Miracle tea
process 21 想いは翼、風に乗せて夢は未来へ
彩 「会えなくて寂しかったです。でも、こうして会えて……私は幸せです」
そう言って、彩は俺の胸の中で泣いた。
祐一「俺も…寂しかった。いや、少しだけ違ったかな」
一つだけ寂しくないといえる要素があった。
祐一「夢を見たんだ。彩が、雲の上からこの街を見下ろしてるんだ。嬉しそうな笑顔で、涙を流して…」
ここから先は言葉にならなかった。
こみ上げてくる嗚咽に、言葉を紡ぐ事が出来なくなっていた。
ただよかったと思うばかりで、何も考えられなかった。
今はこの温もりがあればいい。
今はこの時間があればいい。
もしも、願いが叶うならば、時間よ止まれ、と切に願うだろう。
笑って欲しい。
泣いて欲しい。
怒って欲しい。
兎に角、いろんなことをして欲しい。
いろんなことをしたい。
彩といられるならどこにいたっていい。
ただ純粋に、嬉しかった。
二日後。
俺たちは二人で九月堂の店番を始めた。
そこで、色々と悟った。
何も、彩だけが特別だったわけじゃない。
今まで、この街のために犠牲になった人全てが帰って来たらしい。
というのも、彩の兄を名乗る人がやってきたし、真の両親、鳴風の母親など、かつて彩に斬られた人や、そのもっと前に斬られた人々が街を歩いていたからだ。
それにしても、だ。
祐一「この狭い店内に何人入れるつもりだ、真?」
真 「知るか」
丘野両夫妻(真の両親と真と望)、鳴風夫妻(秋人さんと琴葉さん…らしい)、紫光院夫妻(勤が婿養子になった)、鳴風三姉妹(みなも、ひなた、わかば)、さらには、真と望の娘の空。
彩 「大盛況です」
彩、ずれてる。
優華「にしても、この子が恋をするだけでここまで結果が変わるなんてね…」
と、真の母親の優華さん。
信吾「予想外だった?」
こっちは真の父親の信吾さん。
優華「まぁ…ね」
夫婦の会話だが、この人たちはここに何をしに来たんだ?
琴葉「相沢……祐一君」
祐一「は?」
琴葉「成る程。この子ならね」
独り言だったみたいだ。
つか、誰も店の人間相手にしてねえし。
琴葉「少し、話いいかな?」
相手にしてなかったわけじゃないらしい。
祐一「彩が嫉妬しない程度にならいいですよ」
琴葉「ふふ…その通りね」
祐一「で、話って?」
琴葉「まずは、お礼。二度と娘たちには会えないと思ってたから、ありがとう」
そう言って、琴葉さんは頭を下げた。
祐一「どうして、俺に?」
琴葉「あなたは、風に覚悟と誠意、人を心から愛する事を教えたのよ」
祐一「ちょっと待った。俺は風に直接的な接点は持ってないぞ」
琴葉「そうでもないのよ。あなた、刺されたでしょう?」
祐一「!!」
驚いた。
同時に身構えた。
あのことは、俺と彩、真と望、さらにはわかばしか知らないことのはずだった。
琴葉「あれはね、風の意思が具現化したものだったのよ。ここを離れたくないという、想いがね。
でも、あなたは一つの事をやり遂げるという覚悟と誠意を示した。あの子に全てをささげる愛を示した。風はそこで、今まで取り込んできた人間にも覚悟や誠意があって、大切なものがあるって知ったのよ」
つまるところ、人間じゃなかったわけだ。
実は、真たちに頼んで入院中に捜してもらっていたのだが、見つからなかった。
それがこういう理由だったという事には驚きもしたが、納得できた。
琴葉「さて、そろそろ彼女に怒られちゃうかな?」
琴葉さんはそれだけ言い残すと、店内にいた全員を連れ出してどこかへと歩いて行った。
かなり色んな時代の人間が複合された無茶苦茶な街、風音へと。
祐一「さってと、あれを持ってくとしますか」
店内からは人が消え、いつもの静けさが戻ってきていた。
祐一「彩、ちょっと休もうか?」
彩 「祐一さん…」
俺は彩の為にお茶を淹れてきた。
この二年間の練習の成果を見てもらうために。
祐一「これがあるから、俺たちは出会い、今を形作る事ができた」
彩 「そうですね。ですから、今日という奇跡に辿り着けた」
祐一「差し詰め、奇跡のお茶、ミラクルティーってか?」
彩 「その通りですね」
笑った。
こんな日常がいつまでも続け、そう思う。
彩 「想いは遠く離れても届くんです。風に乗って、どこまでも飛んでいくんです。でも、乗せるだけじゃ駄目なんです。だから想いは翼で、夢なんです」
祐一「だからこそ、彩は帰って来る事ができた?」
彩 「はい」
あまり見たことのない満面の笑み。
彩 「想いは翼、風に乗せて夢は未来へ……いつだって、誰にだって届くんですよ」
祐一「……届いた」
俺は彩の肩に手を置き、文字通り、腕の中にうずめた。
彩 「届きますよ…もう二度と離れませんから」
祐一「…頼むよ」
「そういや、式はいつにする?」
「どこでやるんですか?」
「ここ以外に、どこが考えられる?」
「ふふ…ないですね、どこも」
「そうだろ?で、いつにする?」
「そうですね、一週間後にしましょうか」
「…わかった」
終わり、だけど、始まり。
そんな物語。
二人が紡ぐ物語は幸せの物語。
誰もが羨む、最高の物語…