守って!守護精霊
(Kanon:) |
第6話「再会」
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written by シルビア
2003.11-12 (Edited 2004.3)
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(あれから10年か……佐祐理さん、どうしてるかな〜)
俺はいつもこの時期になると、佐祐理さんと一緒だった頃のことを思い出す。
「ゆう〜いち〜くん♪」
俺は不意にあゆのタックルを食らい、その場に倒れ込んだ。
「いきなり、何するんだよ〜。相変わらずまともに挨拶できないのか?」
「祐一君って呼んだよ〜。祐一クンが気がつかないのがいけないんだよ〜」
あゆは俺の幼なじみで、今でも俺につきまとっている少女だ。
それなりに可愛く成長したものの、幼なじみと恋する気にはなれず、いまだにいい女友達という関係だ。
何度も告白をうけたが、俺の気持ちはどうも、こいつにはなびかないらしい。
「じゃかましい、それに、何でここにいるんだ?
……って、え? その制服は、ひょっとして?」
「そうだよ、ボク今日からこの高校に転校してきたんだよ。
祐一君と一緒の学校に通えるようになるなんて嬉しいよ♪
祐一君と一緒の学校なんて、小学校以来だね。
祐一君と一緒に登校して、一緒に勉強して、一緒にお弁当食べて、一緒に部活して、
そして一緒に帰るの。
祐一君と違う学校に通うようになって、ボクずーっとその事に憧れてたんだから。
やっと叶ったよ〜」
「あ、そう〜……」
あゆは小学校は一緒だったが、中学からはお互い違う学校に通うことになった。
あゆは中学から中高一貫の私立に通っていたが、この度、親の事情で転校してきたんだそうだ。
もっとも、俺はあゆとの再会の懐かしさよりも、小学校の時のあゆの強引さを思い出し、少し引き気味だった。
「ね〜、祐一君、お弁当作って来たんだけど、一緒に食べない?」
「あゆのお弁当? ……$%&”$」
俺は碁石クッキーとか黒丸卵といったあゆの料理を思い出し、背筋が寒くなった。
「(この場は……逃げよう!) いや、お腹は一杯でな……じゃな」
俺は意を決して、踵を返しては、その場から走り去った。
「ゆういちくーーーーん! どうして逃げるの〜?
酷いよ〜、やっと再会したのに、ボクを置いていかないでよ〜!
祐一君のばか〜、ばか〜、本当にばか〜!」
(悪いな、あゆ)
俺はそんな背後の声などおかまいなしと、その場を逃げ出した。
第一、俺はまだ命は失いたくない。
俺は必死であゆから逃げた。
----------ドン、ズシャ、バタン
階段を下りて廊下を走っていた俺はふいに、誰かにぶつかった。
俺は制服をきた女生徒にぶつかったらしい。
(まずい……)
女生徒の方も俺にぶつかった拍子に、尻餅をつくように転んでいた。
(うっ……なんだろう、この暖かいような気持ちは)
その時、俺の胸あたりに何か感じたような気がした。
それは、かなり前に俺にあった感情だった。
透き通る茶の色をした長い髪を紫のリボンでまとめ、優しい顔立ちをした女の子は
そっと立ち上がって、俺の前に手をさしのべた。
「あの〜、大丈夫ですか?」
「ああ、ありがとう。……って」
「どうしました?」
(3年のリボン……上級生か。え?……佐祐理さん……?)
女の子はかつての守護精霊・佐祐理の面影を宿していた。
うまく説明できるような感情ではないのだが、その時、俺の心になんか暖かい気持ちがわき起こった。
「い、いや、俺は2年の相沢祐一と言います。ところで、貴方は俺の顔に見覚えがありませせんか?」
「相沢祐一さん?
ふふ、いきなり見覚えがあるかなんて、面白い人ですね。
私、3年の倉田佐祐理といいます。
見覚えもなにも佐祐理と貴方は初対面ですよ、これは新たなナンパのテクニックなのですか?」
ふと、佐祐理は胸のあたりをおさえ、その場にうずくまった。
「大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です。
一瞬、気持ちが動揺したような感じがして、何か変なんです。
胸がぶつかったからでしょうか」
「保健室に行きましょうか? 俺がお供しますよ」
そんな二人を遠くからひっそり見つめる姿があった。
しかし、二人の目には、その姿は見えてなかった。
『やはり少年・祐一には以前の矢の効果が残っていたようだ。
今回は少女・佐祐理の方だけ矢を射ってと……うん、ばっちり成功!
さて、早めにひきあげるとしよう。
それにしても、お二人さん、ばっちり見つめあっちゃってからに〜、もう〜。
効果てきめん、後がどうなってもしらんぞ』
幼い体つきをして背に羽をもつそれは、自らの仕事の結果を確認して後、安堵の微笑みを浮かべながらその姿を光の中に消した。
「いえ、もう平気ですから……」
「本当にすいません。どうお詫びしていいか……」
「良いですよ、もう。
それよりも、……あの〜、祐一さん?、よろしければお昼をご一緒しませんか。
佐祐理、今日は弁当ですけど」
佐祐理は照れた笑顔を浮かべながら、言った。
後できいた話だと、本人ですら急にこんな誘いをした理由はよく分かってなかったらしい。
ただ、佐祐理は思ったことをつい口にしていただけとの事だ。
「え? あ、はい」
昼食に誘われるなんて、俺にはよくわからない展開だったが、悪い気はしない。
それに、あゆから逃げたせいもあって、お腹の虫がぐうぐう鳴っていた。
俺は佐祐理の後に付いていき、やがて俺達は屋上の扉の前の踊り場に行った。
そこで、二人で並んで佐祐理の弁当と俺のパンを分け合って食べた。
「美味い!」
それに……どこか、懐かしい味がしたような。
「こうみえても、佐祐理、料理は得意なんですよ」
「イイ、合格!」
「合格って、何が合格なんですか?」
「俺の嫁さん!」
「そんな……お嫁さんなんて……恥ずかしいです」
(うわ〜、照れた顔がなんともイイ)
俺と佐祐理は初対面だったにもかかわらず、互いになんとなく惹かれていったように思えた。
このままずっと時を過ごしたい、そんな気持ちだった。
しかし、平和な時間は破られるのが常なのだろうか、はぁ〜
……どどどどど……どどどどど
「祐一く〜ん♪」
(げっ、あゆだ)
あゆの方を向かなくてもわかる、聞き慣れたその"祐一く〜ん"の呼び声に俺は少し青ざめた。
「あ〜〜〜〜〜〜〜何してんの、祐一君!
ボクのつくった弁当はたべてくれなかったのに〜〜〜。
祐一君の浮気者〜〜〜〜! 大嫌い〜〜〜〜〜〜!」
「いや、その、これは……
佐祐理さん、この子は幼なじみというやつで……その」
「ふふ、祐一さん、楽しそうですね」
佐祐理さん、何故に楽しんでいる、何故に〜!
「無視までするなんて……・ひどいよ祐一君」
とうとう、あゆはその場で泣いてしまった。
(さすがに可愛そうか)
まあ、あゆの一途さには閉口するものの、こいつもこいつなりに可愛い所もある。
あからさまに逃げ過ぎたかな、俺は少し優しい言葉をかけてやることにした。
「ほら、あゆもこっち来いよ。弁当持っているんだろ?
なら、ここで、一緒に食べようぜ」
「うん♪」
とたんに笑顔を浮かべるあゆ、相変わらず現金なやつだ。
(お前、さっきの泣き顔はどこに行った?)
俺は前言撤回とばかり、すこし意地悪をしたくなった。
「あゆの弁当もみせてみろよ、俺が食べてやるから」
あゆは俺にむけて弁当を開いた。
相変わらず、形はめちゃくちゃだが、一応食えそうだ。
あゆも少しは料理の腕をあげたか?
「……とりあえず食べるか。(冷汗)
モグモグ……うぐぅ」
「祐一君、どう?」
「こんな甘いの食えるか〜、タイヤキじゃないんだぞ!
ここにある佐祐理さんの弁当を見習え!
好きな人にまで、自分の好みを押しつけるな」
「うぐぅ……美味しいのに……」
卵は甘さ2倍、輪をかけて、ご飯も妙に甘い。
どうやれば、こんな弁当が作れるんだろうか……ある意味で才能だぞ、こりゃ。
「祐一さん……その……はずかしいです。
でも、佐祐理も、花嫁修行も頑張りますね。
明日から祐一さんの分も弁当つくってきますから」
「花嫁修行って……佐祐理さん?」
「あら、やだ……佐祐理、どうして、こんな事を言ったんでしょうか!?」
「うぐぅ、うぐぅ……ボクが祐一のお嫁さんになるんだよ〜!」
「ちょっと待て、あゆ、お前まで何を言ってるんだ?」
「うぐぅ……祐一君、意地悪だよ〜! ボクの気持ち、昔から知っているのに」
あゆ、済まないな。
だが、俺は佐祐理さんの方が気に入ったんだよ。
何故かって?
側で笑っている佐祐理を見て、俺は懐かしい感情を感じていた。
10年前のあのころのように。
(つづく)