。今度からは気をつけます。」
 
私はもう謝るしかなかった。
 
フィリス「桃子さん、望さんも大変だったんですから。そこらへんで・・・」
 
フィリス先生は私に助け舟を出してくれた。
 
桃子「そうね。こっちも早く翠屋に戻らないといけないしここで勘弁してあげる。」
 
望「ほっ。良かった。でも、桃子さんが抜けた翠屋ってものすごくやばいのでは?」
 
私は思わずぞっとした。
 
桃子「うん。だから、ことりちゃんと眞子ちゃんに助っ人を頼んだわ。1週間タダでケーキを食べて良いって言ったらあっさりOKしてくれたわ。」
 
ずて〜ん!!
 
桃子さんのその台詞を聞いて私は再びベッドから転げ落ちた。
 
望(桃子さん・・・文通友達を買収しないで下さいよ・・・。)

それから15分後・・・
 
桃子「じゃあそういう事でみんな高町家に帰るわよ。あ、それと君、神楽風音くんだったっけ・・・。」
 
風音「はい?」
 
桃子「自己紹介が遅れたけどどうも初めまして。喫茶店 翠屋の店長 高町桃子です。ちなみに望とは叔母と姪の関係にあたります。」
 
風音「はい。こちらこそ・・・よろしくお願いします。」
 
2人はそう言って握手をした。しかし・・・
 
桃子「でも、よく見たら私に望にわかば、フィリス先生に風音くんか。結構人数多いわね。出来れば、一人くらい歩いて帰ってくれるとありがたいんだけど・・・。全員はちょっと無理だし。」
 
フィリス「すみません。恭也さんが最近病院に顔を出さないから。強制的に整体やらないといけないので・・・。」
 
風音「じゃあ、僕が歩きでいいです。ちょっと僕が倒れたあの坂に行ってみたいので。」
 
風音は手を挙げて答える。しかし・・・。
 
望・フィリス「「えっ!?」」 
 
望とフィリスはそれを聞いて驚きの前に大声を出す。そして・・・。
 
望・フィリス「「駄目!!駄目!!駄目!!絶対駄目です!!」
 
フィリス「風音さん、貴方自分の身体が今どんな状態なのかわかっているんですか?一応私のヒーリングで出血と痛みはおさえていますが。普通なら死んでいても可笑しくない程負傷しているのですよ。」
 
望「そうですよ。それに一人で高町家まで行けるんですか・・・?」
 
二人は揃って風音が歩いて高町家に行く事に反対した。だが、
 
風音「あっ!?あれ何だ!?」
 
 
望・フィリス「「えっ!?」」
 
望とフィリスは風音が指差した方向に振り向く。しかし・・・
 
 
望・フィリス「「ってこんな単純なトラップが私に通用すると思っているんですか風音さん!?」」
 
望とフィリスはそう言うと風音がいる方向に振り向く。しかし、そこには誰もいなかった。
 
望「しまった。逃がしちゃいましたか。」
 
フィリス「はあ・・・。本当に世話の焼ける患者さんですね。無茶するばかりか病院内を走るなんて。」
 
フィリスはそう言って溜め息をつく。
 
桃子「でも、面白くていい子じゃない。」
 
わかば「そうですわね。でも、望ちゃんもフィリス先生もとんでもない人に惚れちゃいましたわね。」
 
望「ちょっ・・・わ、わかば何を言っているのよ。(かあっ)」
 
フィリス「そうです。私と風音さんは只の医者と患者さんの関係です。そんな関係ではありません。(かあっ)」
 
わかば「でも神楽さんが望ちゃんをここまでおぶってくれたのですよ。」
 
望「そ・・・そうなの。どうりで・・・温かかった訳だ。」
 
望の顔はもっと赤くなった。
 
そして、これらの様子を見ていた桃子は、
 
「あらあら若いわね〜。」
 
と言って、くすくすと笑った。
 
ちなみに彼女達が病院を出たのは1時間後の5時15分であった。


PM5:00  海鳴市  神楽坂
 
風音「やっぱ・・・もう何もないか。」
 
風音は「夜の一族」の二人に記憶を奪われた場所――神楽坂に来てみたが、手がかりになるものは何もなかった。だが、その場を立ち去ろうとしたその時・・・
 
風音「あれ・・・。」
 
風音は地面に落ちていた「何か」を拾う。それは・・・
 
鈴だった。
 
風音「鈴・・・ですか。何故だか分かりませんが凄く懐かしい・・・。」
風音はそう言うと鈴を鳴らす。ちりん。ちりん。 
 
 
その時だった。風音の脳裏にある光景が思い浮かんだ。
 
 
 
 
 
 
 
??「ねえ。ゆう・・・くん。また、あの曲を弾いてよ。」
 
??「あの曲って・・・?」
 
??「私が大好きなあのピアノの曲だよ。少し悲しみを感じるけど・・・とても優しい曲。」
 
??「わかった。あの曲だね。『静寂に包まれて・・・』だね。」
 
??「うん。でも、ダメかな・・・?」
 
??「いいよ。僕もその曲は大好きだから。」
 
??「うん。ありがとう。」
 
??「じゃあ行こうか。」
 
??「うん。」
 
だが・・・その光景はそこで終わる。
 
 
 
 
風音「はっ・・・。」
 
風音の意識は現実に戻る。
 
風音「ここにいても何にもなりませんし・・・そろそろ行きますか。」
 
風音はその場を立ち去る事にした。だが・・・
 
風音「でも、あれは何だったのだろう?あの光景は?とても懐かしく感じたけど・・・。それに、ピアノ・・・?」
 
足を止めて考え始める。
 
風音「望さん達には悪いけどちょっと寄り道しますか・・・。」
 
風音はそう決意すると走った。高町家ではなく、商店街に向かって。


PM5:35   海鳴市  商店街
 

風音「はあはあ・・・。あった。」
 
風音は商店街のある場所に立ち止まる。そこは、楽器店だった。だが、
 
風音「誰も・・・いないみたいですね。」
 
そう。その楽器店には誰もいなかった。風音以外の客もこの店の店主もいなかった。
 
風音「でも・・・いいですか。それに・・・後で謝ればいいと思いますし・・・。」
 
風音はそう言うとそっと店に置いてあったピアノに手をかける。そして、鍵盤を叩いてピアノの音をチェックする。
 
 
ドレミファソラシド・・・。
 
 
風音「うん。音も悪くない。これなら大丈夫だ。じゃあ弾きますか。あの曲を。『静寂に包まれて・・・』を。」
 
こうして・・・。たった一人の演奏が始まった。この演奏が新たな出会いの引き金となる事を知らずに・・・。

 
PM5:20   海鳴市  翠屋
 
風音がピアノを弾き始めるほんの少し前
 
??「ことりさん。2番テーブルのお客様にシュークリーム2個お願いします。」
 
ことり「はい。分かりました。」
 
??「こっちも5番テーブルにチーズケーキ1個とアップルパイ2個お願い。」
 
ことり「ま、またっすか?は、はい。(泣)」
 
ここは海鳴市の喫茶店 翠屋。いつもならこの時間帯は混んでいないのだが、今日は学校の終業式の日で学校帰りの学生でこんな時間でも大忙しの状態であった。
 
??「はあ。今日は学校が終業式でいつもよりも忙しいと言うのに・・・。望さんもわかばさんもどこにいるのよ・・・?母さんもいつの間にかいなくなってるし・・・。晶達もまだ帰って来てないし・・・。恭ちゃんは忍さんとデートだし・・・。」
 
 眼鏡の店員はこの忙しい状況に疲れたのか、ぼやく。
 
ことり「まあ、いいじゃないですか。私達がいるんですし・・・。」
 
??「そうそう。自分が大変だからって愚痴をこぼす事は良くないぞ。美由希。」
 
美由希「あなたが言っても説得力がありませんよ。眞子さん。」
 
眞子「ぐっ・・・。美由希も人の事言えないだろ。私と同様料理下手なくせに。」
 
美由希「うう〜っ。事実なだけに反論できない〜。(泣)」
 
ことり「2人ともお願いだからケンカはあとにしてオーダーお願い。」
 
美由希・眞子「「あっ、そうだった。い、今行きま〜す。」」
 
二人はそう言うと再び仕事に戻った。   
 
 
それからしばらくして・・・
眞子「あれっ・・・。何だろう?みんな急いでいるみたいだけど・・・。」
眞子は店の外がいつもと違う事に気が付く。
 
ことり「そうですね。みなさん同じ方角に走っていますね。あの場所に何かあるんですかね?」
 
美由希「いや。あそこにはほとんど誰もいない古い楽器屋さんしかない筈だけど・・・。」
 
ことり・眞子「「えっ?」」
 
 
美由希のその言葉を聞いて二人はドアを開けて外に出る。そして、すぐにその理由が分かった。外に出た途端、とても悲しくそしてとても優しい曲が二人の耳に入ったからである。
 
眞子「こ・・・この曲は・・・。」
 
ことり「『静寂に包まれて・・・』だね・・・。」
 
眞子「うん。でも、ここまでこの曲を上手く弾けるのは相沢しかいないよ。」
 
ことり「じゃあ・・・これは祐一君が・・・。」
 
眞子「行こう。行って確かめよう。」
 
ことり「うん。」
 
 
 
だが、その時・・・
美由希「二人とも。どうかしました?」
美由希が二人に尋ねる。だが・・・。
ことり「ねえ美由希ちゃん。ちょっと休憩時間をくれない?」
 
眞子「うん。約束のケーキはいらないからさ。ちょっと席外さしてくんない?」
 
美由希「えっ!?」
 
 
美由希は二人の言葉の意味が分からず首をかしげる。
 
ことり・眞子「「じゃあ。ちょっと行ってきます。」」
二人はそう言うと楽器店に向かって走った。
そして・・・。
美由希「ちょっと・・・。二人とも私一人でこの客数を捌けでもと言うのですか?母さん達もまだ帰って来ないし。無理だよ・・・。(泣)」
もう季節は春だが、その時の美由希の心はまだ冬だった・・・。
ちなみにこの後すぐに桃子達が戻ってきて美由希は何とかこの苦難を乗り切ったと言う。

 
その頃ことりと眞子は・・・
 
眞子「桃子さんや美由希には悪いけど・・・これが一番の目的だしね。」
 
ことり「うん。音夢を救う為に初音島を出て行ってからずっと探したんだから・・・今度こそちゃんと祐一君を説得しないと・・・。」
 
眞子「でも、相沢はそんなに甘くないわよ。多分。」
 
ことり「それならそれで構わないよ。その時は又見つかるまで探せば良いだけだし。」
 
眞子「そうだね。じゃあ行こう。」
 
ことり「うん。」
 
二人はそう言うと再び走り始めた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 それぞれの想いを胸に
 
 
 
 
 
 
 
 
 
再会の時が近づく。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
想いはすれ違ったままとは知らずに・・・。
 
 
 
 
 
 
 
to be continued ・ ・ ・

 

 
 
 
あとがき
 
 
菩提樹「どうもお久し振りの菩提樹です。さて今回のゲストは・・・。」
桃子「高町 桃子です。みんなよろしく。」
菩提樹「原作と同様本当に元気な人ですね。羨ましいです。」
桃子「それはどうも。でも・・・私も美由希もお笑いキャラになってない?」
菩提樹「気の・・・せいですよ。」
桃子「それに・・・投稿が遅いわよ。」
菩提樹「すみません。ここ1ヶ月間忙しかったもので。(泣)」
桃子「全く・・・時間の調整が下手だからこうなるのよ。」
菩提樹「はい。すみません。これから後期試験ですが、ヒマを見つけて書いていきます。」
桃子「でも、今回のタイトル『静寂に包まれて・・・』って、確か「Wind〜a breath of heart〜」で使われてた曲なんじゃ・・・。」
菩提樹「はい・・・。その通りです。」