私の願い…それは貴方を忘れない事、貴方への『想い』と共に私があること…そして貴方の『運命』のために私の力が…想いが 、助けとなること

桜の花びらが散る。

その光景はとても儚くて

でも、それゆえに美しかった。

その光景を見ながら思う。

『まるで人の命のようだ』と

自分は知っている…知ってしまっている。

人の命は、時としてとても儚く散ることを

…こんな私の命でも、散る時はこんなに美しく在れるだろうか?

血にまみれて生きる私でも、その血を糧にした果てに生きることが許されるだろうか?

何度も思い、そして答えの出なかった問いを自身に繰り返す。

無駄なことと思っても、やはりなんとなく繰り返してしまう…繰り返せずにはいられぬ問い

でもその思考は中断させられた。

「あんた、そんなところで何やってるんだ?」

だって、あの人の声が聞こえたから







儚き時…変わりゆく想い







「桜を見ていたんです」

灰色の髪の少女は声のする方を振り返らずに答える。

「そうか…」

声の主である少年は、いつものどこか興味なさそうな様子でそう呟くと

少女の隣に並んだ。

少女の名は『竹内理緒』

少年の名は『鳴海歩』

生まれながらにして、関わり合うことを運命づけられていた二人だった…。







私は…『私達』は生まれながらにして違っていた。

人の手によって『生み出された命』

でもそれは、すぐに『望まれない命』に変わった。

今でも、脳裏に焼きついている。







飛び散る鮮血

断末魔もあげずに息絶えるたくさんの『同類』

辺りに充満する死臭

その場を支配する圧倒的な死の臭い―――――――――

……でも、私は生き残った。

そして、自分の『運命』の絶望した。

怯えて

膝をついて

自分を『終わらせよう』とすら思った。

でも、その果てに

私は、生きることを望んでしまった。

未来を夢見てしまった。

救いを求めてしまった。

そして…私は『仲間』と共に







イキルタメニソノテヲチニソメタ







「何を考えてるんだ?」

その言葉に、理緒の意識は現実に戻る。

そして、彼の横顔を見る。

それは、いつものように無表情だけど

どこか穏やかで

暗い気持ちが洗われるのを理緒は感じていた。







貴方はいつもそうです。

どこか頼りなさそうに見えるのに

誰も…『神様』でさえ全て晴らすことのできなかった私の不安を晴らしていく。

ねえ、覚えていますか?

私たちが初めて会ったときの事

あの時、貴方は何も知らなかったのに私を助けてくれた。

貴方はただの偶然と言うかもしれない

気まぐれというかもしれない。

そして、何も知らなかったからこそ、あの救いはあったのかもしれない。

でも、今あの時を振り返って…私は思うんです。

あの時、私は確かに嬉しかったことを…

あの時から、私は貴方に『救われて』いたことを







…貴方は『運命を信じない』と言うけれど

私たちの『運命』は、とても信じられないかもしれなくて

とても残酷なものだけど

実は、私には信じたい運命もあるんですよ?

それは、貴方と出会ったこと

貴方と私が出会ったことは運命であると

こんな過酷な運命の元でそんなことを思う私は、とてもおかしいかもしれなくて…

そんなことは分かっているけれど

それでも、想わずにはいられない…

だって、私は誰よりも貴方を『信じて』いるのだから

だって、私はいつのまにか貴方に『とらわれて』いるのだから

だって、私はこんなにも貴方を『愛して』いるのだから







「弟さん…」

理緒はなんでもないことのように、その言葉を呟く。

そして、心の中で苦笑する。

だって、もっと違う言葉で彼を呼びたいのに

まだ、理緒は『弟』と彼を呼ぶ

いつものように、なんでもない様子だけど

彼だって、『弟』なんて呼んで欲しくないだろう。

それを知っているのに、理緒は彼を『弟』と呼ぶ。

そんな自分がどこか可笑しく思う。

そして、同時に思う。

『こんなに弱い自分がいたなんて』と







私は最近思うのです。

私が『信じて』きた自分

それとは違う弱い思いが自分の中にあると

私は、どれだけ絶望しても

心のどこかで、自分の力と自分の仲間を信じてきました。

それによって、救いがもたらされることを夢見てきました。

でも、貴方と出会って思うのです。

感じるのです。

私に中にある『恐怖』を……

それは『運命の時』に対する恐怖

その時に『私』が私でなくなって

貴方を忘れてしまったら

貴方を殺してしまったら

…その事が何よりも怖くて…思うのです。

そんなことになるくらいなら、私を…貴方を想う『私』のまま殺してくださいと

生きることを望んで、武器を取り

手を血に染めたあの時から

生きているべきではないかもと思っても

『殺して欲しい』なんて思ったことはなかったのに







「なんだ?」

理緒の声に歩は振り返る。

その情景は、桜の美しさの元で

理緒の目にはとても神々しく映って…理緒は言葉を失った。

元々、何か言いたいことがあったわけではなかった。

ただ、歩の声が聞きたくて

歩のことを呼びたくて

その呼び名を言っただけだった。

でも、理緒の心にはいつも歩への想いがあって

その情景を見た時、胸が詰まって…心から何かが溢れた。

だから、理緒は歩の手を握った。

そうしないと、胸から溢れる想いでおかしくなってしまいそうな気がしたから







あたりに風の音が響き、桜の花びらが舞う。

二人の間に言葉はなく、その音だけが響く。

「私を救ってください」

そんな中、理緒が祈るように呟く。

それは、彼女が唯一信じる神になれるかもしれない存在への祈り

でも、その祈りは今までのものとは実は少し違っていて

初めて、口にした祈り

今まで、自分の力を信じ『仲間』のために力を振るっていた少女が

『仲間』に救いを求めていた少女が

初めて祈る。

『私たち』でなく『私』を救ってくださいと

だって、この祈りに答えられるのも彼だけで

言葉は同じでも、これは彼女だけの祈りだから…

「そのためならば…この願いが叶うなら私は私の全てをかけて貴方の力となりましょう」

理緒はそう言うと、騎士が主君に何かを誓う時のように歩の手に口付けた。

歩は、そんな理緒の仕草になんでもないようにため息をつくと

「俺はあんたみたいに頼もしくもないし、絶対の約束なんてできないぞ」

そう言って、ゆっくりと理緒に近づく。

「でも、やれるだけのことはやるさ」

その言葉の瞬間、歩は理緒の額に口付けた。

そして、唇を離すと

「あんたの願いは、俺の望みでもあるしな」

と言った。







互いの口付けは誓いの証

死が二人を分かつまで

二人の願いが叶うまで

その誓いが破られることはない。







溢れる想いを静めるために

歩の手を取ったのに

祈りを伝え、口付けたのに

想いは静まらなくて

それどころか、涸れることなく溢れてきて

どうしようもなくて

意味とか理屈とか関係なく

理緒は歩の胸に飛び込んでその体を抱きしめた。







今、私は深い安らぎと途方もない喜びに包まれています。

安らぎは、貴方の存在

貴方の温もり

私の体が貴方の体に触れているというその事実

ただそれだけで、私はこんなにも安らかでいられるのです。

そして、喜びは貴方の言葉

私の祈りを

『呪われし子供』としての『一番』の望みを

『貴方の望み』と言ってくれるなら

私は、ただそこに向かい貴方の力となりましょう。

どんな恐怖にも屈せず

決して、死など望まないでしょう。

だって、貴方の望みは私の喜びだから

貴方の望みが叶うことが

『貴方を愛する私』の『一番』望みだから

その二つが合わさるなら私はそれ以外、何も望まないと信じることができるから







竹内理緒はとても美しくて、とても儚いこの場所で

けして破られぬ想いを抱く。

貴方と共に望みをかなえ…そして『運命の時』の後も貴方と共に在りましょうと―――――