Miracle tea
process 11 She fears blood.
今日、九月堂に来たのにはいくつかの理由がある。
一つは、月代の見舞い。
昨夜、やたらと殴打したので怪我ぐらいしただろうから。
二つ目は茶葉の購入。
改善点の研究をしていたら、殆どなくなっていたからだ。
三つ目は、今のお茶を飲んでもらうこと。
最初、俺と月代にはそれだけしかなかったのだから。
四つ目はちょっとした頼みごと。
ずっと駆け回っていたおかげで、結構迷子になったりしてたからかなりやばい。
だから、案内を頼もうかと思っていた。
で、今三つ目まで終了。
彩
「そうですね……葉はもう少し蒸らしてもいいかもしれませんね。それから……」
俺は月代の言葉をメモしていく。
美味しいが、まだ欠点は多かった。
あゆ 「へぇ〜…これがまだ美味しくなるんだ……」
あゆが感心したように呟く。
彩
「そうですよ。と言っても、ここまで拘っているのは私以外では相沢さんしかいないんですけどね」
そう言って月代は笑った。
ごく自然な笑顔だった。
祐一「もうない……まだ飲むか?」
急須の中を確かめて、効いてみる。
あゆも月代も頷いた。
俺は立ち上がり、さっき言われたとおりに淹れようと、小袋の口を切った。
祐一「っ!」
紙袋だったため、指先を軽く切った。
微量だったが、血が流れてた。
彩 「どうかしましたか?」
月代が――何か用意しようと思ったのだろう、すぐ傍の冷蔵庫の前にいた。
祐一「いや、紙で指先を切っちゃってね。ほら」
俺はそう言って月代に指先を見せた。
別に他意はない。
指をくわえてくれ、何て意味はない。…多分。
彩 「あ……」
月代はその顔を恐怖で染めていた。
顔色は白を通り過ぎて蒼く、体は小刻みに震え、凍えているかのように両腕で自分の体を抱いている。
俺は少し考えた。
普段、指を見せるだけでではこういうことにはならない。
なら何が違う?
刃物は違う。持ってないし、刀を持ってても怯えたりはしなかった。
今は指を見せているだけ。
指と、指に付着した……
血だ!!
結論に辿り着き、俺は慌てて指を洗い、血を流した。
祐一「もしかして、血が怖かったのか?」
確信を抱きつつも、確認する。
彩 「はい…血や、血を連想させるものが苦手なんです」
月代は静かに息をついた。
俺は、血が完全にとまったことを確認して、四つ目の用件を切り出すことにした。
祐一「なぁ、明日って休日だよな…」
彩 「個人事業主に休みはありません」
きっぱりと言われた。
祐一「そうじゃなくて、世間一般の定義のお話」
彩 「そうですね」
またしても、きっぱりと言われた。
少しだけ悲しくなる。
祐一「明日か明後日、ちょっと付き合ってくれないかな?」
彩 「何にですか?」
祐一「いや、この前さ、この街で迷子になっちまってさ。だから、俺の知る限りで、この街に最も詳しい月代に案内を頼みたいんだ」
言ってから思う。
何を口説いてるんだ、と。
さすがに、こんなんじゃ無理だろうな。
彩 「いいですよ」
え?
祐一「今…何て言った?」
彩 「いいですよ、と言ったんです」
俺は嬉しくなって、つい大声で叫んでしまった。
そして、明日の午前九時に迎えに来る、と約束した。
セナ「彩の怪我に全く触れてないことに気付いた」
祐一「馬鹿じゃねぇか」
セナ「タイトルのまんまなんだけど、最終的には伏線殺しになっちゃったんだよなぁ」