3月22日―――PM0:45 海鳴大学病院受付
風音(祐一)が入院していた海鳴大学病院。
今その受付に黒髪にサングラス、そしてスーツを着込んでいる男がやってきていた。
受付「えっとですねぇ、この写真の患者さんは今朝運ばれてきた患者さんですね。」
男「へ〜、そうですか・・・・・・他には・・・・・・。」
受付「えっとですね、入院している患者さんの情報を他人に漏らす事は・・・・・・。」
受付のナースは少しだけ言葉を濁して小さい声でそう呟いた。
男は何を思ったのか懐に手を入れ、とある名刺を取り出した。
男「私はこういう者です、御安心を。」
受付「!!」
男が見せた名刺には首相、警視総監など大物政治家のサインが書かれてあった。
そして、ここの院長のサインもである。
受付「・・・ここだけの話なのですが、この患者さん記憶がないそうなのですよ。それで、親の身元を調べようとしても、分からなくて・・・。」
男「なるほど、そうですか。じゃあこの患者さんの病室は・・・。」
受付「はい。この患者さんは425病室ですね。」
男「そうですか。ありがとうございました。」
男は軽く会釈をして受付を離れ、階段を上っていった。
そして・・・
男「やはり、この病院に運ばれたみたいだな・・・。」
男は誰もいない階段でひっそりと呟いた。
Tear...
Story.3 飛行船
PM0:51 海鳴大学病院425病室
風音「ところで、フィリスさんはどうやって僕を治療したのですか?死んでもおかしくないほどの傷だった筈なのに、もうここまで治っていますけど。」
自己紹介が終わった後、風音はフィリスに質問した。
フィリス「ええ。確かに死んでもおかしくないほどの怪我でしたよ。だから、病院まで運ぶ時も手術の時も能力を使いました。」
風音「能力・・・ですか?」
フィリス「はい。私はHGSのキャリアですから。それで、風音さんを助ける為に使った能力は・・・はっ!?」
フィリスは風音に自分の能力について説明しようとしたが、それは途中で止められた。
望「どうか・・・しました?」
フィリス「望さん木刀を出しておいて下さい。誰かが・・・こっちに来ますね。」
風音「やっぱり、ですか?気配は感じていましたけど・・・。」
望「あっ、はい。えっ?でも、私は何にも感じませんけど?」
風音とフィリスは何者かの気配を察知したが、望は分からなかったようである。
フィリス「しっ、望さん静かに。居場所を悟られます。」
望「すっ、すみません。で、でも、こっちに向かってきている人ってそこまで警戒しなきゃいけない人なんですか?もしかしたら・・・一般人かも知れませんよ。」
望は謝ると同時に2人に質問した。
風音「残念ながら・・・それは100%ありえませんね。あそこにある階段から物凄い殺気を感じましたし・・・。」
フィリス「それなのに・・・全然足音が聞こえてきませんし・・・。」
望「…成る程。だから、ここに向かってきている人は「警戒する必要がある人」なんですね。」
望もやっと分かったようである。
風音・フィリス「「そういう事です。」」
それから30秒後・・・
望「でも、どうします?今から逃げても間に合いませんよ。」
風音「そうですね・・・じゃあこうしません・・・フィリスさんの・・・後、望さんも・・・。」
フィリス「なるほど・・・いい考えですね。私は賛成です。」
望「私も賛成です。」
風音「もうすぐ・・・来ますよ。覚悟はいいですね。」
フィリス「はい!!」
望「もちろんです!!」
フィリス「でもその前に・・・。」
風音・望「はい?」
フィリス「風音さんは着替えて下さい。入院着のままだと目立ちますから。」
風音「はい・・・大急ぎで着替えます。」
PM0:57 海鳴大学病院425病室前
男「ここが相沢祐一の病室か・・・これも仕事だ。悪く思うなよ。」
男がそう呟いた後に銃を右手に持ち、左手で病室のドアを開けた瞬間―――
プシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!
突然発生した煙によって周りが見えなくなった。
そして・・・
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!!
煙に反応したのせいか非常ベルが鳴り出した。
男「ゲホッ!!ゲホッ!!な、何だこれは?まさか・・・スモークを・・・。」
男はすぐに病室の窓を見つけると、窓ガラスを素手で殴りつけ、そのまま叩き割った。
パリ―ン!!
窓ガラスが割れたせいで病室はすぐに晴れた。
だが・・・
男「チッ・・・逃したか・・・。」
病室には誰もいなかった。
男「まあいい・・・外には俺の部下が20人いるしな・・・それに、早くここをぬけださないとな。このままでは人が来る。」
男はそう言うと、その場から立ち去った。
PM1:00 海鳴大学病院裏山
風音「なんとか撒いたみたいですね。」
望「でも、ギリギリでしたね。」
フィリス「そう・・・ですね。何せ相手がドアを開けた瞬間にダッシュして、階段でテレポートですから・・・上手くいったからいいのですが・・・。」
フィリスは顔色を悪くして言った。
風音「すみません。無茶な事をお願いして・・・病院内での戦闘だけはどうしても避けたかったので・・・一応、防犯ベルを押しましたからそう簡単には追いかけては来ないと思いますけど。」
風音はフィリスに謝った。
フィリス「いいえ。患者さんに何かあったら色々と困りますので気にしなくていいですよ。でも、これからどうします?」
望「そうですね・・・って、風音さん?」
風音「・・・囲まれましたね。数は恐らく15、いや20ですね。」
望「えっ、まだいたのですか?」
風音「いや、どうやら外に逃げた時の為にあらかじめ、何人か配置していたみたいですね。」
風音は冷静になって言った。
望「やっぱ、戦うしかないのですね。」
風音「ええ。あちら側は戦う気マンマンですし。それに、かなりの殺気を感じましたしね。」
フィリス「そうですね。」
その時・・・
パキッ!!
望が木の枝を踏みつけたのである。
??「いたぞ!!奴らだ!!」
黒服の男が仲間に連絡し、風音達のいる方向へやって来る。
望「しまった!!見つかっちゃいました。」
フィリス「ええ。こうなったらもう戦いは避けられませんね。と、その前に・・・。」
風音「??」
フィリスは風音の胸に手を当てた。そして、風音の傷は塞がり、全身の痛みは消えた。
風音「こ、これは・・・。」
フィリス「『治癒(ヒーリング)』の能力です。風音さんの傷の完治にはまだ時間がかかりますが、今はそれどころではないので『治癒』である程度のダメージは治しました。」
フィリスは自分の能力で風音を治した後に説明した。
フィリス「はあはあ・・・。でも無茶はしないで下さい。無茶をしたら、塞がった傷口が又開いてしまいますから。」
と、説明を付け足した。額に汗を浮かばせながら。
風音「はい。でも、これ位で充分ですよ。じゃあ、フィリスさんはここで休んでいて下さい。さっきから連続で能力を使っていましたから休んだ方がいいです。それでは…ちょっと行ってきます。」
望「じゃあ、私も行って来ます。」
風音・望「てりゃ〜っ!!」
バキッ!!
二人はそう言うと自分達の方にやって来た黒服の男を殴って気絶させ、その場から離れた。
PM1:07 海鳴大学病院裏山
風音「望さん、僕についてきましたけどいいんですか?フィリスさんと一緒にいた方がかえって安全だと僕は思いますけど。」
フィリスのいた地点からちょっと進んだ所で風音は望に質問した。
望「そんなに心配する事ないですよ。フィリス先生も見かけによらず強い人ですし。それに・・・私も剣術やっていますから。」
望は木刀を片手に笑顔で答えた。
風音「そうですか。でも、くれぐれも無茶だけはしないで下さいよ。じゃあ行きますよ。」
望「はい。」
それからちょっと歩いた所で黒服の男5人を発見した。
望「いきなり5人ですか・・・ちょっと、キツイですね。さっきみたいに1人や2人ならまだいいのですけど・・・どうします?」
しかし・・・
風音「望さん。何ボーッとしているんですか?終わりましたから、次行きますよ。」
望「えっ!?」
望はその場をもう一度確認した。すると・・・
黒服の男5人全員が地に伏せていた。いや、正確に言うと全員風音に倒されたのだ。
望「う、うそ・・・相手は銃を持っていたのに。」
望は驚きの余り何も言えず、唖然となった。
風音「あのう?望さん?」
望「・・・・・・。」
風音は望に声をかけたが唖然としたままであった。
・・・・・・そして、2分後。
風音「あのう?望さん?」
望「はっ、はい!?」
望はやっと我に返ったようだ。
風音「『次行きますよ』とさっきから言っているんですが・・・。」
望「あっ、はい。すみません。」
そう言って、2人は再び裏山を進もうとしたその時・・・
黒服の男14人に囲まれたのである。
望「見つかってしまいましたね・・・。」
風音「そうですね。でも、こちらから探す手間が省けていいんじゃないんですか?」
黒服「くっ。ふざけやがって・・・許さん!!」
黒服の1人は風音の言葉に頭にきたのか風音に向けて銃で攻撃しようとするが・・・撃とうとした直前に風音に腹を蹴られて悶絶した。
風音「どうやら怒らせてしまったみたいですね。まあいいですか・・・望さん行きますよ。」
望「はいっ!!」
そして、それから20分後・・・
バキッ!!
風音「よし。これで20人目。何とか全員倒せましたね。」
望「ええ。確かにそうですけど・・・ほとんど風音さんが倒していましたよ。」
風音「そうですか?」
望「ええ。でも、この人達は一体何者なのでしょうね?」
望はそう言うと、風音が倒した黒服の男を見る。
風音「う〜ん。僕達に攻撃を仕掛けてきたことから僕達を敵視している人達という事は分かりますが・・・んっ!?」
望「どうかしました?」
風音「いや、この人達の左手に書かれている龍の刺青は何だろうと思いましてね。」
望「えっ!?」
望も黒服の左手に注目する。そこには、風音の言う通り龍の刺青が書かれていた。
風音「でも、この刺青は何処かで・・・ぐっ・・・!!ろ、肋骨が・・・いた・・・む。」
バタッ!!
風音はそのまま倒れた。
望「えっ!?か、風音さん!!しっかり、しっかりして下さい。」
望はそう言って風音の側に駆け寄る。しかし、風音は倒れたまま動かなかった。
望「ど・・・どうしよう。ここじゃ圏外だから携帯電話は使えないし・・・んっ!?」
よく見たらその場に案内掲示板が立っていた。そして、案内掲示板に近づいた。
望「う〜ん。ここから一番近い場所は・・・高台ね。多分そこからなら携帯電話は使える筈・・・行ってみよう。」
望はそう言うと、自分の肩を貸して急いで高台へと向かった。
PM1:47 海鳴市高台
望「はあはあ・・・やっと着いた。」
望はそう言うと風音を休憩所のベンチに寝かし、ポケットの中から携帯電話を取り出した。そして、電話のボタンをプッシュした。しかし、その作業は途中で中断された。
その時、上空で“ある物”を見たからである。
望「えっ!?」
望「何で・・・何で、私達の街にしかない飛行船が海鳴市で飛んでいるの?昨日までは飛んで・・・なかったのに・・・。」
望の言う通り海鳴市上空には風音市でしか飛んでいない筈の飛行船が確かに存在していた。
望「これは一体・・・どういう事なの?」
望はもう唖然とするしかなかった。
同時刻 風音市九月堂
商品の整理をしていた月代彩は何かに気が付いたのか、いきなりハッとした顔をした。
彩「『ちから』が・・・弱まっている・・・いや違う・・・『ちから』が何処かに流出している・・・。」
彩は考える。
彩(もしかして・・・「彼ら」が再び動き出したのでは・・・)
彩の頭の中に最悪の考えが浮かぶ。
彩のその考えは的中していた。しかし、当の本人はその事にまだ気が付いていなかった。
to be continued ・ ・ ・
あとがき
菩提樹「どうも菩提樹です。何とかStory.3も完成しました。」
フィリス「フィリス矢沢です。と言っても…まだ全然活躍していませんが・・・」
菩提樹「すみません。でも、ちゃんと活躍していると思いますよ。私は・・・風音(祐一)くんをヒーリングで治療したり、テレポートで病院から脱出したりして、ちゃんとサポートしたじゃないですか。」
フィリス「サポート役・・・ですか。出来れば、戦闘面で活躍したかったのですが。」
菩提樹「はい。後の話でちゃんと戦闘面でも活躍させますよ。只、今回は風音の治療やテレポートで能力をかなり使ったので、戦闘はさせませんでした。」
フィリス「なるほど。でも、今回私達を襲った人達って、「とらハ」ユーザーなら誰でも知っているあの組織の人達ですよね・・・」
菩提樹「はい、そうです。このSSでは「とらハ」もクロスしていますから。」
フィリス「その割には、「とらハ」ではまだ私しか登場していませんけど・・・(怒)」
菩提樹「はい、すみません。」
フィリス「それに、誤字脱字も多いですよ。気をつけてくださいね。(怒)」
菩提樹「はい、気を付けます。(泣)」
フィリス「それでは、次回もよろしくお願いします。」
菩提樹「はい。後、書き忘れていましたが、「登場人物・組織一覧」は主要キャラクターが増えるにつれてどんどん加筆しますので、そちらの方もよろしくお願いします。それでは〜。」