SS作家の朝は遅い。
携帯のアラームをセットしてたのはいいものの、
寝てる間に電池が切れていて目が覚めたのは午前11時。
まぁ昨晩はずっと草動画でU局アニメ見てて、寝たのが朝の5時とかだから
アラームがきちんと鳴ったところで起きれていないような気もするが。
「……だりいな」
その一言で、午前中の講義をサボることに決定。
もぞもぞと布団から這い出して、まずはPCの電源を入れた。
「……」
OSが立ち上がるまでの間に、足の踏み場のない部屋をトイレに向けて移動する。
男の1人暮らしなんて部屋は汚れてナンボという部分もあるが、
先日畳からエノキダケっぽい生命体が芽吹いていた時には、さすがに俺もどうかとは思った。
でも思うだけで結局掃除なんてしないのだが。
用を足した後、ちょうどXPが立ち上がったばかりのPCの前に戻り、
枕元に置いてある未開封のスナック菓子の封を切り、朝食代わりにボリボリとむさぼる。
カロリーなんて気にしない。だってもう手遅れだもの。
人間、ある程度の体重になると諦めがつくようになるものだ。
それはさておき、朝の日課のメールチェック。
昨日久々に新作をアップしたばかりから、今日当たりは何通か感想等が来てると思うのだが……
「……」
新着メールは122通。そのうちスパムが121通。
残りの1通はプロバイダからのお知らせメール。来週の水曜に鯖メンテだって。
……フッ、みんなまだ更新したことに気付いてないんだな、きっと。
それに掲示板とかWEB拍手の方が感想も書きやすいし。うん。
そう思い、自サイトの掲示板及び拍手を見てみるのだが……
「……別に焦んなくてもいいだろ、俺」
ブラウザを閉じ、意味もなくテレビのスイッチを入れる。
あー郁恵とジローラモが料理作ってんな。俺もこっちに来た当初は料理作ってたっけな。
部屋の隅に転がってある、炭酸の抜けたコーラをペットボトルのまま直飲みする。
昼飯買いに行くついでに、冷えた炭酸飲料買いだめしてくるかね。
そんなこんなで朝の怠惰な時間を過ごす、俺の名前は上城秀一(かみしろしゅういち)。
こう見えて立派なSS作家だ。
〜SS作家絶望伝〜
11時半。床に転がってあるスラックスを穿き、徒歩5分の位置にあるスーパーへと出かける。
そこで安売りの弁当と2リットルペットのコーラを2本購入し帰宅。
お昼の民放ニュースをBGMに朝食兼用の昼ごはんを摂る。
「……だりいな」
その一言で、昼の1時からの講義をこれまたサボることに決定。
どうせあの授業既に出席日数満たしてないんだ。今から出たところで手遅れだし。
弁当箱を空にしたところで、再度ブラウザを立ち上げる。
まぁ相変わらず掲示板には業者からの書き込みすらないんだけど、でもそんなの関係ねぇ
エロゲ関連の情報が充実した個人ニュースサイトに目を通す。
「延期かー。まぁ予想してたけどね」
そんな感じの独り言が、薄暗い6畳の部屋にか細く響き渡る。
築35年、家賃1万5000円のこの日当たり最悪ボロアパートには、
2つ隣の部屋に冴えない中年男性がいるだけっぽいので多少騒いでも問題はない。
友人でも呼んで夜通し鍋パーティなんてやるにはもってこいの環境だとは思う。
まぁ、友人がいればの話だがな。
午後1時。大学の講義は始まったが、俺は家にいる。
起きてからつけっぱなしのテレビからは、小堺一機の軽妙なトークが聞こえてくる。
それをBGMに俺は2chブラウザを立ち上げた。
そして真っ先に向かうは二次創作関連のスレ。
俺の作品に関する話題が出ていないか、しらみつぶしにチェックするのが日課となっている。
……まぁ日参30ヒット程度の弱小SSサイトの作品が晒されるとは到底思えないが、
それでも持ち前の臆病さから、どうしても確認せずにはいられないのだ。
「……ハハハ、また本人来てるなコレ。ハイハイ乙、っと」
あとスレ住人として、主に叩き系のスレに常駐している。
調子乗ってる大手が居ようものなら、ここぞとばかりに掲示板へ凸したり、
そんな行為が楽しくて仕方がない。俺より有名な奴みんな潰れてまえ。
……と言うのは建前で、こうしたスレを覗いていることにより
非難されやすいSSというのがある程度分かってくるので、
その辺の勉強の為に居ついているというのが本当の理由だ。
「そんなことより今すぐzipでよこすんだ」
おっとこれは別の用事。
そんな作業が2時間ほど続き、気が付けば午後の3時半。
4時からまた講義が入っているが、もうここまで休んだんだから
今日は一日オフでいいよな。
そんな調子で結局今週一週間、一回も大学行ってないけどさ。
さすがに平日のこの時間じゃどのスレも伸びないので、
ボチボチSS執筆に取り掛かる。
昨日寝る前に思いついたネタがあるんだ。
ハリーポッターとのクロスオーバー。
主人公を魔法学園に放り込んで、
ハーマイオニー以外のヒロインを、元の作品から引っ張り込んで。
まぁハリーの原作一切読んだことないんだけど、
そこはホラ、とりあえず主人公最強にしておけば何とでもなるでしょ。
「で、全50話くらいの一大冒険スペクタクル……」
各界から大注目間違い無しだな、こりゃ。
己の発想力に惚れ惚れするわ、ホント。
――――――10分後。
「あーやっぱり先に無人島の方書いておくか」
5行ほどメモ帳に打ち込んだところで完全に行き詰ったので、
先週書き始めた無人島サバイバルモノの執筆を先に済ませようかと思う。
これも容量にして2KBほどに留まってるのだが、今日はなんとなく書けそうな気がする。
「1時間くらい集中して書けばそれなりの文量にはなるだろ」
――――――1時間後。
「バロスwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
確かにキーボードは叩いているが、出力先はメモ帳ではなくニコ動の方。
やっぱり今日は調子が悪いわと10分くらいで悟ったので、
大人しく弾幕生成作業に勤しんでいるのだ。
もうどういうエンディングにするかは決まってるし、始め方だって構想は練りあがっている。
だけど起承転結で言う承転の部分がまるで思い浮かばないんだよなぁー
「そんな時は気分転換に限る」
まぁ昨日一応別の作品だけどサイトにはアップしたんだ。
今日はオフでもいいだろう。良くやった、俺。
カーテンの隙間から、赤い西日が部屋に差し込み始めていた。
午後7時。昼を買ったのと同じスーパーで弁当を購入。
そのまま帰宅して昔のアニメ(ニコ動)をBGMに晩御飯を頂く。
「……明日銀行で金下ろしてこないとな」
清算の時に気付いたのだが、そろそろ財布の中身がチンチラポッポだった。
預金の残もそれほどなかったと思うので、明日の晩辺りに一回実家へ電話入れないとな。
「とりあえず5万くらいでお願いするかー」
実家を離れ、県外で1人暮らしを行っている俺の生活を支えているのは両親からの仕送りだ。
アルバイトは特にしたいとは思わない。
第一にめんどくさいし、あとあまり人と接したくないし、
それより何より執筆作業が忙しくてそんなことやってる暇なんて無いのだ。
俺が書いてるのはSSだけじゃないしな。
床に落ちてある一枚の紙を拾い上げる。
『ライトノベル新人賞大募集』
「来月締め切りか……」
自分で言うのも何か自慢みたいでアレだけど、
俺には人より相当な文才が備わっていると思う。
そんな才能を生かすためには、そう、商業作家としてデビューするのが一番。
そのためSSと平行しながら、投稿用の冒険活劇ラブファンタジーを執筆してたりするのだ。
ただ締め切りを来月末に控えながら、現在出来上がっているのは全体の構想だけ。
厳密にはまだ本文は1文字も打ち込んでいないのだけれども。
でもまぁ何とかなるでしょ。昔から一夜漬けとか得意な子だったし。
半年前の他社の新人賞には間に合わなかったけど、今度こそは大丈夫な筈だ。
きっと来年の今頃には、書店に俺の作品が平積みで並んでいることだろうよ。
「デビューさえしてしまえば、大学なんて中退してやっても構わないしな」
それ以前に留年2回繰り返してるので、
そろそろ退学の危機も考えなければいけないのが現状ではあるが。
午後10時、再びサイト&メール&スレチェック。
その後近所のコンビニに夜食のスナック菓子を調達しに行った後、
また今夜もアニメの鑑賞作業(PCで)へと移る。
地方だからテレ東系列映んないからなぁ。
このアニメ鑑賞も将来のための1ステップ。
話の特性やキャラの設定などを見ていくことは、
自ら物語を書く側としても大層有意義なことであろうと思うのだ。
どうやったら萌えるキャラクターを作り上げることが出来るのか、とか。
「ルイズルイズルイズぅううぁわぁああああ」
こうして今夜も更けていく。
そんな、とあるニートの日常。