あるお花見での出来事
ひらり
そういった言葉を連想させるように、一枚の桜の花弁が俺の目の前に舞い降りてきた。
俺はその舞い降りてきた桜をそっと拾うと
もう、あの冬は終わったんだな――――
と、改めて思う。
丘に植えられた桜の樹の下で
俺は風に吹かれながらそんな事をしみじみと感じていた。
「こんな所で何をしているのですか?」
ふと、影が俺を覆った。
顔を上げると柔らかに吹く風に、その僅かに赤みがかった髪をなびかせ立っている少女が居た。
「ん?・・・天野か」
「天野か・・・じゃないですよ。こんなところで何をしてるんですか?」
「何をしていると言われても、ただこうやって物思いにふけっているだけだぞ?」
少しおどけた風に俺が言うと
彼女は「仕方無いですね」と言う風に微笑を浮かべている
「ところで・・・天野よ」
「何ですか?」
「お前、何しに来たんだ?」
「相沢さんの姿が無かったものですから。探しに」
そう答えながら天野は俺の横に座る
流石に「よっこいしょ」は言わなかったが
互いに無言
流れるは、舞い散る桜の花びら
「いい天気ですね・・・」
横で天野が突然、空を見上げ小さく呟いた。
「そうだな・・・いい天気だな」
俺もつられて空を見上げる
そこには雲一つ無い蒼天の空が広がっていた。
「よろしいのですか?」
「何が?」
突然、天野が小さく呟いた。
「皆さんの所へ戻らなくて」
「・・・・・」
いや、流石に戻りたくないなぁ・・・と思ってみたり
まさにあそこは戦場だった
酒瓶が飛び、北川が飛び、ジャムが飛び、ケロピーが飛び――――
賑やかで実に幸せな空間
「まぁ・・・良いじゃないか。こうやって天野と2人きりになれたんだしな」
「――――――――っ!?」
天野はまるで茹で蛸の様に顔を紅潮させて視線を下に落とし、うずくまった。
どのくらい時間がたっただろうか?
実際には時間なんてさほど過ぎてなかったのかもしれない
俺は飽きもせず、ただ空を見上げ、桜を見る
不意に
トン
俺の肩に何かが乗った
「?」
気になって見てみればすぐそこには天野の寝顔が確かに在った。
天野は心地よさそうに眠っている
俺は空いた手で天野の髪を優しく梳く
同時に甘い香りが俺の鼻孔をくすぐった――――
・・・ん・・・・あ・・・ざ・・さ
なんだ?
あ・・・さん・・・・あいざ・・・ん
誰かが俺を呼んでいる
「相沢さん!」
「えっ?・・・あれ」
「やっと起きましたか」
「あれ?俺寝てた?」
「はい、それはもう気持ちよさそうに」
天野は中腰で俺を覗き込むようにして座っていた
俺は未だ霞がかった頭で辺りを見回す
すると既に陽は傾き
太陽は街の中へその身を消していく
「・・・桜も良かったが夕日も偶には良いな」
「そうですね」
俺と天野が綺麗な夕日に瞳を奪われていると
向こう――――あいつらが花見(と言う言葉を借りた戦場)している――――の方角から
声が響いてきた。
「おーい。美汐ー!・・・ついでにゆういちー」
俺はついでかよ!
そう心で突っ込みを入れ、こちらへ走って来る真琴を視界に入れる
「おい、天野。お迎えが来た」
「そうみたいです」
天野は少し面白そうに笑うと「真琴ー!」と声を上げ手を振る
「なぁ、天野」
「なんですか?相沢さん」
「こんな日が続けば良いのにな」
俺の言葉に天野は少し戸惑った様子だったが、すぐに「そうですね」と答えてくれた。
「本当に、こんな日がいつまでも続いてほしいです」
そう微笑みながら呟く天野に
桜の花びらがひらり、と舞い降りた。
終わり