Miracle tea
process 07 知りたくなかった
One dayにいる間、結局俺は鳴風と話すことはなかった。
みんなが帰り、あゆにも先に帰ってもらった。
何となく、一人で残ってみたくなったのだ。
望
「本当にいいんですか?閉店時間までいても」
忘れかけてたな。
望とわかばはここでバイトをしている。
だから、あの時俺たちを残して先に入っていったのだ。
祐一「いいんだ。少し、落ち着いてから訊きたいことがあるから」
結局、閉店まで居座ったが、望は用があると言うので途中で帰っていった。
それでいいのか、マスターよ。
わかば「終わりましたわ」
わかばが店から出てきた。
俺は背を預けていた壁から身を引き剥がし、閉じていた目を開く。
もう、かなり暗くなっている。
見える光は、街灯、民家の明かりと、月明かりぐらいだった。
わかば「何を、話したいんですの?」
祐一「鳴風について」
天を仰ぎながら答える。
祐一「俺は彼女に嫌われているんじゃないか、と思ってね。
君から見てどうだった?」
嘘、だ。
別に鳴風についてそんなに深く気にしているわけじゃない。
ただ、こうやってここを歩く。
そうしたほうがいいのではないか、という直感があっただけだ。
たった、それだけのこと。
わかば「嫌っている、というわけではなさそうでしたわ。
今は、もっと別のことで気を病んでいますので、相沢さんに構っていられなかったのだと思いますの」
深くは気にしていないが、気にしてないわけじゃない。
そういった意味でわかばの言葉は参考になった。
仲の悪い知人はいないほうがいい。
時間も時間なので、わかばを家まで送り届けることにした。
それに、送り狼になるつもりもない。
そんなことを考えながら、細い、石畳の道を歩く。
祐一「こんなメルヘンチックな街が、日本にあるなんて初めて知ったな、俺は」
沈黙しているのもどうかと思い、どうでもいいことで話し掛ける。
わかば「そうですか?私は風音より出たことがありませんのでわかりませんわ」
不思議な違和感。
橘も紫光院も、風音から出たことはない、と言っていた。
全体的に見ても、風音から出て行くものは少ないらしい。
そして、『ちから』。
あんな人知を超えたものがどうして知られていない?
そんなことが、気になってしょうがなかった。
でも、それ以前に…
祐一「下がって」
わかば「…え?」
視界に入った、銀光。
気付けば風が吹き、月は隠れていた。
その代わりに、銀光は三日月のように光っていた。
わかば「…あなた、月代さん?」
祐一「いいから下がっていろ」
銀光の持ち主、月代彩は感情のこもらない目でこっちを見ている。
彩
「相沢さん、どいてください。あなたに用はありません」
銀光…刀の切っ先が俺に向けられる。
しかし、そこに明確な殺意は感じられない。
祐一「どかない。君にどんな事情があったにせよ、その刃は振らせない」
彩
「人道家ですね。ですが、ここで私を止めることのほうが悲劇を増やすことになるんですよ。
ですから、どいてください」
刃は俺の目と鼻の先。
月代が後一歩踏み出すだけで俺に突き刺さるだろう。
でも、どかない。
祐一「俺が邪魔なら俺を斬っていけ。
出来ないなら退け。
俺はどかない」
俺は手を広げた。
斬られそうになったら抵抗はするし、逃げもするだろう。
しかし、俺の後ろにいるわかばをここで見捨てるわけには行かない。
わかばが無事に帰ってくることを彼女の家族が、真が、その他の友人らが望んでいるのだから。
そして、それは俺にも言えることだ。
だから、斬られるつもりはない。
祐一「来るのか……来ないのか、どっちだ?」
自分の感情、恐怖を押し殺しながら言う。
彩 「いいでしょう。
ですが、私にも役割と言うものがあります。
ですから、1つ……賭けをしませんか?」
祐一「…賭け?」
この状況で出てくることのないような言葉に戸惑いながら訊き返す。
彩 「昼は誰も斬りません。
夜、7時から10時の3時間以内に私を見つけられたらあなたの勝ちです。
3日連続でどちらかが勝利すればそちらの勝ちです。
言い忘れてましたが、私の勝利条件はあなたに見つからないことです。
私が勝てば、私はあなたを斬ります。
あなたはどうしますか?」
祐一「そんなもの、考えるまでもない」
俺は半身下がって、笑った。
祐一「嫌だと言おうが何だろうが、お茶を飲ませつづける。
ただ、それだけだ」
セナ「わかばの扱いって難しい」
望 「どうしてですか?」
セナ「語尾が同じ言葉ばかりになっちゃって」
望 「そうですか」
セナ「何?その妙に淡白な反応は?」