Miracle tea
process 14 海は見るだけ
次にやってきたのは海だった。
彩 「ここ、風音海岸にはとても個人的ですが、面白い逸話があるんです」
祐一「?」
突然、月代がそんなことを言い出した。
彩 「橘さんについてです」
祐一「橘について?」
全くもって見当もつかない。
でも、あいつについての面白い話となれば、あいつの弱みを握る事になる。
ま、弱み云々は置いといて、純粋に興味はあるかな。
祐一「なら、教えてくれ」
悪く思うなよ、橘。
全ては好奇心のためだ。
彩 「これは、以前ここに来たときに聞いたことなのですが、橘さんは海に入ることが出来ません」
祐一「海?水じゃなくて?」
彩 「はい」
今に始まった事じゃないだろうが、変なやつだな。
彩 「小さな頃に、この海に紫光院さんの家族と、自分の家族で一緒に来た事があったそうです。そのとき、あまりの嬉しさにその場で全裸になって紫光院さんに殴られてしまったそうです」
祐一「馬鹿なやつだな」
俺は笑った。
彩 「ですが、この話には、まだ続きがあるんです」
祐一「続き?」
彩 「はい。とにかく、橘さんは海に入って泳ぎました。そのとき、母なる海(オーシャン)に抱かれて一つになった気がしたといってました」
お前は詩人か?哲学者か?
彩 「でも、その日は丁度クラゲの大量発生の日でした。そして、何故かクラゲは橘さんの股間だけを狙い、刺しました。結果、病院に運ばれていったそうです」
話は終わった。
祐一「悲劇…だな」
こみ上げてくる笑いをこらえながら言う。
彩 「喜劇の間違いでしょう?」
祐一「…くくく……言うな。わかっててもそんなこと言うな。あいつと会ったとき笑っちまいそうだ」
あー……も、ダメ。
この笑いは抑えられそうにねえや。
祐一「で、笑いとおしてもう夕方か」
かなり無駄な時間をすごした気がする。
いや、月代の笑顔が見られたんだ。そう無駄でもなかったな。
彩 「帰りますか?」
祐一「いや、まだだ」
月代の提案を一蹴する。
祐一「買い物行くぞ」
彩 「どこにですか?」
祐一「MINだ」
低温殺菌牛乳を取り扱うスーパーでここから比較的近い場所にある。
停めておいたドマーニに乗り、ゴーグルだけをかけた。
彩 「ヘルメットは?」
祐一「野暮」
俺はエンジンを始動させ、十分に温まった頃にスロットルを限界まで入れた。
タコメーターの針は一瞬でレッドに突入した。
彩 「お願いします!!減速してください!!」
祐一「お断り!!」
月代の叫びを残して、ドマーニは一路MINへ。
祐一「やっぱ夜の海でやるのはこれだろ?」
そう言って購入したのは売れ残りの花火。
で、線香花火しかなかった。
ま、派手なのを買っても盛り上がりはしないだろうという共通見解もあるが。
彩 「やはり、花火といえば昔からこれですね」
月代はどことなく楽しそうだ。
いや、本当に楽しいんじゃないかと思う。
そうだな。考えてなかったけど、月代にだって幼少期はあったはず。
なら、こうしたちょっとした楽しみだって経験してきたんだろうな。
そんなことを考えながら、別のことを思う。
本当に、俺はこの街の事を誰よりも知ってるからという理由だけで月代を誘ったのだろうか?
何か別の理由があったんじゃないだろうか?
祐一「あ…」
火が…線香花火の火が落ちた。
セナ「つぎでデート編が終わります」
望 「そうですか」
セナ「次回は規約に触れない程度に気をつけないとね」