Miracle tea
process 19 『行って来ます』
月代神社の神木。
ここで全てが終わる。…いや、違うな。終わって、もう一度始まるんだ。
彩 「いきますよ」
彩が刀――想いを断ち切る刃、通称死の楔を作り出した。
俺はそれを受け取って、深呼吸をした。
祐一「許せ…」
死の楔を、ゆっくりと彩の体に埋めていく。
刃がその背から突き出してくることはない。
彩の言ったとおり、この刀で外傷を与える事は出来ないようだ。
真 「何やってるんだ!!」
祐一「止めるな!!こうしなきゃいけないんだ…誰かが、風に朝を教えてやらなきゃいけないんだ」
俺はそのために光を同化体にしてるんだ。
??「待ってくれ!!」
声に振り向いた。
一人の見覚えのない男がたっていた。
??「ちからを消す気なんだろ?やめてくれよ…俺はちからのおかげで人に見てもらえるんだ。ちからが全てなんだ。だからやめてくれよ」
祐一「そんなもの、なくても……人は生きていける!!」
??「無理だっつってんだろ!!」
男が何かを取り出した。
あれは…ナイフ!?
狙いは彩!!
祐一「ふざけんな!!」
男が彩に突き刺そうとしていたナイフを、俺は腹で受けた。
深々とナイフが突き刺さる。
彩 「祐一さん…!?」
祐一「大丈夫…続けてくれ……」
男はふらふらと俺から離れた。
俺はナイフを一気に引き抜いた。
祐一「ぐ…!」
血が溢れる。
わかば「今、治し…」
祐一「やめろ…」
ちからを使おうとしたわかばを止める。
祐一「使わなくても生きていけるって、今ここで俺が証明してやる…」
傷口を手で抑えながら男を睨む。
祐一「彩…俺は生き抜く。だから、お前は必ず帰ってこい」
彩 「はい。では、『行って来ます』」
祐一「あぁ……『行ってらっしゃい』」
男から視線をそらし、彩を見る。
少しずつ、見えなくなっていった彩に向かって、俺は精一杯の笑顔を向けた。
そして、彩は完全に見えなくなった。
彩は、泣いていたけど、間違いなく笑顔だった。
祐一「『行ってきます』って、宣言したからには、必ず帰って来いよ…」
祐一「悪い…血を流しすぎた。あっちの、俺のバイクで病院まで連れてってくれないか」
生きるって言い切ったからな。
ちゃんと、生きとかないと。
真 「誰も免許なんてもってないぞ」
祐一「いいから、頼む」
真の肩を借りながら前に進む。
たったそれだけのことが辛く感じられる。
でも、何としても生きるんだ。
それが約束で、誓いだから。
祐一「動かし方ぐらいは簡単に教えてやるだから、気にせず好きにやれ」
真 「わかった。後悔するなよ」
一つ言っておくとすれば、真の運転はかなり荒かった。
その所為もあってか、病院に辿り着くころには俺は意識を手放していた。
冬香「あ…起きた」
目覚めたときには、もう病室だった。
あゆ「手術、すぐに終わったんだけどなかなか起きないから、みんな心配してたんだよ」
家族の心配そうな顔。
かなり、申し訳なく思う。
真 「悪運…強いんだな」
真がいた。
その後ろには、望もわかばもいる。
祐一「しぶとさも取り柄でね」
真 「違いない」
真だけが笑った。
望 「あの後、あの人を追ってみたんですけど、突然姿を消しました。それと同時にちからが使えなくなったんですけどね」
祐一「何でわかったんだ、同時って?」
望 「どこかの茂みに隠れたのかと思って、衝撃波を飛ばそうとしたんですけど、何度やっても出なくて」
祐一「そうか…」
俺はそれを聞いてから、もう一度真のほうを見た。
真 「実は、ひなたも入院しててな、明日の夕方で退院だから明日一日は相手してやってくれないか?」
祐一「わかったよ」
行ってらっしゃいと言った。
行ってきますと言われた。
いつか来る、『お帰りなさい』を言う日のために。
祐一「母さん。俺、やりたい事があるんだ」
九月堂を、出会った場所を守りたい。
セナ「ラスト2話」