Miracle tea

process 18   守る刃













   藤宮家。

   俺たちはそこに立っている。

祐一「行こうか」

彩  「はい」

   覚悟を決めてインターフォンを押した。

わかば「どなたですか?」

   出てきたのはわかば。

わかば「…!」

   俺たちを見てわかばが息を呑んだのがわかった。

   それだけで、隠し通す事は出来なかったのだと理解できた。

望  「わかば!!」

   家の中にいた望が彩の姿を認めるや否や、刀を携えて全力で駆けてきた。

   その刃の向かうところは彩。

祐一「…悪いけど」

   持ってきていた刀を抜刀、望の斬撃を受け止めた。

望  「邪魔をしないでください…!」

祐一「そういうわけにもいかない。俺たちが目的を達成するためにも…!」

   力で望を押し返す。

   少しだけ息をついた。


   あれは剣道じゃなくて、剣術だな。本当に。

わかば「望ちゃん!」

望  「わかばは下がってて!!」

   わかばが後方へとさがる。

   …参ったね、こりゃ。

   わかばが退いた時点で、望を言葉で止める事が難しくなった。

望  「邪魔をするなら容赦はしません」

   望が刀を振るった。

   それに合わせて俺も刀をぶつける。

   その瞬間、俺の刀が折れた。

望  「もらった!!」

祐一「まだ終わりじゃない!!」

   MODを抜き、望の刀をもう一度受け止める。

望  「何でそんなものまで持ってるんですか?」

祐一「さぁ…な!!」

   バランスを崩す事、後で彩に非難されることを承知で望の腹部を蹴った。

望  「ゲホッ…!!」

   望が咳き込み、後ろへと下がった。

   同時に、しくじったと思った。

   俺の間合いは、MODの刃渡りが刀よりも圧倒的に短い事から必然的に望に接近しないといけないのだが、望にはちからがある。

   衝撃波を生み出し、望むもの全てを切り裂くというちからが。

祐一「…しくじった、か」

望  「もう近付けさせません!!」

   背筋に冷たいものが走り、俺はその場から離れた。直後、後ろにあった壁が切り裂かれていた。

   諸に喰らっていたら死んでいたかもしれない。

祐一「音速の壁っていうのは生身じゃ超えられないだろうな…」

   動きながら接近するしかないな。

望  「言った筈です。邪魔しないでください、と」

   もう一発来る!

   俺は左方向に走り出した。

   望の位置からして、動かない限りは彩は狙えない。

   俺がこうして、あいつを釘付けにしている限りは。

   背面跳びの要領で藤宮家の塀を飛び越える。

望  「え!?」

祐一「この距離なら!!」

   俺はMODを構えて跳んだ。

真  「二人ともやめろ!!」

   真が走ってきた。

真  「秋人さんに聞いて、急いできてみれば…」
   
   成る程、あの人の差し金か。

彩  「祐一さん。丁度いいですから、今から始めましょう」

祐一「真もいるけど、いいのか?」

彩  「はい。私が人と関わり始めたのは彼の影響でもあるんです。ですから、丘野さんにも立ち会っていてもらいたいです」

祐一「わかった」

   言われて、俺はMODをしまった。

































彩  「この街のちからを全て消してしまおうと思っています」

   この一言で、全員が息を呑んだのがわかった。

   特に、ちからに依存していた二人が。

彩  「この街は、みなさんに夢を見せているんです。でも、夢はいつか覚めるもの。その時が来ているんです」

わかば「どうして今がそのときだと?」

祐一「ちからを持っていない人間の存在だ。橘がそのいい例だ。そして、それは暗にちからがなくても人は生きていける、ちからに頼らなくても困難を乗り越える事ができるということ、その証明だ」

   彩から聞かされていた事実を告げる。

   さらに、同じクラスの篠田。

   奴のちからはワックスを床一面に広げるというもの。

   元々、災害などの困難を乗り越えるための能力――夢――だったものが些細なものに変わってきている。それは、当初の目的、そのための犠牲を考えると必要ないものだ。

彩  「夢を終わらせる事が、望さんの死を近付けると言う事もわかっています。許して欲しいとも言いませんですが、謝らせてください。
    ごめんなさいを言わせてください」

   彩が頭を下げる。

望  「…いいよ」

わかば「望ちゃん!?」

望  「そろそろね、ずっとわかばと一緒にはいられないって理解できてきたし、わかばには自由でいて欲しいから。だから、いいよ」

   麗しきは姉妹愛…か。

   ま、この関係は香里と栞にも言える部分があったからな。

   夢の中にいたことも含めて、な。

   違ったところは、病気を抑える術があるかないかだった。

祐一「真。見届けてはくれないだろうか?愛する人と一緒に。俺たちがやろうとしていること、人としてあるべき姿…そういったことをいつか生まれてくる未来に伝える為に」

真  「…ばれていたのか」

祐一「まぁな。で、どうなんだ?」

真  「…わかった、見届けるよ」

   心は決まった。

   刀は折れてしまったけど、俺の心の刃は折れない。

   さぁ、この夢物語を終章へと進めようか。































セナ「さて、もうちょっとですね」

祐一「そうだな」