テイクわん。『襲来』―――――
平和だな……。
嵐のような冬は終わり、こうしてほのぼのと暇を過ごしている俺。
俺の周りにはご存知の通り、あんなに美人な女性がいるにも関わらず彼女いない歴更新中なのである。
……何故だ。
激しく頭を悩ませる問題である。
何故なら、あの北川にさえ彼女がいる。
相手は香里。ありえない。
俺が病気のことを気にしないように栞を構っているとき、あいつは香里を支え見事getしたのである。
舞との舞踏会のとき、あいつは香里と「あっはっは♪」と踊っていて、
あゆの探し物のとき、あいつは香里と「あっはっは♪」といちゃちゃ、
世の中は本当に不条理だ。
「祐一、さくらちゃんが来たよー」
「おぉ、分かった。今すぐ行く」
名雪の、のほほんとした声が俺の部屋まで響いた。
というか俺を呼んだのだから響かなければ意味がないが。
ちなみに、名雪の言う「さくらちゃん」と言うのは俺の―――――
「祐一さんー♪」
玄関のドアを開けるとすぐさま目の前の少女が抱きついてくる。
一番最初に目に入るのは、ごすろり。
いわゆる、ゴシック・ロリータファッション。
花びらひらひらの、レースふりふり。白と黒の対称的な色がちょっと眩しい。
恥ずかしくないのか……というか、それ絶対暑いだろ……。
春とはいえ、最近は暑い日が続いているからな。
「暑いから離れてくれ……」
「えぇ!? 私を捨てるの??」
「捨てるも何も妹がそんな勘違いされるセリフを吐くんじゃないっ!」
先ほど、妹乱入で言えなかったがこいつは妹だ。
相沢さくら。血の繋がった妹だが、年齢はほとんど変わらない。
なのに、頭が弱……精神的に幼いせいで、妹! って感じでイメージが定着する。
まぁ、妹なのだが。
「大体、『祐一さん』ってなんだ!? せめて兄さんとか呼び方があるだろ?」
「お兄ちゃんって呼んだほうがいい?」
「前はそう呼んでいただろうが」
「あ、相沢先輩とか呼んだら、こうクルものがあるかな?」
どんな基準だ。
お前はクルとか、そういう基準で呼んでたのかよ……。
兄としてちょっぴり妹の将来が不安だった。
テイクつぅ。『理由』―――――
場面は変わってリビング。
「で、なんでまた日本に戻ってきたんだよ」
「わわっ。すごく嫌そうだよ、私と会うのそんなに嫌?」
それはどうだろう。
嫌じゃないが、精神的に疲れるだけだ。
まぁ、暇なんで別にいいけど。
うーん、まぁ強いて言うなら、
「嫌じゃあないさ」
「わわっ。何、今の間!? めっさ、悩んでたよ!?」
「で、なんでまた日本に?」
「話戻そうとしてるよ!? しかも強引だし!?」
いやに拘るな、my妹。
俺としてはさっさと流してくれると嬉しいぞ。
「え、あ、うん。じゃぁ、流すけど……」
「いいから、話せ」
さすが、マイシスター。
兄妹以心伝心?
もう、これ以上理解しあえる兄妹はいないだろう。
なんとなく心読まれた気がするけど。
「実はね、日本が懐かしくなっちゃって……ホームシックってやつ?」
「あぁ、なるほど。英語喋れないしなぁ、妹君は」
「そうそう―――――って余計なお世話だよ、お兄ちゃん……」
さすがに異国で話が通じないのに、友達は出来にくいだろう。
身振り手振りとはいえ、妹は英語の聞き取りが苦手なのだ。
書くだけなら、中学生程度はできるみたいだけど。
さすがに、筆談じゃぁなぁ……某スケブ少女じゃあるまいし。
「あと、お兄ちゃんに会いたかったしっ!」
いい加減、ブラコン気味な性格を治しなさい。
テイクすりぃ。『桜見』―――――
妹がやってきて三日がたった。
なお、学校はまだ始まってない。何故か。
決して、何かの陰謀などじゃない。たぶん。
ただ単に春休みが長いだけだろう。いつもよりも。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」
「どうかしたのか?」
「大変だよっ、大変だよっ」
「とりあえず落ち着け。そして二度言うな」
一旦、妹を落ち着かせ深呼吸させる。
ちなみに妹の服装はTシャツ一枚に、ジーンズという簡素な格好である。
北国であるここはきっと、寒いだろうと冬服中心に持って来ていたらしい。
だから、暑い現在ではTシャツくらいしか着るものを持ってきていないのだ。
……そんな格好で深呼吸するということは、だ。
背伸び。胸を大きくそらし、息を吸う。
ボディラインがおもいっきり強調され、胸がくっきりとTシャツに浮き出るのだ。
……高校生なんだから、ブラジャーくらいつけような、妹よ。
貧相な胸だが、俺の理性を揺さぶるには充分だったらしい。
そんな自分にちょっぴり後悔。
「で、何が大変なんだ?」
「私、まだ花見してないよー!」
「安心しろ、俺もしてない」
というか、水瀬家全員してない。
秋子さんに一度、話してみようかな。
そういう話好きそうだし、秋子さん。
「花見ですか……いいですね」
「わわっ。叔母さん、いつのまに!? っていうか、どこから!?」
「チッキン以外にありえないだろ…」
というか、位置的にそこからしかありえない。
気付かなかっただけだろ、たぶん。
「あ、わたしもしたいな。花見といえば、イチゴだよー」
「マテ。お前はイチゴがあればなんでもいいのか?」
「桜を見て食べるイチゴは一味違うんだよ」
「だったら、テレビで見ながらイチゴを食ったらどうだ?」
「祐一、いじわるだよ……生で桜を見るからいいんだよ」
「生で私を見るなんて……えっち。名雪さん、そっち系の趣味があったんだね!」
「違う違う違う違う! わたし、ノーマルだし!!」
秋子さんと同じくキッチンから出てきた名雪が会話に参加する。
どこかデジャヴを感じるが、気のせいだろう。
ふむ。花見は反対意見はなさそうだ。
今度の土曜日とかどうだろう。
マイ妹と名雪の激闘をそっちのけで秋子さんに提案してみる。
「今度の土曜日なんてどうですか? たしか、秋子さんは仕事休みだったでしょう?」
「ええ、私は大丈夫ですよ。名雪はクラブの方はどうかしら?」
「二人ともさくらちゃんとわたしの激闘無視して、何でほのぼのしてるの!?」
「見てるほうが面白いし」
「あらあら」
「祐一、酷いよ! お母さんも、さりげなく答えになってないし!!」
というか、その辺で止めとけ。
このままでは、パクリになっちまう。
妹も、名雪をからかうのは止めなさい。
「では、今度の土曜日ね」
「お母さん、わたしの話聞いてないし!?」
とりあえず、決まったということで。
名雪と秋子さんと妹の微笑ましい場面を背後に、俺は部屋へ戻っていった。
あー、平和だ。平和だ。
テイクふぉぅ『遊戯』―――――
というわけで土曜日。
まだ朝だけど、俺だけ一足先に桜を見ている。
といえば、聞こえはいいのだが実際はもっと呆れた理由だ。
名雪が起きれない。
まぁ、そういうことだ。
花見客が多いと予想される中、このハンデキャップはつらいのである。
そして、俺の横にはなんと、これまた意外。
香里と北川のバカップルがいるのだ。
まぁ、こいつらも栞が起きれないとかそんな理由。たぶんな。
だから、カップルで先に来ているんだろう。
へぇ、へぇ。熱いことで。
……く、くやしくないからなっ!
「しかし、香……美坂と北川がくっつくなんて意外だよなぁ」
「おいおい……まだ言うか、これでも苦労したんだぞ」
「そんなことより、香里で慣れているんだから香里でいいわよ?」
「彼氏の前で呼ぶわけにいかんだろ」
「オレは気にしないがなぁ…」
お前が気にしなくても俺が気にする。
そんなこんなで、バカップルと会話していると見覚えのある顔がこちらに向かって近づいてくる。
「お兄ちゃ〜ん!」
言うまでもなく妹だった。
でも、何故か大荷物。
お兄さん、とても嫌な予感がします。
妹の運ぶ荷物が、災いのような気がして。
「わわっ。都合のいいところにカップルが―――――これ、お兄ちゃんの友達?」
「不穏な部分は聞き流すとして、まぁ友人だな。というか親友?」
「オレ達はこれ扱いか……」
北川、あとで妹によーく言い聞かせておくから自制してくれ。
香里は、きょとんとしながら、目線で「だれ?」と問い詰めてくる。
これ扱いされたのが不満なのか、笑顔がやや引きつっている。
「あ、私は相沢さくらです。よろしくお願いします」
猫被っているのか、年上に丁寧なのかぺこりと頭を下げて挨拶する妹。
ちょっと怖いです。普段とのギャップが。
「よろしく、さくらちゃん」
「こちらこそ、よろしくね。……え〜っと、さくらさんでいいかしら?」
「あ、いいですよー」
北川もさきほどの失礼を忘れることにしたのか、やや自然体で返す。
香里も同様だ。さすがバカップル。
……まぁ、関係ないんだけど。
その後、数分会話したところで唐突に妹が話題をふってきた。
「ところで、二人とも麻雀知ってますか?」
「知らない」
北川が即答した。
まぁ。そうだろうな。
というか、読者が知らない人間多そうだし。割愛決定。
「わわっ。即答されちゃったしっ!? 残念、だったら大富豪とかどうかな?」
「あぁ、それだったらなんとか」
なお、香里は麻雀も大富豪も両方知っていたことを追記しておく。
北川も、麻雀は知っているように見えたんだけどなぁ。……気のせいなんだろうか。
妹はといえば……背中の大荷物をがさごさと漁っていた。
麻雀一式、ドンジャラ、トランプといろいろ見える。
影の苦労人、妹。
やっとトランプを見つけたのか、妹は全員に13枚ずつトランプを配る。
一枚余るが、妹は自分の手札に加えていた。
「あ、負けた人一枚脱いでもらうねっ♪」
「待ちなさい! なんでそういうことになるのよっ!?」
「私がお兄ちゃんを脱がしたいから」
「かなり自分の都合だな、おい。というか、俺かよ、狙い」
「お兄ちゃんと北川君は香里さんとか脱がしたく、ない?」
ちょっと語尾を強調して、かわいく囁く妹。
俺はもう慣れたが、北川にはしっかりと効いている。
さすが、マイシスター。
男性限定初回成功率70%。
俺の知る限り、な。
「う。……まぁ、それはその」
「俺も反対はしないぞ」
ちょっと興味あるし。
し、仕方ないだろ!?
これでも男性なんだよっ!
「ちょ、ちょっと! あなた達も反対しなさいよ!!」
「「………がんばれ、気合だ美坂」」
見事、北川と俺の言葉がはもる。
俺と北川の心が今ひとつとなったようだ。
……邪念で。
「あぁもう! 分かったわよ、すればいいんでしょう、すればっ!」
あ、自棄になった。
しかしこれで本人公認。
許可はでた。
あとは細かいルールのみ。
「大貧民が一枚脱ぐ……ねぇ。あとの細かいルールは?」
「んー。大富豪が都落ちしても一枚。大富豪がまた大富豪になったら一人指名して一枚脱がせる、でどう?」
「……了解」
ちなみに、都落ちとは大富豪が次の試合で大富豪の座を守りきれなかった場合、大貧民に落ちるルールだ。
妹に絶対に大富豪にさせるわけにはいかない……絶対に俺を指名する気だし。
なお、北川に大富豪をやらせると香里が脱ぐという美味しい特典がつく。
北川、がんばれ。
「3のスリーカード」
「わわっ。スリーカードないよぉ」
「あたしもパスね」
「俺もパス」
出せるけど。
だって、北川に勝たせたいじゃん?
妹はともかく香里を脱がせ―――――げふんげふん。
その後、北川がカードを出すも妹が「2」を切ったので主導権が移る。
そして、妹が小さいカードを出して……結局。
「お。アガリ」
「わわっ。大富豪取れなかったよぉっ」
北川が上がって、大富豪。
つづいて、妹。こいつは富豪。
妹はジョーカーで上がったので、流される。
しかし、流された場合は順番からすると香里になる。
俺と香里の手札は一枚。
「ジョーカーを流すと……あたしの勝ちね。アガリよ」
「美坂、残念ながら脱ぐのはお前だ」
「……え?」
スペードの3。
いわゆるジョーカー返し。
最強であるジョーカーを返す唯一のカードなのである。
妹は俺が負けなかったのが不満なのが、むーと唸っている。
香里と言えば、負けたショックより本当に脱ぐの? と言った不安の方が大きいようだ。
ちょっと不安そうに北川の方へ向く。
視線を妹の方へと移し、香里はもごもごと言った。
「えっ、ちょっ、ちょっと………冗談、よね?」
「却下。異例は認められません」
うぅ、と観念したように衣類に手を伸ばす香里。
けっこう生真面目だ。
でも、伸ばした手を引っ込める。
がんばれ。もう少し。
見れば、北川も凝視している。
「ぅぅ……本当に、脱がないとダメ?」
「ダメ」
妹が少し獣の目になってたりする。
おい、目的かわっとるぞ。
香里は上着に手を伸ばし、思い切って脱いだ。
とはいえ、薄い白のTシャツを来ているので特に問題はない……か?
香里は恥ずかしがっているが、気分的なものだろう。
顔を赤くしながら、香里は両胸を隠すように腕を組んだ。
「あー、絶対に脱がす、仕返ししてあげるわっ!!」
恥ずかしさが頂点に達し、逆に恥ずかしさが麻痺したらしい。
すると、今度は自前の負けず嫌いを遺憾なく発揮し妹に挑戦状をたたきつけた。
香里、それは年頃の乙女のセリフじゃない。
そして始まった二回戦。
大富豪"北川"と大貧民"香里"がカードを一枚交換する。
ついでに、富豪の妹と俺も。
「6」
「8」
「12」
会話だけ聞くと地味だなぁ、これ。
しかし、状況はすっごく白熱していたりする。
主に香里と妹。
俺と北川、雰囲気に押されっぱなし。
香里、負けたくないからか飛ばしてるなぁ……。
なんで、1とか2持ってるんだよ、大貧民。
「よしっ! ここで革命よ!」
「わわっ。革命されちゃったよー」
「ひでぇ。オレ、強いカード残してたんだが…」
北川都落ち決定か?
野郎の脱衣シーンなんて見たくないぞ。
「4のツーカードよ」
ちなみに、全員パス。
香里の手札はあと1枚。
「3のツーカード」
とりあえず、俺が香里の快進撃を止めておく。
だって、北川の脱衣シーンいらねぇ。
「12のツーカード」
「あ、オレは11のツーカード」
「パスだよ……」
「パスね……」
ここで北川が革命を起こして、北川アガリ。
ブルータス、お前もか!
「あ、アガリだ…」
「わわっ。お兄ちゃんに負けたー!」
オレが富豪で上がった途端、妹もあがる。
狙ったのか、偶然なのか判断に悩むところである。
妹は時々、わざとアガルのを見送るからなぁ。
俺にプレッシャーを与えるつもりでわざと俺のあとで、とか。
「ちょ、ちょっと!? またあたしなのっ!?」
「香里さん、露出するの……好き?」
「そんなわけあるかっ! 皆して実は謀ってない!?」
謀ってないぞ。
北川は香里一筋だし、俺は妹の体なんて見ても仕方ないし。
というわけで、必然的にけっこう狙われやすいだけだ。
……というか、香里が弱いだけなんでは。
「ぅぅっ、すぅすぅする……」
結局、香里は悩んだ末にミニスカートを脱いだらしい。
やっぱり生真面目だな、香里。
香里は必死にTシャツを伸ばし、下着を隠す。
とはいえ、そう簡単には全部隠せないわけで。
あまり大きいTシャツではないみたいだし。
パンティが丸見えだったりする。
言ったら鉄拳ものだが。
「わっ、香里〜。なんでそんな格好してるの? そういう趣味?」
「違う違う違う! これは無理やりされただけよっ!」
香里が赤面していると、名雪たちが到着した。
名雪の天然な発言が場に飛び交う。
よほど、さくらに弄くられるの嫌だったんだなぁ。
だからって香里に八つ当たりするのもどうかと思うけど。
「あ、あたしはもう抜けるからっ。名雪でも代わりに入れておいて頂戴っっ」
「だおっ!?」
名雪、ある意味自業自得。
つか、逃げやがったよ、香里のやつ。
まぁ、いいや。名雪を脱がせばいいし。
……誰だ、俺を外道と言ったやつは。
香里が服を着直そうとしたが、脱いだ服をしっかりと妹がゲットして返さないでいる。
ナイスだ、マイシスター。
これでいつでも目の保養ができるねっ!
妹が返すまでは。
「そういえば、北川って大富豪の座を防衛したんだよなぁ……」
「わわっ。北川さん、一人指名だよっっ」
この場合って香里指名するの無理だよなぁ。
北川もおなじことを考えているのか、うーんと悩んでいる。
そりゃぁ、そうだろう。
北川からすれば、妹も名雪も指名し難いことこのうえない。
だからって俺を指名するなよ、北川。
「じゃぁー………美坂で」
「なんでよっっ!!」
「この場合、香里さんの代わりに出ている名雪さんが脱ぐんだよっ♪」
「なんでっ!? わたし、関係ないよ。全然っ、関係ないよ!?」
「……諦めろ、名雪」
「祐一までっ!?」
だって、俺男だし。
やっぱり、そういうの興味ない男なんていないじゃん?
……お、俺の反応は普通だよな?
名雪が観念したのか、体育座りのような姿勢をとる。
足元を手前に引き寄せるあの姿勢だ。
そして、靴下を丁寧に脱いでいって―――――って、おい。
「靴下のありなのかっ!?」
「ダメとは言ってないよ?」
「……そ、そんな手があったなんて」
香里ががっくりとした表情を浮かべながら、名雪を見つめる。
妹はずるいなぁと思いつつも文句は言わない。
たぶん、自分のために。
まぁ、それはそうと名雪。
ミニスカートで、そういう姿勢はいけないと思う。
靴下を脱ぐのに夢中なのか、名雪は気付いてないがパンティが丸見えだ。
美女は二人、下着が見えている状態ってよく考えたらすごい光景だな。
違和感ありありだけど。
数試合後。
結局、妹と俺が一枚ずつ脱ぎ、北川が無傷。
香里と名雪にいたっては、下着姿という美味しい状態で勝負は終わった。
妹、二人の胸元を睨んでも自分のサイズは変わらないぞ。
「お兄ちゃん、わたしと名雪さんと香里さん。誰がいいっ?」
唐突に妹が期待の目で俺に質問してきた。
ふむ、これまた難しい質問だ。
まず妹を除外するとして、残るは香里と名雪。
服装という点では、互角だ。
だって、どっちも下着姿だし。
というか、そろそろ返してやれよマイシスター。
白の名雪と、黒の香里。
勝者、黒。
「香里」
「わわっ。香里さん!? 下着なんだねっ、下着の差なんだねっ?? 私も負けないんだからー」
唐突に自分から脱ぎ始める妹。
人前でストリップは止めなさい。
周り、けっこう見物してる人多いから。
面白いからまだ黙ってるけど。
「これならどう、お兄ちゃん!」
だから、ブラジャーくらいつけろっての。
高校生だろ、妹。
………まぁ、その。裸Yシャツはそれはそれで萌えるんだけどさ。
妹もそれを承知で煽っているらしく、胸元を妙に強調して前かがみになる。
下からさらりとはみ出るショーツが個人的にツボ。
「…………勝者、香里。残念ながら妹は対象外だ」
「うぅ。ひどいよ、お兄ちゃん」
真剣に悲しむな、俺が困るだろ反応に。
妹と俺の会話を聞いていたのか、名雪と香里も同様にじゃれあっていた。
「よかったね、香里。よく分からないけど、勝ったみたいだよ?」
「嬉しくないわよっっ!!」
それはそうだろう。
というか、名雪は俺と妹の会話を理解していたんだろうか。
「ところで、名雪と香里」
「え? 何?」
「いつまで、下着姿なんだ?」
「「!?」」
「……まさか、そういう趣味が」
「「違う違う違う!」」
「ほれほれ、周りも見てるぞ」
この一言で、ようやく今の自分達の現状――人前で、下着姿を晒しつづけている――に気付いたのか急いで妹の下へと走った。
顔が耳まで真っ赤なのは、恥ずかしいからだろう。
いわゆる露出羞恥プレイ?
妹も慌てた名雪たちの様子を見て、満足したのかすんなりと服を返す―――――はずはなかった。
妹は服をひょいと投げると、香里達の脱いだ服装は桜の木を枝にひっかかる。
……鬼か、妹は。
「ちょ、ちょっと!?」
「はやく取らないと、大変だよ〜。皆見ているのに」
「さくらちゃん、いじわるだよっ。早くとらないと……」
香里と名雪は服を取り返すには、桜の木の枝に手を伸ばさなければいけない。
しかし、それだけでは手は届かず……二人は仕方なくジャンプで取ろうとした。
……それは、ひどく、まずい。
男性の理性を激しく揺さぶるのだ。
香里と名雪がジャンプするたびに、白か黒の鎧を纏った双丘がぽよんぽよんと……。
……ぐっどじょぶ、まいしすたー。
「と、届かないよぉ……」
名雪が情けない声を上げた。
香里はといえば、もうこれ以上ないってほど恥ずかしさがこみ上げているらしい。
冷静のようで、全然冷静じゃない。
北川、お前は助けなくていいのかよ、彼氏だろ。
って北川は何故助けないんだ……?
「って、秋子さん!?」
「はい?」
「はい? じゃなくてですね。名雪を助けようとか、北川をお酒で酔わせて悪いなぁとか思わないんですか」
「楽しんでいるようですし、いいじゃないですか」
秋子さんは、あんなに恥ずかしがってる娘を見てそれだけですか。
ちなみに、北川はしっかりとお酒で眠っていたりする。
妹は香里と名雪の服装を枝に引っ掛けた後は、散歩にいったようだ。
……あ、いたいた。朝倉兄妹と会話してる。
あいかわらず、いちゃいちゃしてるなー、朝倉兄妹。
「じゃぁ、私はそろそろ帰るね」
「音夢、そろそろ俺達も帰るぞ」
「あ、待ってよ、兄さん」
たった今、会話が終わったらしく妹がこちら側に戻ってくる。
ひどく悲しそうな、なんともいえない表情なのは気のせいだろうか。
その頃、名雪と香里はなんとか肩車をしてとれたらしい。
下着オンリーな姿での肩車はそうとうクルものがあったことを追記しておく。
この後、お酒が入り二人とも相当荒れたのは別の話。
とにかく今回はこれで終わり。
めでたし、めでたし。
それにしても、随分後半は妹が大人しかったな。
気のせいかな。
まるでいなかったみたいに―――――いない?
「秋子さん、妹は!?」
「え……先に帰ると言ってましたけど……」
「!?」
……まさか!?
あいつが先に帰る、そんなことあるわけない。
まだ、桜の下にいやがるな……。
桜の元へと走ると、やっぱり妹はまだそこにいた。
妹よ、そんなに拗ねるな。
「ほら、帰るぞ」
「……お兄ちゃん、私のこと、嫌い?」
「はぁ?」
また唐突な……。
俺が妹を嫌う理由なんてないだろう。
「だって、私のこと妹、妹って……一度も名前で呼ばないよね?」
「妹だし」
「"いもうと"と呼ばないで! 私を"いもうと"って呼ばないで!」
意味がわからん。
一体、どういうことだ……?
「私、お兄ちゃんのことが好き。……likeかloveかは分からないけど、妹って呼ばれるのはつらいよ…」
はぁ、なるほど。
ようするに、妹と呼ばれるのが癪、と。
しかし今のセリフはまだ色々と、厄介ごとを持ってきそうだな、この妹は。
まぁ、それでもほっとくわけにはいかないしなぁ…。
仕方ないじゃないか、妹なんだし。
「はぁ、そんなことより拗ねてないで帰るぞ」
「私にとってはそんなことじゃないよ!」
「俺にとってはそんなこと、なんだよ。秋子さんとかも待ってるから帰るぞ………さくら」
Fin