守って!守護精霊
(Kanon:) |
第5話「守護精霊であったけれど」
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written by シルビア
2003.11-12 (Edited 2004.3)
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「ごめんなさい、祐一様……佐祐理、お守りできませんでした。
でも……」
祐一を見つめていた佐祐理は、しばし考えると、その目に決意らしきものを浮かべた。
そして、佐祐理は祐一を抱きかかえると、可憐に言った。
「可憐……これから、佐祐理は佐祐理にできる最後の手段を執ります」
「佐祐理お姉様……まさかあの魔法を使うのですか!」
「ええ、これが私にできる最後の事です。
祐一様を守れなかった守護精霊にはもうこれしかないのよ。
それに、大切な人を再び失ってしまった佐祐理の心はもう死んだも同じ。
可憐……可憐とももうお別れかもしれませんね。今までありがとう」
「……守護精霊の取る最後の手段の魔法って、メガフェニックスのことですよね」
「可憐……やはり、あなたには分かってしまうのね。その通りです」
「でも、佐祐理お姉様、それって……」
「可憐、そう、貴方と過ごすのもこれで最後になります。
可憐、今までどうもありがとう、楽しかったわ。
最後に、私のお願いを聞いてください。
私達二人のそれぞれの想い出をウィーナス様に届けて欲しいの」
「……佐祐理お姉様。……分かりました、可憐、言われた通りにします」
守護精霊のもつ永遠の生命エネルギーを用いて召喚者の生命を救う自己犠牲の魔法メガフェニックス、下手をすると魔法を唱えた者の生命力を全て奪ってしまう。
守護精霊がウィーナスの加護により、生殺与奪の力を持つ神ゼウスを召喚し、召喚者と守護精霊との間で生命エネルギーの交換をする、そんな仕組みの究極の召喚魔法である。
術者は、たとえ守護精霊であっても、ほぼ死ぬことを覚悟して唱える魔法なのだ。
佐祐理はその究極魔法を使うことを選択した。
(ウィーナス様、私の最後のお願いです……力を貸してください)
『セレブレート サユリ、マイ ウィーナス。……』
佐祐理は杖を出して詠唱を始めた。
佐祐理の手に2尺ほどの杖が現れる。
杖の先にある紋章を象ったオブジェが光り輝く。
佐祐理は杖の振り回し、それを1回転させ、薄いピンク色の残光の円を空に描いた。
さらに、杖のオブジェの光が、円の内側に、☆形の光の残光を描く。
(祐一様……これが佐祐理にできる最後の事……)
『……リード ミー トゥ マイ ウィーナス、マイ マスター』
佐祐理は☆の中央に両手を添え、手の中に光の弾を作り、☆の中央にそっと置く。
そして、両手で光の弾を掴む。
(さようなら、祐一様……愛してました)
『……ギブ ミー ア ジェニウス ゼウス ワーク……コール』
光弾は☆の中央から残光の円に向けて放射状に輝き、残光の円から発せられた光が佐祐理の体を包み込む。
そして、残光の円から発せられた光は同じく祐一をめがけて伸びていき、やがて祐一を包み込む。
佐祐理と祐一の体がその場から消え去る。
天空からまばゆい光が雷のように降り注ぎ、そして、祐一と佐祐理の二人を包みこんだ
白い光を貫く……二人だけの白い空間がそこに出来た。
(これは一体?)
佐祐理は自分の発した魔法の結果が、自分の知るものと異なる結果となり驚愕した。
究極魔法は自己犠牲の魔法であるから、自分が生きていることは不思議であった。
魔法が失敗した、佐祐理は一瞬、そう思った。
だが、その時、ウィーナスの声が佐祐理に聞こえた。
『守護精霊・佐祐理、願い通り、守護精霊としての全ての力を返していただきます。
代わりに、相沢祐一という少年の命を助けましょう。
……ですが、今この場所、この時間に、ご主人様との最後のお別れをしなさい。
死にゆく者が生きかえる者へ最後に想いを伝える、それがこの魔法を完成させる最後の条件なのです』
『ウィーナス様……分かりました』
佐祐理は目の前に立っている祐一の姿を認めると、その方向に向かい、ゆっくりと優しい口調で話をしはじめた。
「祐一様……これで……お別れです。
佐祐理はご主人様と居られてとても幸せでした。
それに、ご主人様……いいえ、祐一様、あなたの事が好きでした。
ですが、こんな形でお別れすることを、どうか許してください。
そして、祐一様、私の代わりに生きのびて下さい」
「……佐祐理さん、来週はいよいよクリスマス・イブだな。
来週は神様に何を一緒にお願いしようか?」
祐一は、話をわざとそらすように言った。
「クリスマス・イブですか?
それに、祐一様は……神の存在を信じてませんよね?」
「……そうだな〜、ずっと信じてなかったな。
でも、佐祐理さんがこうして目の前にいるんだもの、神様もきっといるんだろう。
なら、一度ぐらいはお願いしてみるとするよ。
ところで、佐祐理さん、俺の所を去ってからも守護精霊を続けるのかい?」
「分かりません。
ただ、守護精霊にはもうなれないことは確かですね。
少女に戻るのか、それとも魂ごと消えゆくのか、それもわかりません。
ですが、佐祐理はただ祐一様の命を守れれば、それで十分なんです。
ウィーナス様が約束してくれましたので、祐一様は多分元に戻れると思います」
「そうか。
じゃ、これ……佐祐理さん、この人形、佐祐理さんにあげるよ。
これには、ウィーナス様の力も宿っているんだろ?
もしかしたら、佐祐理も守護精霊を呼び出せるかもしれないよ。
そうしたら、佐祐理の守護精霊が佐祐理を守ってくれるかもしれないね」
「え? 祐一様?」
「俺はもう十分に幸せなだったからね、この人形はもう要らないんだ。
最後に、佐祐理の気持ちも聞けたし。
出来るのかどうか分からないけど、ウィーナスに佐祐理の想いも届くといいね。
佐祐理さんが元の少女に戻れるかもしれない可能性があるなら、これを使いなよ」
「佐祐理にはこの人形を使う資格はありません。
佐祐理はもう……全てを賭けたんです。
私が自分の願いを叶えてもらったら、祐一さんの命が助からないかもしれません。
それで祐一様が元にもどらなかったら、佐祐理だけ生き延びたら……辛いです」
「いいんだよ。それが俺の気持ちだから。
佐祐理さんが笑顔でいてくれるのが、俺は一番嬉しかったから。
だから、俺が生き延びられなくても、それならそれでいいんだ。
せめて、笑顔の佐祐理さんをあの世からでも、ずっと見守れるといいかな。
さあ、これを」
祐一はそういうと天使の人形を佐祐理に手渡した。
「さあ佐祐理さん、自分の願いを言わないと。
"もう一度少女に戻りたい"という願いをね」
「祐一様……」
「佐祐理さん、いつかまた二人で会えることが出来たら、その時は絶対に恋をしような。
佐祐理さんとまたデートできるのを、俺、楽しみにしてるから。
俺のささやかな願いだけど」
「はい。
祐一様といつかまた一緒に過ごしたいです。
それが、佐祐理の気持ち、それに佐祐理の心からのお願いです。
……さようなら、祐一様」
天使の人形を握りしめた佐祐理が言った。
「佐祐理さん、今まで側にいてくれてありがとう」
その瞬間、佐祐理の究極魔法が発現された。
二人を包む光の空間がなくなった。……二人の姿ともども。
「佐祐理姉さん……祐一お兄ちゃん……」
可憐はただ、その場で呆然と情景を見守っていた。
しかし、やがて起きた事を理解すると、自ら詠唱し神の世界に戻った。
佐祐理から託された、二人の想いと記憶をウィーナスに届けるために。
その後しばらくして、天界で二人の神が会った。
『ハデス、久しぶりね。-----------』
天界でハデスとウィーナスの声がする。
『ウィーナスか……久しぶりだな。-----------』
『-----------ところで、今回は随分佐祐理に-----------とったものだな』
『あら、ハデス、あれはあなたの描いたシナリオじゃない。-----------』
(つづく)