風音「はっ・・・!!」
目を覚ましてみるとそこは辺り一面が麦畑だった。
風音「あれ・・・ここは・・・おかしいな。僕は確か、裏山で倒れて・・・。」
そして、さっきまで一緒にいた望の姿もない事に気付く。
風音「あれ・・・望さんは・・・。」
??「ここは・・・私の世界・・・私の作った世界・・・。」
風音「えっ・・・?」
振り返ると、そこには頭にウサギのカチューシャを付けた少女が立っていた。
少女「ここは・・・私の作った世界・・・私しか・・・いない世界・・・。」
風音「ど・・・どういうことですか?貴女が・・・僕をここに・・・」
少女「そう・・・ずっとひとりで・・・さびしいから・・・さびしかったから・・・。」
少女は表情を変えずに答えた。
少女「ねえ。遊ぼう。ここでかくれんぼして・・・遊ぼう。」
少女はそう言って風音の手をギュッと掴む。しかし・・・
風音「すみません。今は・・・駄目です。遊べません。僕の帰りを・・・待っている人がいるから・・・行かなければならないのです。」
風音はそう言って少女の手を解こうとする。しかし、少女はその手を頑として離そうとはしなかった。
少女「だめ・・・だよ。帰ったら・・・また、とても悲しい事が・・・起こるよ。だから・・・ここにいよう。ううん・・・ここにいて。」
少女はそう言ってなおも引き止めようとした。
風音「それでも・・・僕は行かなければいけないのです。僕のせいで望さんとフィリスさんをとんでもない事に巻き込んでしまいましたから。」
それを聞いて少女の顔は曇った。
少女「そう・・・でも・・・本当にそれでいいの?」
少女は風音に問いかける。
風音「ええ。望さん達を放っておく訳にはいかないので。」
少女「そう。それならもう私は止めないよ。でも・・・ちょっと待って。」
少女はそう言って風音を引き止める。そして・・・よく見ると少女の姿は高校生の姿に変わっていた。
少女「はい。この剣をあなたに受け取ってほしい・・・。」
少女はそう言うと、風音に剣を渡す。
風音「えっ!?この剣を・・・いいんですか?これって君のものなんじゃ・・・?」
少女「ううん。私にはもう不要な物だから。でも、これからの貴方には必要な物だから。」
少女「ここにいてくれないのは悲しいけど・・・がんばってね・・・ゆう・・・そして、佐祐理を救ってくれて、私を助けてくれてありがとう・・・。」
そして、辺りは麦畑から闇へと戻る。そこにはもう誰もいなかった。
風音「さよなら・・・舞・・・さん」
風音は小声でそう呟きそして・・・泣いた。
風音「はっ・・・今の夢は・・・。」
目が覚めると、高台の休憩所だった。
風音「ここは・・・休憩所。いけない。早く望さんの所に行かないと・・・。」
風音は慌てて外に出た。
Tear...
Story.5 決着・・・そして
3月22日―――PM2:20 海鳴市 高台
慌てて外に出てみると・・・望さんが倒れていた。そして・・・望さんの前には今にも望さんに止めを刺そうとする黒服の男が立っていた。そして、男の手が望さんの心臓に向けて振り下ろされる。
風音「危ないっ!!」
ヒュン!!
僕は道路に落ちていた小石を拾い、男に向かって投げた。その小石は男の顔に当たり、そのせいで手が僅かに逸れて、 手はコンクリートの道路に当たる。
そして、男はこちらに振り向いて言った。
幻丞「チッ!!もう起きやがったのか。」
風音「ええ。望さん達を置いていつまでも寝ている訳にはいきませんからね。」
僕は黒服の男にそう言うと、望さんの側にまで駆け寄った。
風音「望さんをここまで傷付けたのはあなたですか?」
風音は幻丞に問いかける。
幻丞「ああ、そうだ。」
幻丞はそれに対して冷たい態度で答えた。
風音「何で、ここまで望さんを傷付けたのですか?少し記憶が戻ったから分かりますが、貴方達『龍』や『夜の一族』の目的は僕じゃないのですか?」
幻丞「俺達を甘く見るなよ。俺達の標的はお前の全てだ。お前に出会った人間、お前に味方する人間全てだ。」
風音はそれを聞いて幻丞を睨みつける。
風音「あなたは・・・こんな事をして恥ずかしくないのですか?」
幻丞「ポリシーに反するが、強え奴と戦えるのならそれでもいい。」
それを聞いて、風音は再び幻丞に問いかける。
風音「それが・・・あなたの戦う理由ですか・・・。」
幻丞「ああ。『龍』は俺に戦の機会を与えてくれる都合のいい組織だからな。お前のような強者とも戦う機会も多いからな。」
風音「そうですか・・・。なら、黙ってここを通してくれませんか?望さんをフィリスさんの元に連れて行きたいので。」
風音は説得しようとする。が・・・
幻丞「そうはいかねえよ。俺はお前と戦いたいのだからな。」
風音「じゃあ・・・通す気はないと・・・。」
幻丞「ああ。そうだ。小娘を助けたいのなら・・・この幻丞と戦って勝つしかねェんだよ!!」
ヒュン!!
そう言って幻丞の姿が見えなくなる。
しぐれ
風音「能力・・・ですか。ならばこっちも・・・出でよ・・・「時」を司る太刀「時雨」!!」
風音の横に空間が開き、一振りの小太刀が現れた。それと同時に幻丞も攻撃態勢に入った。
幻丞「死ね!!小僧!!『幻霧』!!」
しかし・・・
風音「甘いですよ・・・。」
カン!!
幻丞「何っ!!」
風音は時雨の鞘で幻丞の正拳突きを止めた。
幻丞「なっ・・・この見えない攻撃を防いだだと・・・。」
風音「ええ・・・僕には貴方の動きは手に取るように分かる。だから、貴方は僕には勝てない。もう止めません?」
風音は再び説得するが・・・
幻丞「なめるな・・・今度は連続でいってやる!!『幻霧・乱』!!」
幻丞は今度は連続で風音に攻撃を仕掛けた。だが・・・
ときよみ
風音「『時読』!!」
幻丞「なっ・・・く・・・くそっ・・・」
幻丞の見えない連続攻撃は全て避けられた。そして・・・「幻霧」で姿を消していた幻丞の姿が再び現れた。
こせつ
風音「終局です。御神流奥義ノ壱 虎切!!」
風音は疲弊した幻丞から距離を取り、超高速の抜刀術で幻丞を斬った。
幻丞「がっ・・・何故貴様があいつら・・・いや・・・あいつの技を・・・。」
バタッ!!
そして、そのまま倒れた・・・。
風音「あなたの負けです。」
そう言って時雨を鞘に戻した。だが・・・
幻丞「ま・・・まだだ・・・まだ終わっちゃいねえ。まだ・・・俺は・・・生きてる。だから、まだ・・・終わっちゃいねえ・・・。」
そう言って再び立ち上がった。
幻丞「どうした・・・かかって来いよ・・・。俺は・・・まだ・・・死んでねえぞ・・・。」
そう言って再び風音と戦おうとする。しかし・・・
??「いいえ。この勝負貴方の負けですよ。」
幻丞「な・・・に・・・。」
風音「えっ・・・。」
二人はほぼ同時に振り向く。そこには・・・フィリスと眼鏡をかけた少女が立っていた。
幻丞「おい・・・。俺の負けってどういうことだ?」
幻丞はフィリスに問いかけた。
フィリス「はい。風音さん達と別れた後に警察に通報しましたから。後、5分くらいでここに警察が来ます。だから、貴方の負けです。」
幻丞「なっ・・・。」
幻丞はフィリスのその言葉を聞いて愕然とする。そして・・・
幻丞「どうやら今回は俺の負け・・・らしいな・・・。だが、次はないと思え・・・。」
ヒュン!!
幻丞はそう言うと高台から飛び降り、そのまま逃げた。
風音「逃がしてしまいましたか・・・。」
フィリス「ええ。でも、次も勝てばいいだけじゃないですか。その時は私も力になりますから。」
風音「ええ・・・そうですね。」
風音は悲しげな顔をして頷いた。
PM14:45 海鳴大学病院待合室
幻丞との戦いから20分後、風音達は負傷した望の治療の為に病院に戻る事にした。
風音「でも・・・フィリスさんの体はもういいのですかね?回復にはもう少し時間がかかると思っていましたが・・・。」
??「問題ありませんわ。わたくしの『治癒』で体力は回復していますから。」
眼鏡をかけた少女は優しげに答えた。
風音「ところで・・・あなたは?」
わかば「あっ。申し遅れましたね。藤宮わかばです。貴方のことはフィリス先生から聞いています。」
風音「こちらこそ始めまして。神楽風音です。えっ、藤宮?」
わかば「はい。望ちゃんはわたくしの姉ですわ。とは言っても年齢は同じですけど。」
お互いの自己紹介の後にわかばは風音の疑問に答えた。
風音「なるほど。でも・・・わかばさんすみません・・・。僕のせいで・・・。」
風音はそう言ってわかばに頭を下げる。
わかば「いいえ。あまりお気になさらないで下さい。」
風音「でも・・・望さんが僕を助けなければこんな事には・・・。」
わかばは風音を励ますが、風音の悲しげな顔は晴れなかった。と、その時・・・
フィリス「二人ともさっきから「あの〜」って言っているんですけど?」
風音・わかば「えっ!?」
二人の前にいつの間にかフィリスが立っていた。
風音「フィリスさん、い・・・いつの間に。」
風音が慌てて質問した。
フィリス「ついさっきからです。風音さんとわかばさんが仲良く話し合っていた時からですけど。(怒)」
風音・わかば(ひぇ〜っ!!)
フィリスの手は怒りの余り震えていた。その事から今まで気付かれなかった事にかなり腹を立てている事が分かる。
フィリス「話を元に戻しますが・・・これからどうします?」
フィリスは再び風音に質問した。
風音「う〜ん。又、病院に入院という訳にはいきませんしね。今日みたいな『龍』の襲撃の事を考えたら・・・。」
フィリス「そうですね。他の患者さんの事を考えたら・・・。」
とその時・・・
わかば「高町家はどうです?」
とわかばが提案した。
フィリス「そうですね。風音さんの技から考えても・・・それがベストな選択ですね。」
とフィリスもその意見に賛成する。が・・・
風音「えっ・・・どういう事ですか?というよりも何故僕の技を・・・」
フィリス「風音さんの心を読んだだけですよ。」
風音「そういう事も出来るのですね。」
フィリス「はい。HGS能力の初歩ですから。」
フィリスは笑顔で答えた。
フィリス「少し話が脱線しましたが、さっき風音さんが使った技はおそらく恭也さんの技と同じものです。だから、ひょっとしたら高町家に風音さんの記憶に関わるものがあると充分考えられます。」
風音「なるほど・・・そういう事ですか。」
風音はそれを聞いて納得した。
風音「でも、迷惑じゃないのですかね?僕は『龍』だけでなく『夜の一族』にも狙われている身ですし。」
わかば「その事についてなら大丈夫です。高町家の人々の中には彼らと互角に戦える人もいますから。それに高町家の恭也さんはわたくし達の親戚ですのよ。」
風音はそれを聞くと安堵の溜め息をした。
フィリス「じゃあ、これでこれからどうするかは決まりましたね。望さんも大した怪我ではなかったので、望さんが目を覚ましたら高町家に直行という事で。」
風音・わかば「はい。」
同時刻 海鳴大学病院裏山
幻丞「はあはあはあはあ・・・・・・。」
幻丞は高台から飛び降りて逃げた後、警察の手から逃れる為に海鳴埠頭に向かって走っていた。
幻丞「チッ・・・まさかこうも早く記憶の一部を取り返すとはな・・・。計算外だったな。」
??「いや。これも計算のうちですよ。」
幻丞「だ・・・誰だ・・・。」
幻丞は声のした方に振り向く。
そこには・・・氷村遊が立っていた。
幻丞「何だ。クライアントか。」
遊「ええ。どうやら依頼は達成できなかったみたいですね。まあ、分かっていましたが・・・。」
遊はそう言ってあははと笑う。
幻丞「おい。あんたもしかして・・・こうなる事が分かっててこんな依頼を・・・。」
遊「ええ。最初からこうなると分かってて依頼しました。」
幻丞の問いに遊は真顔で答えた。
幻丞「ふざけんな!!じゃあ俺は最初から捨て駒だって言うのかよ!!」
遊の態度に幻丞は切れる。
遊「まあ、そんな怖い顔しないで下さいよ。こんな依頼をした事についてはちゃんと謝罪しますから。それに、クライアントとのトラブルは禁止されているのでは・・・。」
幻丞「チッ・・・。」
幻丞は遊の態度に切れかけたが、遊の言うとおりクライアントとのトラブルは禁止事項なのでここはぐっと堪えることにした。
遊「まあ、今回の依頼は失敗と言う結果に終わってしまいましたが、こちらにも非があるのでギャラは後日倍額振り込んでおきます。相沢祐一に関しては又依頼しますので、その時は又よろしくお願いします。」
幻丞「ああ。上の方にそう伝えておくよ。だがな・・・もし次こんな事をやってみろ・・・その時は何があろうと俺はあんたを殺す・・・。」
ヒュン!!
幻丞はそう言うとその場から立ち去った。そして・・・
遊「ククク。早くも一つ目の記憶を手に入れたようですね。だが・・・これからの戦いもこんな幸運に恵まれるとは限りませんよ。ねえ。相沢祐一くん。」
遊もそう言うとその場から立ち去った。
to be continued ・ ・ ・
あとがき
菩提樹「どうも菩提樹です。今回のゲストは・・・。」
舞「川澄 舞・・・。と言っても出番は最初の方だけ・・・。」
菩提樹「・・・相変わらず愛想は無い人ですね・・・。」
舞「ところで・・・私達って何で死んでいることになっているの・・・?」
菩提樹「それは・・・まだ聞かないで下さい。お願いですから。」
舞「それと、最後のあの文章は何・・・?」
菩提樹「あれ、ですか。まあ、詳しくは言えません。言ったらつまらなくなりますし・・・。」
舞「でも、祐一はかっこよかった。でもあの技は・・・。」
菩提樹「ええ。そう言ってくれてどうもありがとうございます。ちなみに今回風音(祐一)が使った『虎切』は一刀でも使える御神流の奥義です。」
舞「でも・・・私は知らない・・・。」
菩提樹「それではまた〜。」
舞「無視された・・・。」