Miracle tea

process1 九月堂という店














   9月。

   夏休みが明けて、また学校が始まる時期。

   俺、相沢祐一は海外から帰ってきた家族と、目を覚ましてリハビリが完了したあゆと共に、ここ、風音市へと引っ越してきた。

   始業式からは数日過ぎているが、俺はまだ学校には行っていない。

   そんな日が、俺の風音初日だった。
























祐一「こんなとこに店があるのか…」

   近所ぐらいは覚えてしまおうと思って、散歩をしていた俺は小さな店を見つけた。

   九月堂。

   それが店の名前だった。

祐一「行ってみるか」

   俺は軽い興味を覚え、入ってみることにした。

   今にして思えば、あの北の街でのように、大きな事象に関わることになるとは思っていなかった。

   このときの俺の行動は、何気ない行動が後の人生を左右するようになるなんて思ってもみなかった。


   ”キィ…”


   静かな音を立てて扉が開いた。

   店内は綺麗に片付けられていて、好感が持てた。

   しかし、品物に統一感がなかった。

祐一「…雑貨屋、といったところか」

   店内を見回してから呟いた。

   しかし、店員の姿は見えなかった。

??「ナー…」

   足元で何かが鳴いていた。

   それは、猫のように見えたが、「ナー」と鳴いていたから、違う生き物ではないかと思った。

祐一「お前は猫なのか?」

??「ナー」

   何故か、「そうだ」と言っているように聞こえた。

   いや、本当にそうだと言っているのだろう。

??「…お客さん、ですか?」

   猫(?)と話をしていて気付かなかったが、いつの間にやら店内には女の子がいた。

祐一「多分、ね」

   欲しいものがなかったら冷やかしになる。

   流石に、客のいない店でそれは気が引けたから、強引にでも欲しいものを探していた。

女の子「何かお探しですか?」

   言葉だけは丁寧だった。

   というのも、口調に刺が感じられたからだ。

祐一「このお手玉は、非売品で大事なものなんじゃないか?」

   女の子の問いには答えずに、俺自身が気になっていたことを訊いてみた。

   棚の上には、かなり古ぼけたお手玉が置かれていた。

女の子「触っていませんね?」

祐一「今のところは。君がだめだと言うならこれからも」

   俺は肩を竦めて見せた。

   女の子はホッとしたような表情を見せた。

祐一「で、何かお勧めのものはないかな?いいな、と思えば買って帰るよ」

女の子「そうですね……では、この『どんなことがあっても、決して割れない壷』は?」

   そう言って、女の子は1つの壷を指差していた。

祐一「それは、パス」

女の子「では、この『腕を入れると、抜けなくなる壷』は?」

   女の子はまた別の壷を指差した。

祐一「う〜ん……壷はパス。他にないかな?」

   マンション暮らしだから、嵩張るものは買いたくなかった。

   たとえ、安くても。

祐一「できれば、消耗品がいいかな……?」

   また来てみたいと思ったからこんなことを言ったのかもしれない。

女の子「では、これはどうですか?」

   女の子は小さな袋を取り出した。

   その中には乾いた葉が入っていた。

   多分、お茶だと思っていたし、それは正解だった。

女の子「このお茶は分量を間違えるととても苦くなるんです。
    では、分量ですが……」

祐一「ちょっと待った。教えないでくれないか」

   俺は女の子を止めた。

   この難しいお茶で、女の子に完璧だと言わせたかった。

   それも、自分の力で。

祐一「明日、もう一度来るよ。それまでに美味しく淹れられるようにする。
   それで、君の評価が聞きたいんだ」

   女の子は少し考える素振りを見せた。

   そして、

女の子「いいですよ」

   と、答えてくれた。

   俺は多めに買った。

   それから、店を出た。

祐一「さて、帰って頑張ってみるかな」

   俺は店の外に出てから男の人とすれ違った。

男の人「九月堂……待宵月の意か………」

   火のついていないタバコを咥えた男の人は去って行った。

   俺はそれを特に気にするでもなく家に戻った。
























後書き

セナ「こっちには初になるかな」

祐一「そうだな」

セナ「一応、Wind第2部の再構成になるのかな、祐一を使った」

祐一「つまり、イレギュラーの発生したWindということか」

セナ「そういうこと」