守って!守護精霊
(Kanon:)
 第7話(最終話)「守るもの」 
written by シルビア  2003.11-12 (Edited 2004.3)




神の世界で、二人の神が対話していた。

『ハデス、久しぶりね。ペルセポネと仲良くやってる?』

『ウィーナスか……久しぶりだな。
 ペルセポネとはうまくやってるよ、聞かなくてもお前にはわかっているだろ?
 エロスの矢で俺がペルセポネに恋するようにし向けたんだから。
 第一、あの時は随分大騒ぎになったんだぞ。ゼウスにも散々嫌みを言われたよ。
 みんなウィーナスとエロスのせいだからな』

『あら、あれは貴方がどんな女神にも振り向かないから、いけないのよ。
 あなたも一応冥界の王なんだから世継ぎが必要なのよ。
 それに、あなただって今じゃすっかりラブラブじゃない。
 何か、文句おあり?』

『は〜、ウィーナスには叶わないな。
 まあいい。
 ところで、今回は随分佐祐理に温情的な措置をとったものだな』

『あら、ハデス、あれはあなたの描いたシナリオ通りじゃない。
 スピカの乙女がその純真さで真に願う願い事は叶うということ、それに
 その乙女が守護精霊であっても少女であることに変わらないということ、あなたは知っていたのでしょう?
 あの少女が純粋に願ったから、私は少女の守護者として叶えてあげたまでよ。
 祐一様といつかまた一緒に過ごしたいです、そういう佐祐理の願いをね』

『守護精霊にとっての守護者となるのはウィーナスだけだからな。
 守護精霊が召喚者に恋をして普通の少女になりたいと望み、全てを賭けて願う
 その純真な願いを……お前が叶えてあげるだろうことは承知していたよ。
 もっとも、本来、守護精霊の召喚者が守護精霊に恋をして邪な思いを抱いたなら、
 守護精霊はもはや召喚者を守護できなくなる。
 つまり相沢祐一という召喚者は、本当に純真なまでに佐祐理に恋をした、という
 わけだな。
 まさか究極魔法まで使うとは予想外ではあったが、守護精霊とはいえ、
 "スピカの乙女"らしく、佐祐理の願いもまた一途で純粋なものだったな。
 ならば、この結果は全く正当なものだ。
 ……それに、美の女神らしい結末のつけ方だな』

『あら、ハデス、それはお世辞かしら?
 それに、私はね、相沢祐一と倉田佐祐理の出会いまでは場を作ってあげたけど、
 それ以上のことはしてないわ。
 ペルセポネも言いそうだけど、結局、あの二人の恋は二人の心次第なのよ。
 あ〜、これから美しい恋物語になるといいわね、続きが楽しみ、わくわくするわ』

『(全く、この神は、男嫌いのわりには、こういう話が好きなんだからな……)
 佐祐理という少女もこの出会いのために守護精霊の試練を経たんだし、
 これからは幸せに生を全うしてほしいものだな。
 さて、エロス!』

『……は、はい、ハデス様』

『お前の矢のせいでこんな面倒を背負いこんだんだから、もう覚悟はできてるな?』

『はい、ハデス様……ですが……あの、その』

『今回はお前の失敗への処罰は穏便にすませてやろう。
 ただし、あの二人が相思相愛で居られるように、お前の矢で応援してこい。
 今度失敗したら、罰として、冥界のザクロの実を食べさせるからな。
 冥界から出られないようになりたくなければ、頑張って結果を出して来い』

『……実は既に、二人に恋の矢を射ってしまいまして……』

『は〜? また、勝手な真似をしたのか……相変わらず何とも懲りないやつだな』

『え〜! エロス、あの二人に恋の矢を射っちゃったの〜?
 これから自然に恋をしていく方が面白かったのに〜!
 何てことするのよ、このお節介天使!』

いつものことだが、ウィーナスに叩かれるエロスであった。

『おやおや?
 ウィーナス、お前が他の神のことをお節介って言えるのか?
 知ってるぞ、一弥という少年の魂についての措置……あれはお前の仕業だろう。
 ウィーナスがかなりの我がままを言ってたって、ゼウスがぼやいていたぜ』

『あら、やっぱりばれてたのね。
 さすがは冥界の王ハデスだわ、地獄耳って噂通りなのね』

『ちなみに、これを聞いたペルセポネもウィーナスらしい措置だって笑ってたぞ』


---------さて、エロスの恋の矢の力に囚われた相沢祐一と倉田佐祐理の二人のその後はいかなるものだったか……祐一に聞いてみよう。


俺(相沢祐一)は異様にそわそわしていた。


かつて、俺は佐祐理に、佐祐理が守護精霊であった頃の話をしたことがあった。

その話を聞いた佐祐理は、とても驚いてはいたものの、

「こういうのって、運命の恋と人は呼ぶんでしょうね?」

と笑っていた。


そんな俺と佐祐理の間柄は、今は夫婦であった。

そして---------今日……

時計の針の一秒ごとに、俺の心は揺らいでいた。

そして、静寂をやぶるかのごとく、あたりに大きな声が響きわたった。


…………・おぎゃー、おぎゃー、おぎゃー、おぎゃー


やがて、俺の目の前の扉が開いた。
白衣をきた女性が俺に向かってにっこりと微笑み、言った。

「相沢さん、おめでとうございます。男の子ですよ」

(やった〜!)

佐祐理の出産はかなりの難産だといわれていた。
それでも産みたいと願ったのは佐祐理だった。
俺も愛する妻の佐祐理との間に、子を授かりたかった。
そして、この瞬間に、俺と佐祐理の願いは叶ったのだった。


……産院の病室


「あなた……」

佐祐理はベッドに横たわるながら、俺に向かって言った。
佐祐理のそばには可愛い3800gの男の子の赤ちゃんが、すやすやと寝息を立てていた。

「佐祐理、よく頑張ったな。偉かったぞ」

佐祐理と赤ちゃんを交互に見ながら、俺は言った。
俺の目にはうっすらと涙が浮かんでいたが、照れくさいから、なんとかごまかした。

「恥ずかしいです……でも、嬉しいです。
 ところで、あなた、一つお願いがあるんですけど」

「何だ、言ってみな? 俺にできることなら叶えてやるぞ。
 ……これに誓ってもな」

俺は、佐祐理のベッドの横にあった人形を手に取り、佐祐理に見せた。
それは、俺が佐祐理と出会った時に持っていた天使の人形、今は二人の思い出の品だ。

「ふふ、その人形に願うようなたいそうな願いではありません。
 ただ、この子の名前、"かずや"とつけてあげたいんです」

「"かずや"か、とうとう戻らなかった佐祐理の弟の名前じゃないか……どうして?」

そう、佐祐理の弟であった一弥は再び佐祐理の前に現れることはなかった。
その事は佐祐理の心に一点の悲しみを残していた。

「いいえ、戻ってきたんですよ、私の許に。だから、"かずや"と付けたいんです」

「どういうこと???」

俺は佐祐理の言っている言葉の意味が全く分からなかった。

「昨晩、この子が生まれる時、意識の中で女神に会ったんです。
 それは懐かしくやさしい御声、多分、ウィーナス様の声なのでしょうか。

 『約束通り、私の預かった少年・一弥の魂を、今、あなたの許にお返しします。
  今度は一人の女性として幸せになりなさい、守護精霊・佐祐理』

 そう言って下さいました。
 だから、一弥の魂をもつこの子は"かずや"の生まれ変わりなんです。
 私の弟の魂をもって生まれた私の子だから、"かずや"と名付けたいんです」

「そうか……ウィーナスが。
 そういえば、守護精霊・佐祐理にとっての守護精霊はウィーナスだものな。
 今でも佐祐理はウィーナスに見守られているんだな。
 でも、佐祐理……これからずっと、佐祐理はこの子にとっての守護精霊だな?」

「あなたが望むなら、それもいいですね。
 ウィーナス様に祈ってみようかしら。
 私もこれからはこの子をずっと守っていきたいですし」

「そうだな。俺からも願ってみよう」

守護精霊から少女にもどった佐祐理は、俺の妻となり母となった。

だが、俺は、微笑む佐祐理の姿をみては、相変わらず、幼い頃であった守護精霊の微笑みをダブらせることがあった。

でも、今度は俺が佐祐理とこの子を守る番なんだな、俺はふとそう思った。
この時、守護精霊として俺を見守ってくれた、当時の佐祐理の気持ちがよく分かったような気がした。
自分の命を賭けて守るもの、それは何でどういうことなのか、俺は初めて知ったのだ。


「でも、あなた、私、ひとつ心配事があるんです」

「心配事?」

「もしエロスの放った親愛の矢がこの子の心に残ったままだと……その……
 この子が最初に見たのは私でしたから……」

「……この子が、佐祐理べったりの子になる可能性が高いというわけか。
 つまり、マザコンになる可能性が高いと……」

「はい、それはそれで嬉しいのですが……母として少し心配なんです」

「やれやれ……じゃ、この子が誰かを好きになるように、エロスの恋の矢を射ってもらうようにウィーナスにお願いするとしよう」

「そうすると、今度は嫁・姑戦争になりませんか?」

「勘弁してくれよ。そんな争いに俺が巻き込まれるのはゴメンだぞ。
 ……まあ、俺はいつでも佐祐理の味方だろうけど」

それからも、佐祐理は子供の将来の事を笑って話していた。
俺はそんな佐祐理がとても愛らしく思えた。


(この先、何があっても俺が守ってやるよ、佐祐理)





〜『守って!守護精霊』 FIN〜


後書き

あゆ :「SILVIAさん、なんでこのタイトルで恋愛ドラマになってしまうの?
     それに、ボクの思いはまったく報われてないよ」
SILVIA:「あゆは主役じゃないからだよ。理由にならないか?」
佐祐理:「一応、主役は佐祐理ですもんね♪」
あゆ :「じゃ、今度の連載はボクを主役にしてよ〜!」
SILVIA:「多分、それはないな。ALLモノの各話でない限り、あゆの主役はない。
     まあ、あゆが"私"といえるようになったら考えてやるぞ」
あゆ :「うぐぅ……酷いよ、SILVIAさん!」

舞  :「……あゆちゃんはまだいい。私はもっと悲惨だから」
佐祐理:「舞〜、来てたんだ。じゃ、一緒にSILVIAさんにお願いする?」
舞  :「はちみつくまさん」
佐祐理:「ということで〜、SILVIAさん、今度は舞の話も書いてあげてね♪」
SILVIA:「佐祐理、それはなかば脅迫というものだ。上目使いしてもダメだぞ?
     佐祐理に頼まれては仕方がないな、短編なら1作位考えておくよ」
あゆ :「エコ贔屓だよ〜、絶対!」

佐祐理:「さて、SILVIAさん、今回の連載は何で書いたんですか?」
SILVIA:「佐祐理に守って貰うのって、ちょっと憧れてな。
     守って!守護月天の衣装とか雰囲気って佐祐理に似合いそうだったし」
佐祐理:「でも、守護月天の世界は中国の神話ですよ?」
SILVIA:「佐祐理のイメージは欧州の精霊の方が似合いそうかなと。
     それでギリシア神話の神にも人間くさい雰囲気にして登場してもらった。
     純粋な思いを持つ少年・少女の恋の物語がベースなので、ウィーナスや
     ハデス、エロス等をキャストにいれてみたけど、雰囲気壊したかな〜?」
佐祐理:「いいんじゃないですか、コメディだと思えば」
祐一: 「そうだな。俺はこれが恋愛ドラマだとはちっとも思ってなかったよ」
SILVIA:「コメディって……一応、恋愛モノのつもりで書いたんだけど……
     さて、佐祐理、このへんで最後の挨拶をしてくれないか?」

佐祐理:「はい。最後まで読んで下さった読者様、ありがとうございました。
     今回は佐祐理はマジカルさゆりん・精霊バージョンでしたが、
     こんな佐祐理SSも気に入ってもらえると嬉しいです」


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