Miracle tea
process10 対面
あれから一夜明けて、学校。
俺にはちょっとした悩みがあった。
勤
「何や、どないしたんや?悪そうな頭抱えて」
………ムカつく訊かれかただな。
もっとも、全国模試で二桁の順位をキープできるこいつと比べると悪いのは確かだけど。
祐一「お前よりは悪いが、そこまで悪くないぞ」
橘を睨みながら返す。
勤
「なら、春に返ってきた全国模試も順位、聞かせてみいや」
祐一「藤原基経、関白となる」
俺は迷わずにそう言った。
勤
「何で、そんなマイナーなネタつこうとんねん。まだ、真のほうがわかりやすかったで。
素直に887位て言うたらええやんか。真みたいに、アポロ11号が月面着陸した年×10みたいなこと言わへんでも…」
橘も迷わずに返してきた。
少しは迷え。
祐一「そこまで悪くないだろう?」
勤
「まぁな。あのブンドキ女みたいにガリ勉ちゅうわけでもないしな」
祐一「おい、そんなこと言ってると、血の雨が降るぞ」
一応、説明はしておこう。
『ブンドキ女』とは、勤曰く、紫光院のことらしい。
もっとも、そう呼ぶのは橘だけで、言った後にどうなるかは……
霞
「ちょっと勤、誰がブンドキ女ですって!!」
以下数十行、検閲の結果削除!!!!
とても、口で説明できることじゃない。
ただ、後日、勤が川の向こうで手を振っているご先祖様を見たとか言っていた。
霞
「それで、何か悩みでもあるの?」
やはり、誰でも気付くものらしい。
ちなみに、俺の悩みはどうやって月代に怪我させたことを本人に謝るか、である。
祐一「怪我人に、薬持ってったら喜ぶと思うか?」
何となく、訊いてみる。
霞
「あまり喜ばないと思うわ。殆どの場合、自分でどうにかしてると思うから」
祐一「だよな…」
俺は更に悩むことになった。
そして、帰り道。
今日はあゆと2人だけ。
今更だけど、わかばが襲われたときのことって誰にも言ってないよな。
ま、いいか。
祐一「なぁ、あゆ」
あゆ 「何?」
声をかけると笑顔で振り向くあゆ。
というか、あゆの場合、笑っていることのほうが圧倒的に多いけど。
祐一「今から、あのお茶の仕入先に行くか?」
どれだけ悩んでも、考えても、俺が月代にできることは一つしかなかった。
お茶を淹れること。
昼間の俺たちを繋ぐものはそれだけしかない。
だから、俺はそこに拘ることに決めた。
祐一「新しい葉も欲しいしな」
あゆ 「うん!行くよ!」
あからさまに嬉しそうなあゆ。
あゆと月代。
体型は似てるけど、性格はまるで違うんだよな。
そんなことを思いながら空を見上げた。
飛行船が飛んでいる。
いつもこの街の上を飛び、どこかへ消えていく飛行船。
祐一「…!?」
一瞬、ほんの一瞬のことだった。
飛行船が歪んで見えた。
目を擦ってみた。
飛行船は、普段と変わらぬ姿で俺の目に写った。
祐一「何だったんだ…?」
疑問を振り払い、俺は先に行くあゆを追った。
九月堂。
やはり、客はいない。
あゆ 「ここ?」
祐一「ああ」
頷いて、店内に足を踏み入れる。
彩 「いらっしゃいませ、相沢さん。
それと…そちらの方が先日仰っていた月宮
あゆさんですね」
俺は軽く頷いて、あゆをつき白のほうへと突き飛ばした。無論、軽くだが…
あゆ 「わっ!?」
あゆは驚きながらも、月代の手前で停止した。
彩 「初めまして、月代
彩といいます」
あゆ 「あ……初めまして。ボクは、月宮
あゆです………」
セナ「目標の半分に到達」
彩 「よくそんな呑気に言っていられますね」
セナ「う…」
彩 「この話、病室で書いていた話でしたよね?」
セナ「……はい」
彩 「この時点でまだ治っていないわけですし」