Miracle tea
process 08 鳴風
秋人、その存在
あの夜から3日が過ぎた。
そして、月代との賭けは、俺のほうが分が悪い。これまで、2回負けているのだ。
もう後がない。
ここで勝たなきゃ意味がないんだ。
とは言っても、見つけられなきゃ意味ないんだよな。
それは偶然だった。
当てもなく走り回っていたとき、月代と戦っている男性を見かけた。
祐一「俺の勝ちだ」
俺は、舞に返すことなく持ってきてしまった刀を抜いた。
鞘は捨てない。
そして、疾走。
祐一「ちぃ!!」
下から潜りこむ形で、振り下ろされる刀を受け止めた。
彩
「賭けの適用ですか。しかし、こればかりは賭けを適用させるわけにはいかないんです。
邪魔しないでください」
祐一「どくものか…何があっても、この賭けを適用させるまではな」
無理な体勢で受けている分だけ、こっちが不利だ……!
そう判断した俺は、刀の刃を傾け、月代の刀を流した。
彩
「お座敷剣道の動きではないですね。あそこで、甘んじて受けつづける以外の選択をされるとは思いませんでした」
俺は月代の言葉には耳を傾けず、鞘を握り締めた。
そして、納刀する。
こちらの意図に気付かれるわけにはいかないから。
彩 「いきます」
月代が走る。
横一閃。
すぐさま抜刀し、その斬撃を受ける。
月代は両手持ち、俺は片手持ち。
互いの斬撃を止めている均衡はすぐに崩れる。
祐一「でぁあっ!!」
均衡の崩れる前に、空いた手で持っていた鞘を使い、打撃を加える。
彩 「っ!?」
月代は刀を取り落とした。ここで拾われたら元も子もない。
俺は峰打ちで追撃を仕掛ける。
俺の意図は、月代を刀から引き離すこと。
さらに引き離すために、鞘でもう一度打撃。
その直後、月代の額に切っ先を突きつける。
祐一「もう一度言おう。賭けは適用だ」
彩
「……わかりました。今日はこれで退きます」
そう言って、月代は刀を拾うことなく去って行った。
??「君は…?」
月代と戦っていた男性は、かつて九月堂の前ですれ違った人だった。
祐一「相沢祐一、といいます。彼女と、とある賭けをした者です」
??「相沢……祐一?」
男性は首を傾げた。
それは、何かを思い出そう、というような仕種。
??「君は…みなもを知っているかい?」
祐一「みなも?鳴風みなもですか?」
質問の意味がわからなかったが、取り敢えず答える。
??「成る程……君が………」
よくわからないが、この人は俺の名前を知っているらしい。
どこで知ったかは見当もつかないが。
??「僕は鳴風 秋人。彼女の、鳴風
みなもの出来の悪い父親だよ」
そう言った男性――鳴風さんは火のついていないタバコを咥えた。
祐一「火…つけないんですか?」
秋人「妻との約束でね。でも、もう2回くらい破った約束だけどね」
祐一「もう意味ないじゃないですか」
2人で苦笑する。
初対面、ではないが、それに等しい人間とここまで親しく話せるということに、我ながら感心してみせる。
しかし、気になることもあった。
月代が、頑なに賭けを適用させなかった理由。
この人を見る限りでは、その理由に見当はつかない。
しかし、昨日立てた仮説。それを信じるとしたら……
祐一「これから時間ありますか?」
秋人「君の存在が、琴葉の予知を変えてしまったから、時間は腐るほどにあるよ。何か、大事な話でもあるのかい?」
俺は首を縦に振った。
祐一「彼女についてです」
月代について。
今のうちに知っておきたいことがあった。
そして、この人はその答えを知っている。その確信があった。
秋人「どうして僕に訊くんだい?
彼女に直接聞いてみてもよかったんじゃないかな?」
祐一「自分の立てた仮説を訊いて欲しいからです。その仮説を証明したいんです。
そのために、客観的な意見が必要なんです。その意見を言えるのは、あなたなんです。
協力していただけますか?」
個人的な願望。
賭けの内容を超越したこと。
それでも、望む。
祐一「彼女…月代
彩はいつからか年をとっていない。
今は、俺には想像も出来ないような時間を生きている」
後書き
セナ「20話くらいいきたいかな」
彩 「そうですか」
セナ「まぁ、このまま終わりへ一直線というわけじゃないから大丈夫だと思うけど」