桜が結んだ縁
激動の冬を越え、この街にも春がやってきた。
新学期を迎えるにあたり、無事進級出来た俺は、三年になった。
転校する前の学校とは違い、この街の学校では三年時にもクラス替えがあって、運悪く北川・名雪とはクラスが分かれた。一緒のクラスだったのは香里だけだった。
始業式当日、クラスが別だと判明した時の、北川と名雪の意気消沈し、その場で崩れ落ちたその様は、哀れに見えたものだった。逆に、笑顔満面だった香里にドキッとしたことは俺だけの秘密である。
栞は学校側の配慮により二年に上がれることになり、美汐と同じクラスだったと二人して喜んでいた。
あゆと真琴は残念だが、学校へ編入することは出来ず、あゆはタイヤキ屋、真琴は保育園でバイトすることになった。そして…両親のいないあゆは秋子さんに引き取られ、水瀬家の次女となり。狐から人になった真琴は、当初秋子さんが引き取ることになっていたのだが、驚いたことに美汐の両親が名乗り出て、真琴自身の決断もあり、今は天野家の居候として暮らしている。
そんなこんなで周囲の状況も変わって、学校も始まり、一転変わった生活を送ることになるはずだったが、そう問屋はおろさないのが、俺の人生であったことを痛感する。
名雪たちはクラス・学年など些細なことにしか思わないらしく、よくうちのクラスに来ては騒いでいき、昼には皆揃って、弁当を突付くことが暗黙の了解と化していた。で、放課後も律儀にやってくるのだ。
昼飯の場所は、佐祐理さんと舞とで囲んだ、あの思い出深い屋上前の遊び場だ。
この春、学校を卒業し、大学へと進学。念願の二人暮しを叶えた佐祐理さんと舞。
彼女たちにもう学校で会えないのは悲しいな、と。感慨深く思っていたのだが、ちゃっかりというかなんというか……平然と侵入して、俺たちが来るよりも早く弁当を食べていたことには驚いた。
……嬉しかったんだけどな。
そういった状況なので、俺の周りには絶えず名雪たちがいる。俺も寂しいのは嫌いだから、これはこれでいいかと思って、楽観していたのだが……予想以上に辛いことが判明した。
男一人という状況を好ましく思うようになったと言えばいいのか……一人でいる時間が欲しいと願うようになっていったんだな、これがまた。
で、俺は数日でもいいから、一人になる時間を作ろうと、この前、商店街で見つけたある物を使って壮大な計画を立てたのだった――。
「って、祐一くん。さっきから何ブツブツ言っているの?」
「あゆあゆよ……こういう場合はスルーするのが人の道というものだ」
うぐうぐ言いながら首を捻っているあゆに俺はデコピンをかました。
「うぐぅ! 何すんだよ!」
額を抑えながら、眦に涙を溜めて抗議するあゆ。
「……これ以上痛い思いをしたくなかったら、人のモノローグに口を挟むなよ」
「ものろーぐ?」
「…………秋子さんにでも聞いて来い」
「うん! そうするよ!」
先程まで抗議していたあゆだったが、素直にこっちの言うこと聞いてしまうあの犬のような性格に、お兄さんちょっと心配。
ここは居候先の水瀬家のリビング。今だ、水瀬家にいるのかと言うツッコミは勘弁だ。家がまだ出来てないんだよ。両親は春には出来ると言っていたのだが……まぁ、一人暮らしにも憧れるが、そうなると秋子さんの飯をご相伴できなくなるからなぁ。
で、現在の時刻はそろそろ12時になる。名雪はすでに眠りに入っている。我が従妹ながら、あの寝付きの速さと比例しない寝起きの悪さには呆れてしまう。だって、小学生じゃないんだぜ? 早いと言うか、早すぎるだろ?
万年寝雪太郎のことは放って置いて、俺もそろそろ寝ないとまずい。名雪とクラスが違うのに、朝のマラソン登校は今だ続いているのだ。夜更かししずぎると、体力が持たんからな。まぁ、春先とはいえ、夜は冷え込むから、今体調を崩すわけにはいかんのだよ、ふふっ。
「秋子さん! 俺、寝るんで、おやすみなさい!」
キッチンで片付けものをしている秋子さんに挨拶すると、秋子さんはそこから顔を出して返事を返してくれた。
「おやすみなさい、祐一さん。ほら、あゆも寝なさい。明日バイトでしょ?」
「うぐぅ……そうだったよ。おやすみなさい、秋子さん!」
そう秋子さんに促されたあゆをお供に二階の自室に戻った。
あゆの自室は真琴が使っていた部屋である。
「あゆ、おやすみ」
「おやすみなさい、祐一くん!」
階段を上がった先で、あゆと別れ、自室へと入る。
「さむっ!」
ドアを開けると冷たい風が風呂上りの身体を冷そうと牙を向いてきた。
「くそっ! 窓空いているじゃねーか! 誰が空けたんだよ、チキショー!」
自室なのだから、当然窓を開けたのは俺だ。犯人がいるわけではないんだが、ここでボケなきゃ相沢の名が廃る! という、わけはない。やはり、前々から名雪たちに言われていたようにちょっと浮かれ気味なのが、自分でも分かる。
あいつらからすれば、俺は分かりやすい性格をしているらしいから、アレがバレんように気をつけなければ。
俺は新たに気持ちを引き締めると、ベットに潜り込んだ。
窓を開けていた所為で、冷たくなった布団にブルついたが、横になったらすぐ睡魔が襲ってきた。今日は抵抗しないで、身を任すことにしよう。
おやすみなさい……ぐぅ。
「名雪ぃ! さっさと行くぞ!」
「待ってよ! 祐一!」
さすがに二人揃って早く寝ようが、この朝の騒動は変わらないのだ。
テーブルでノンビリ朝飯を食べて幸せそうな顔をしたあゆが憎かった……普段ならな。
「では、いってきます!」
実の娘の変わらぬ行動に、あらあらとこれまたいつものように頬に手を当てている秋子さんに玄関先で敬礼する。
「はい、車に気を付けてくださいね?」
「任して下さい! 槍が降ろうが、何が振ろうが! 不肖、相沢祐一! 無事、学び舎まで到着する次第であります!」
「ふふふ、いってらっしゃい」
「いってきます!」
再び秋子さんに敬礼。
「名雪! 先に行ってるからなぁー!!」
まだもたもたしている名雪に声を掛けて、俺は水瀬家を飛びだした。
しつこいようだが、この頃気分が良い。なので、足の速さも心持ち三倍である。
ふははは、時が見えるぞ!
「祐一ぃ! 極悪だお〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
名雪の叫び声をBGM代わりに、俺は風になった(笑
「祐一!」
俺が全速で走っていると、後ろから声を掛けられる。
足を止めずに、そのまま器用に首だけ後方へと振り向くと、まるで土煙を出しそうな勢いで走ってくる名雪の姿が目に映る。
さすがに陸上部部長は伊達ではないな。本気で走ってたのにもう追いつくとは祐ちゃんショック!
「う〜、祐一極悪だよ。私を置いてくなんて」
こちらを睨みながら批判しているが、相変わらず迫力のない奴。舞とか香里とか美汐の冷徹な視線を受けている俺には通用せんぞ?
「しょうがないだろ? 三年に上がったんだから、遅刻のデッドラインとか呼ばれたくねーし。今年は受験だからな、内申がいい方が有利だからな」
一応、進学希望だから、内申は良くないと不味い。推薦枠を取る気はないから、神経質にならなくてもいいんだが、遅刻が少ない方がいいのに越したことはない。
置いてくっていったって、いいじゃねぇか。数分なら追いつくんだかさ。名雪の奴。
「ほら! 何時までも唸っていないでスピードあげるぞ!」
「うー、何かごまかされたような気がするよ」
「気のせいだって」
まだ置いていったことに根を持つ名雪を宥めながら、俺は宣言通りスピードをあげた。
どうでもいいが、ぶちぶち言いながら走るのは気味悪いぞ? 名雪。
今日は時間が早い方なのか。不本意だが、デッドラインを形成している俺たちを見ても走り出す生徒はいなかった。スピードを落とそうかと思ったが、もう視界に校門が見えるのでそのまま走ることにした。
ゲタ箱で上履きに履き替え、階段を上がる。で、スタコラと階段を上り、教室へと向かう。
当然、クラスが違う名雪とはここで分かれることになる。
「じゃ、寝るなよ? 名雪?」
「私、寝てないよ?」
祐一じゃないんだからと言ってくるこの従妹……自覚がないのは幸せだな。
まぁいいかと思いながら、毎度、律儀に手を振ってくる名雪向かって適当に手を振りながら分かれた。
自分の教室に向かう中、俺の頭の中ではある出来事を思い出す。
寝ている名雪は、器用に寝言で教師の質問とか北川と香里とかと喋っている時に妙に合った返答を返すことがある。香里曰く、「この子は寝ている方が性能がいいのよ」とか言っていたので、俺は一度、名雪に聞いたこと時のことだ。
『お前、寝ているときの記憶あんの?』
『寝ている時の記憶があるわけないでしょ? 祐一、頭大丈夫?』
その時の名雪の顔は、心底、俺を心配していた。
あの哀れみの視線は、今、思い出しても納得がいかん。だが、俺はこう思った……天然は怖いな、と。
そんなことを思い出しながら、歩いていく。
ふと目の前に陰りが差し、俯き加減だった顔を上げるとそこには教室のドアがあった。
「おはよっさん!」
扉を開けながら、開口一番にクラスメートたちに朝の挨拶。
返ってくる挨拶を受け答えしながら、窓際の一番後ろの席――自分の席――に向かう。
「あら。早いじゃない?」
机の中に鞄の中身を突っ込んでいると、横手から声を掛けられた。
「朝はおはようございます、だよ? 香里」
祐一七色ボイス、その一。俺風名雪の声真似をしながら、香里に向かって言った。
「何それ? 気持ち悪いからしない方がいいわよ?」
「くっ、秋子さんに大絶賛された俺の名雪ボイスがか!?」
「……嘘でしょう?」
「……それは当方には答えることができません」
「……嘘なんでしょう?」
「……ノーコメント」
「……う・そ・で・しょ!」
「すいません……似てないと鼻で笑われました」
香里の眉がピクリと上がり、一文字一文字を強調しながら言う香里の声に、かおりん怒りメーター(by 栞)が振り切れそうだと察した俺は、即座に謝った。
「…………はぁ。最初っからそう言いなさいよね」
すると、香里は俺を見ながら、呆れたようにため息をする。
そして、次に口にしてくる言葉に、俺の心臓がバクバクするほどの思いがした。
「相変わらずというか……まだ機嫌がイイのね? 機嫌というよりは気分なのかしら?」
ぎくっ!
「ところで、相沢くん? 明日……暇なのかしら?」
ぎくぎくっ!
「な、なんでそんなことを聞きませう?」
「……話があるから、放課後にね」
香里はそう言うと、身体を前に戻し、教卓へと視線を向ける。
そこにはすでにこのクラスの担任が来ていたが、俺はそんなことを気にせずに机の上で頭を抱えた。
(マズイっ! これはひじょーにマズイ事態だ! 何かっ! 俺は何かヘマをしたのかっ! まさか、香里にバレるとはっ! いやいや、待て待て。ここは落ち着け相沢祐一。香里がアレを知っているはずがないじゃないか。もしかしたら、違うことを聞いてくるのかもしれない。まだ決定的になったわけではない。OK、OK。落ち着けマイハート)
だが、俺はその時気付くことができなかった。
教卓へと目を向けた香里が横目で、自問している俺を見ながら、我が意を得たりと口元を綻ばせた所を――。
香里が自分の考えに確信した時の癖を見せていたことを――。
香里の行動と言動に、戦々恐々しながら、放課後になった。
この一日、自身へのマインドコントロールは成功しなかったようだ。昼休みに、全員で集まった時、かなり気がつく奴には怪しげに見えたそうで、何度も『どうしたの?』と聞かれてしまった。
そんな事あるごとに香里が俺のフォローをしてくるものだから、内心かなりビビっていた。
むぅ……もしかしたら、もしかするかもしれん。
「……じゃあ、相沢くん? 帰りましょう?」
「……名雪たちは?」
「名雪は部活で、栞は病院。美汐ちゃんは真琴ちゃんと約束があるそうよ。佐祐理先輩たちも今日は来ないって、昼休み言ってたじゃない?」
話聞いていたの? と言ってくる香里に、俺は、そんな余裕はなかったんだよ! と言い返したかったのだが、これ以上墓穴を掘るのも不味い気がしたので、すんでのところで口を閉じる。
(くっ、名雪たちがいれば、うやむやに出来たかもしれんのに!)
珍しい一人きりの放課後だと言うのに、素直に喜べなかった。
「じゃあ、どこで話するんだ?」
俺は意を決して、香里の話を聞くことにした。
「百花屋は危険だから……、屋上にしましょうか?」
香里はそう言うと、俺の返事を待たずに、教室を出て行く。
(ここで帰ったら……やっぱマズイよなぁ)
先程の決意はどこに言ったのか。情けない思いを心の内に止めると、鞄を持って、香里の後を追った。
俺が屋上へと足を踏み入れた時、香里は既に来ていて、屋上のフェンスに寄りかかって、俺の登場を待っていた。用件はなんだと、俺が先に言う前に、香里が口を開いた。
「単刀直入に言うわ。相沢くん……これに見覚えあるわね?」
香里が鞄から取り出し、俺の目の前に掲げたのは薄っぺらい冊子だった。
その冊子の表紙には書いてある文字までは見えないが、大きな桜の木が前面に押し出されているのが、良く見えた。
「それがどうかしたのか?」
俺はその冊子に見覚えがありすぎるものの、今まで培ってきた強靭な精神力を使って平静を装う。
「……真面目に答えてくれると思っていたんだけどな」
香里はそう言うと、目を伏せる。
てっきり、怒鳴りながら追求するのかと思っていた俺は、そんな香里の態度に狼狽する。
それは栞のことを俺に告げたあの夜のような感じで、気丈なまでの強さを見せた美坂香里という少女が、俺だけに見せた誰かに頼る弱々しい立ち姿。
俺の心が痛みに疼く。それは自己満足のために、二度と見たくないと思った香里のこの姿をみた罪悪感からかもしれない。
「…………あたし、見たの。相沢君が、この冊子を熱心に見ながら、意気揚々としながら、そのお店に入っていくところを……」
「っ!?」
見られていたのか!? あの時!
この時、俺は確信してしまった。
香里は自分の思っていることが間違いではないと思っていると言うことを。
「べつに監視していたわけではないわっ! 偶然だったの……。それから、相沢君の様子は変わったわ」
俺は黙って香里の話に耳を傾ける。
もちろん。香里がそんなこと――監視――をしていたなど露ほど思ってはいない。
「これが原因であることは確かだと思ったわ。そして……これだけは聞いておきたかったの。これは誰と行くつもりだったの?」
香里はそれだけを聞いた。その声にいつものような覇気はなく、何かを失うことを恐れているような口調。良く見れば、香里の身体は小刻みに震えていた。
俺は言い逃れは出来ない。ちゃんと話そうと心に決めた。
「……誰とも行こうとは思っていないさ。今度連休があるだろ? その時に久しぶりに一人旅でもしようかなと思っただけなんだよ」
香里が持っているのは一枚の旅行冊子だ。
よく旅行代理店で見かける旅先のパンプレットだと思ってくれたらいい。
事の発端であるのは大体一週間前ぐらいだろう。放課後、一人で帰宅することになった俺は、どうやって暇を潰そうかと、商店街を練り歩いている途中にこれに目を引かれた。
ちょうど、ここの街から数駅行った所にある桜が満開だという名所。
冊子に映る満開の桜に魅了された俺は、その場で財布と相談し、詳しく話を聞くために、旅行代理店の中に入っていった。香里が見たのはこの時のことだろう。
そして、ちょうど連休に入る所だったんで、一人旅でもしようと決めたのだ。今言った通り誰かと行くとは考えていなかった。
そのため、連休が待ちどうしくて、わくわくする気持ちを抑えきれなかった俺はその所為で機嫌が良かったのだ。平静にしてたつもりだったが、まさか香里に見られていたなんてな。
状況というか、だいたいの話はこんなところだ。
そして、すべてを香里に話した。
「で、これが俺の計画だ。別にやましいことはないだろう?」
手を両手に挙げ、降参のポーズを取る。
(これで名雪たちにも雪崩れ式でバレるんだろうなぁ……あーあ、行く気満々だったんだがなー)
楽しみにしていた計画が、このような形で発露してしまい、頓挫するかと思うと、ちょっと気分が良くない。
「香里……話はこれだけなんだな?」
さすがに疲れた俺は、帰ろうと思い、扉の方へと踵を返した。
香里は俺の声に反応を見せず、俺もそのことを気にせずにドアノブに手を掛けたその時――
「ま、待って!」
香里が俺を呼び止めた。
「何だよ? まだ話はあるのか? 計画は残念ながら中止にするよ。連休中はお前らの相手でも何でもしてやるからよ」
虫の居所が悪いせいで、かなりつっけんどんな言葉を返してしまう。
俺のそんな声に、香里はビクリと、いけない遊びをして親に叱られた子供のように身体を震わした。
「ち、違うの……そ、そのね? あのね?」
顔を俯いたまま歯切れの悪い言葉を出す香里に俺は怪訝に思った。
「何か他にあるのか?」
何かお願いとか、別の話があるのかと思っていた俺だったが、搾り出すような香里の次の言葉に驚愕した。
「……名雪たちには言わないから……あたしと行かない? そこへ」
「泊りがけだぞ? 二人っきりだぞ?」
「……構わないわ」
「……本当にいいのか? 俺としては嬉しい申し出なんだが……」
正直、狐につかまされた思いのまま、俺は香里にしつこく念を押した。
だが、香里は首を横に振らなかった。どんなに脅し文句を言っても、何をしても。
香里の決心が固いと思った俺は、一人だけの旅行じゃないものの、行けるのなら構わないし。万々歳なのだが……本当にいいのかなぁ?
「は、話はそれだけよ! じゃ、じゃあね!」
「お、おいっ! 待てよ、香里!」
言うだけ言った香里は、俺の横を通り抜けて、さっさと屋上を出て行った。
慌てて、後を追おうとした俺だったが、擦れ違ったときに見た香里の顔が、耳まで真っ赤にさせていたのが見えたことで、伝播したのか、俺の胸の動悸も激しく高鳴っていた。
この時、誰かが俺の顔を見たら、まるでりんごのように赤いとでも言うだろう。そんなことが自分でも分かった。
「マ、マジですか?」
俺は宿直の先生が見回りに来るときまでここで固まっていた。
こうして、香里連れで旅行にいくことになった俺の計画。
連休まで、二人で綿密に調査し、計画を立案。
話が話なのだから、二人でいる時間がさらに増え、旅行当日。
地元から離れていることから、開放的気分になったのか。ちょっと恋人同士のような行動をすることになる。
お互いが嫌いでも憎くもない間柄の年頃の男女が、数日間旅行に行ったのだ。
間違いが起きない方が確率的に少なく、俺と香里も例に漏れなかった。
数日振りに、旅行先から帰ってきた俺たちは皆に報告した。
「俺たちは恋人同士になりました」と。
旅行先でどんなことがあったかは誰にも話さない。これは俺と香里だけの秘密だ。
桜が結んでくれた俺たちの縁……俺はずっと守っていきたい。
そして、二人を結んでくれたあの桜に、また来年も二人で見たい。
変わらぬ想いのまま。お互いを大切に思ったままで……。
FIN