守って!守護精霊
(Kanon:)
 第3話「日常」 
written by シルビア  2003.11-12 (Edited 2004.3)


朝。

「ご主人様……いえ、祐一様、朝ですよ、起きて下さい」
「うーん、もう少し寝かせてくれ〜」
「仕方ありませんね……それでは……私の魔法で……」

仕方ない……そう思った佐祐理は杖を出すと、詠唱を始めた。
すると、一人の小柄な少女が現れた。

「可憐ちゃん、あとはお願いしますね。新しいご主人様で、祐一様です」

「はい、佐祐理姉さん」

(わー、今度のご主人様の祐一様って男の子なんですね〜♪
 それじゃ、祐一様は"お兄ちゃん"に決定です)

「……お兄ちゃん、お兄ちゃん、起きて……お兄ちゃん!」

「うーん、お兄ちゃん?俺には……」

「……お兄ちゃん、起きてください!朝ですよ!」

(俺に妹なんていたっけ???)
祐一はうつろな目を開いて可憐の方に顔を向けた。

「うわー〜〜〜〜〜!……って君は誰?」

「佐祐理お姉ちゃんの妖精で、可憐(かれん)と言います。
 よろしくお願いします、お兄ちゃん!」

背丈は1M程の小柄な少女、茶髪でうなじのあたりを3つ編みにした、長い髪の女の子が祐一に挨拶した。

「何だ、佐祐理の妖精か。驚かさないでくれ……で、なんでお兄ちゃんなんだ?」

「可憐、ずっとお兄ちゃんがほしかったんです♪
 だから、祐一様、お兄ちゃんになってください♪」

「あ、あのな〜」

「決まりです! では下に行きましょう、佐祐理お姉ちゃん、待ってますよ」

(妖精でも兄姉が欲しいものなのか?)
祐一はそう思ったが、可憐のかわいらしさに、まあいいかと思った。


「佐祐理さん、おはようございます!」

「おはようございます、祐一様」

「ですけど、可憐の"お兄ちゃん"には驚きました。いいんですか?」

「祐一様がよろしければ、お兄ちゃんになってあげてください。
 可憐ちゃん、きっと、喜びますよ。
 可憐ったら結構ああ見えて寂しがりやでして、お兄ちゃんが欲しかったらしいので。
 それに、私も可憐ちゃんには"佐祐理お姉様"ってよばれてますから。
 ところで、祐一様は、お姉さんが欲しかったですか?
 それなら、佐祐理がお姉様になってあげますけど」

「い、いえ、佐祐理さんはそのままでいいです」(汗)

祐一にしてみても、妹が一人位は居てもいいかな〜と、結局、その提案をのんだ。
可憐は佐祐理の世話をしているらしくて、話相手や佐祐理の衣装選びとかを手伝ったりしている。


数日前……

「佐祐理さん、これからどうするの?」

「祐一様をお守りするのが役目ですから、祐一様の側にいられればいいのですが」

「なら、家でしばらく過ごせばいいよ。どうせ、俺しかいないし」

「良いんですか?」

「ああ、構わないよ」

そうして、佐祐理は祐一の家で暮らすことになった。


朝食の間、祐一はご機嫌な顔つきをしていた。
佐祐理は祐一のために朝食を作っていた、そんな光景を見るのは楽しかったらしい。

なぜなら、祐一は独りぼっちが多いので、朝食でこんな風に人と食べる機会はほとんどないからだ。祐一は、身よりのなかった佐祐理が家に住み、可愛い妹までできたのだから、頬がゆるみっぱなしであった。

だが、なんで守護精霊が朝食を作っているのか?
それは祐一が全くといって、家事能力がなく、そのままでは餓死しかねないだ。
祐一はセンスがないわけではないが、はっきり言って家事能力はほとんどなかった。

普段は同世代の女の子が尋ねてきては、彼に食事などの世話をしていた。
祐一を好きな女の子は、彼に喜んでもらおうと、家事全般にわたって一生懸命なのだ。
ただただ、祐一がありがとうと言う時に見せる、あどけないまでの笑顔は少女達をすっかり魅了していたので、少女達にはそれが最高の褒美ともいえた。

それがこれまでの日常であったが、朝だけはそうはいかない。
なんとか自力で朝食、それもパンを焼くとかの簡単なもので済ませていた。
それでも、昼となれば、給食がない学校なので、女の子の弁当責めにあうので
多少は胃をあけておいた方が賢明ではあったのだが。

こんな様子をみかねた佐祐理は、祐一の家事全般にわたって世話をすることになった。
相沢家に住むことになった清楚で物腰の上品な佐祐理の登場で、多くの少女が泣き叫んだのもまた事実ではあったのだが。


「そう言えば、一度聞きたいとおもったんですけど、
 佐祐理さんって生まれた時から精霊だったんですか?」

祐一は、朝食の支度をしていた佐祐理に訊ねた。

「祐一様、私は守護精霊となる前は、普通の女の子でした。
 年は、そうですね……守護精霊になった時に人の年齢で11才でしたから、
 祐一様よりは1才年上になりますね。
そんな私が、ある出来事で命を失い、神の御心でこうして守護精霊となったのです」

「お兄ちゃん、可憐の場合は9才の女の子でした」

「へぇ〜、そうなんですか。
 それじゃ、二人とも女の子だった時の記憶というのもあるのですか?」

「ええ、あります。
 ですが、守護精霊となった時に、一部の記憶は神によって封印されていますから、
全てを覚えているというわけではありません」

「お兄ちゃん、可憐にも人間の頃の記憶があるんですよ。
 可憐には、なかなか会えなかったんですけど、素敵なお兄ちゃんがいたんです。
 そして、私はいつもお兄ちゃんの側に居たかったんです」

「ふふ、そうだったわね、可憐。
 ……
 祐一さん、それでも人間界で日常生活を送る上では、それほど問題はありませんが。
買い物とかの家事も普通にできますし。
 ただ、少し困ることもあるのですよ」

「え?」

「私達守護精霊はいつの時代にどの人をお守りするかは決まっていません。
 そのために、私のご主人様の生き方や好みは人それぞれに異なっているのです。
 たとえば、その人の食べ物とかの嗜好が違ったりしますから、そういった都合に
 合わせるのは苦労します」


「……ということは……この食事の味付けはどうしたの?」

「とりあえず、前のご主人様の嗜好で作って見ました。
 ですから、祐一様の好みに合うかどうかはまだ分からないんです。
 口に合わなければ、言ってくださいね」

(そっか〜……)

祐一は箸を手にして、できあがった食事を口にした。

(げっ……メチャクチャ甘い〜〜〜〜〜〜〜)

祐一はどちらかと言うと甘いモノが苦手な方であった。
少し偏食といってもいいぐらいだった。

「祐一様、お口にあいませんでしたか?
 私はこの味付けでいいと思っていたんですが」

「い、いや……この卵焼きだけ、ちょっと味付けが……。
 ところで前のご主人様って誰なのか覚えてる。
 こんなに甘い味付けが好みだなんて、ちょっとびっくりしたんで」

「ええ、たしか今から25年程前に美坂家の少女をお守りしました。
 昨日ここに来た美坂栞さんによく似ていましたね」

「まさか、栞の母親とか?
 まさか、栞と同じように、冬にアイスクリームを食べてたんですか?」

「ええ、そうですよ。
 確か、普段から1日10個ぐらい召し上がっていましたね。
 甘めの食事が好みとかで、そのために食事の味付けも甘くしてました。
嫌いなものは確かカレーライスとかの辛いものだったかと」

「佐祐理……」

「はい、祐一様。何でしょうか?」

「念のために、俺に料理の仕方を教えてくれないか。
 とりあえず、俺好みの味を覚えるまででいいですから」

「はい?」

それから後、時々、祐一がキッチンで料理することがあった。

しかるに、それを見た祐一に恋する女の子達は、仰天し叫んだという。
料理上手で祐一を手込めにしようとしていた女の子にとっては、それは祐一と仲良くなる機会を失ったに等しいものでもあった。

だが、当の祐一は鈍感で、目の前にいる守護精霊しか目に入っていない。


(守護精霊か……でも、こんな関係もまたイイかもな。まるで家族みたいだ)


「そういえば佐祐理さん、
 俺はこの後学校にいきますけど、佐祐理さん達はどうします?」

「私達も生徒になりすまして、祐一様とご一緒するつもりでしたけど?」

(えっ?)

「それに、その事で、祐一様に相談したいことがあったんです。
 あゆさんに聞いたんですけど、祐一様の学校って制服があるんですよね。
 どんな制服か佐祐理に教えてくれませんか?」

「は、はあ……」

祐一は学校行事の写真を佐祐理と可憐に見せた。

「なるほど、わかりました。では、可憐ちゃん!」

「はい、お姉ちゃん、変身するのですね」

『セレブレート……』……佐祐理は杖を出して詠唱を始めた。
『ウィズ マイ……』……可憐もそれに合わせて別の文言で詠唱した。

佐祐理の杖の先が光り、それが描いた残光が二人を包むような軌跡ができた。
二人の全身が光ったかと思うと、二人が祐一の学校の女生徒の制服になった。
襟が青いセーラー服に胸元のリボンが可愛くあしらわれている、二人の衣装がそんな姿に変わった。

「便利だな〜、その魔法は」

「そうですね。
 元は聖なる衣なので、好きな服装に変身できるのです。
 ただ、神を召喚するときは本来の姿に戻る必要はあるんです。
 神のように肉体まで何にでも変身できるというのではないのですが、
服装ならこれで大丈夫です。
ところで……私、似合ってます?」

「お兄ちゃん、可憐の姿、おかしくないですか?」

「二人ともよく似合っているよ。
 でも、精霊でも服装とかを気にするんだ」

「「私達だって、元は女の子ですよ」」

「ははは〜、そう言えばそうだな」


「でも、二人とも転校とかしたの?」

「それでしたら、昨日、学校に寄った時に、妖精セイレーンの幻惑の力でごまかして
 おきました。
今日から、私と可憐は、祐一様のクラスに転入することになってます」

「そうなんです。これで、可憐もお兄ちゃんとずっと一緒に居られます♪」

「驚いたな。精霊って、何でもできるんだな」

「ご主人様をお守りするためだけですよ。勝手はできません」

「ふーん」

祐一達3人は家を出て学校に向かった。

「お兄ちゃん、わざわざ歩いていくんですか?
 お姉ちゃんのペガサスならひとっ飛びなんですけど」

「おいおい、あまり魔法とかを人前で見せないでくれよ。みんなびっくりするから」

「そうですね。佐祐理もなるべく控えておきます。可憐も控えめにね」

「はーーーい」

「祐一くーーーーーん」

(お、あゆか)

……ドン、ずしゃ

「うぐぅー、痛いよ〜」

「あゆ〜、お前な〜、何でいつも俺にタックルするんだよ。まともに挨拶できないのか?」

「ボク、タックルなんてしてないもん。
 祐一君の姿みたら嬉しくなったから抱きついただけだもん……」

「あの〜、祐一様、私はこのタックルからもお守りした方がいいんでしょうか?」

「佐祐理さん……いいよ、俺が今度からよけるから。
 そうなれば、あゆが地面にキスするたけのことさ」

「うぐぅ。祐一君の意地悪!
 うん?……ところで、祐一君、佐祐理さんの横の女の子は誰なのかな?」

「ああ、えっと〜……佐祐理さんの妹の……可憐ちゃんだよ。
 あ、そうそう、可憐、こっちは月宮あゆ・」

「可憐です。佐祐理お姉ちゃんと祐一お兄ちゃんにお世話になってます」

「祐一お兄ちゃん? それって祐一君のこと?」

「はい♪」

あゆはどことなく疑惑というか嫉妬というか、そんな目線を祐一にむけた。

「だったらボクも、祐一お兄ちゃんって呼ぼうかな」

「やめろ、あゆ。お前には似合わない」

「うぐぅ〜、ずるいよ、祐一君。それに何で可憐ちゃんだけなの〜?」

「えっへん♪」

「まあ、いいじゃないか、あゆ。それもまた運命というものだ」


そんなこんなで、4人は学校についた。


「祐一様、それでは私と可憐は職員室にいってきますね」

「分かった、じゃ後でな」

佐祐理達といったん別れると、祐一とあゆは教室に入った。
この二人はクラスメートなのだ。

「祐一君、可憐ちゃんて、祐一を好きな女の子?」

「いや、そういうわけじゃ……って、ほら、先生来たぞ」

「起立!礼!」

「あ〜、今日は転校生を紹介する。倉田佐祐理さんと三上可憐さんだ。
 みんな仲良くな」

その瞬間、クラスの男子からどっと歓声があがった。

(凄い歓声だな〜。でも、よくよく考えたら、あの二人って可愛いしな〜)
祐一はクラスの歓声を聞き流しながら、そう思っていた。

「祐一さ〜ん!」

「お兄ちゃん!」

佐祐理と可憐が突然そんなことを言い出したものだから、祐一はすっかりクラス中の
注目を浴びてしまった。
その視線に怒りに似た感情が入っていたのはいうまでもなかった。

----きーん・こーん  休み時間

「なあ、相沢〜、この俺北川とお前とは大の親友だったよな〜」

「いきなり何だよ、北川! 気色わるいぞ」

「あ〜、あの美しい佐祐理様、名前のごとく可憐な可憐ちゃん!
 こんな美少女がお前の知り合いだってのが、俺はとても羨ましいぞ。
それでだな、今度お前に紹介してもらってだな〜、デートでも〜とだな」

「ボツ」

「お前は大の親友を見捨てるのか?」

「俺にはそんな邪な感情を持つ親友はいない。(あんまりしつこいと出番をなくすぞ。)」

----きーん・こーん  休み時間終わり

「なあ、可憐、どうしてお前達がみんな側にいるんだ?」

「お兄ちゃん、それはね、さっき佐祐理さんがセイレーンの幻覚を使って席替えしたんです。だから、ここが可憐の席なんです。
 こんな感じにしましたけど、お兄ちゃん嫌だったのですか?

<---席配置---(窓際・後)>

(女の子) あゆ   (女の子)
佐祐理  祐一   あゆ
可憐   北川潤  (女の子)

「というか、潤はまあいいとして、俺の周りは女の子だらけじゃないか?」

「お姉ちゃんが話したことのある子だけで固めたらしいですけど」

「佐祐理、教科書まだもってないだろ、ほら、みせてやるよ」

そういって、祐一は机をよせた。

「はい。祐一様」

「祐一君……(う〜、ボクのを佐祐理さんに貸そうとおもってたのに〜)」

「可憐ちゃん、教科書みるかい?」

「北川さん、結構です。昨日祐一様のを借りて全部覚えましたから。
 (……・お姉ちゃん、ずるい。お姉ちゃんだって内容はもう覚えたのに……)」

「そ、そう?(この教科書の内容を全部覚えたって?)」

----きーん・こーん  休み時間


「相沢クン!」

クラスメートの山田太郎が祐一のところに近寄っていく。

「なんだよ、山田太郎」

「このハンサム・成績優秀・スポーツ万能・金持ちのボクが君に用事があるといったら
 わかるだろう?
 なんだって?分からない?
 いや〜、これだから、凡人というのは手がかかる。
 まあいい、この婦女子達を俺に紹介してくれたまえ!」

「お兄ちゃん、誰、この人?」

「このクラス一の馬鹿者の山田太郎だ。可憐、相手するなよ」

「はい、お兄ちゃん」

「この美男子に向かって、そんな紹介なんてないだろう? 相沢クン。
 それに、可憐ちゃん、そんな風にボクを嫌わないでくれたまえ」

「美男子って……お兄ちゃんの方がずーーーっと素敵ですよ〜だ。
 お兄ちゃんを凡人扱いする人なんて酷いです!」

「可憐さん……」

「山田太郎さん、祐一様を悪く言う人は私も嫌いです。
 それに、祐一様はとても優しい心の持ち主です」

「佐祐理さん……こんな凡人を贔屓するようでは、その美貌がすたるというものです」


『セレブレート……』……佐祐理は杖を出して詠唱を始めた。


杖の描いた残光の中心から、光に包まれた巨人オリオンが現れた。
巨人は拳を大きく振り上げると、その拳を山田太郎の頭めがけて振り下ろした。
……ぼこっ
一瞬だが、山田太郎は身長が30cmぐらい縮まるかのように、その場にのめり込んだ。
巨人は両手をあげて喜び、それから姿を消した。


「祐一様を侮辱するなんて……佐祐理が許しません」

「撃沈してやんの、ざまあないな、山田太郎。
 それにしても、佐祐理さんを怒らせるとはいい度胸してるよ、山田太郎は」

「山田太郎さんに比べれば、北川さんはずっとましです。
 北川さんはお兄ちゃんを嫌ってないですから」

「可憐ちゃーん、俺は嬉しいよ〜。なあ、相沢、俺たちは今でも親友だよな〜」(泣)

「分かった、分かったから離れろ北川、暑苦しいぞ。
 だけど、可憐、あまり北川をからかうなよ?」

「えへっ♪お兄ちゃん、分かっちゃった?」

「当たり前だ」

「可憐さん……・それでも俺は嬉しいぞ」(号泣)


「祐一様、それに可憐! 少し意地悪が過ぎますよ」

「佐祐理さん……まあ、確かに少しやりすぎましたね(笑)。
 でも、北川はこういう奴だけど、一応つき合いは長いから。
 佐祐理さんや可憐も、こんな奴だとあきれないで、仲良くしてやってくれよ」

「「はい」」

「相沢〜(嬉)、お前っていい本当に奴だな〜。今日は何でも奢ってやるぞ〜」

「イイ心がけだぞ、北川。
 じゃ、俺は帰りがけに百果屋のブルマン・コーヒーということで手を打とう。
 佐祐理さんや可憐、それにあゆも一緒だろうから、そっちもよろしくな」

「うーーーー(泣)、男北川、人生10年、今日ほど感動した日はないぞ。
こうなったら、まとめて奢ってやる!。何でも好きなの言ってくれ〜」

「……だってさ。なあ、佐祐理さん、可憐、あゆ、お前らは北川に何を奢って貰うんだ?
 せっかくの北川の好意だし、みんなでごちそうになろうぜ」

「よろしいんですか? それでは私はキウィー・クレープをお願いしますね」

「可憐はチョコパフェが食べたい♪」

「たいやき♪ それもあんこたっぷりはいったやつ」

「了解です。この北川にどーんとお任せください♪」

「相変わらず調子のいい奴。まあ、本人がこれで幸せだっていうんだからいいか」

「「「そう(ですね)(だよね)(だね)」」」(笑)


----きーん・こーん  休み時間終わり

----きーん・こーん  午前の授業終わり、お昼休み

この学校は小学校だが、給食はない。昼は弁当持参が普通なのだ。

「佐祐理さん、可憐、逃げるぞ!」

「え?祐一様、何故です?」

「お兄ちゃん、そんなに慌てなくても」

「可憐、お前はクラスの女子の視線と手元の弁当箱の数に気がつかないのか?
 それに、それはこのクラスだけじゃないんだからな。
 まともに相手したら、俺の胃がもたん。
ほら、連中に囲まれる前に逃げるぞ?」

佐祐理と可憐は?マークを頭にうかべつつも、ずらかった祐一の後を追った。

「お兄ちゃん、あゆちゃんは?」

「あゆなら、とっくに先に目的地に行ってる。恒例行事だ」

「……そうですか」

祐一は、校舎裏の人目のつかない所に逃げ延びた。
そこには、あゆが先にまっていた。

「祐一君、おそいよ〜」

「お待たせ、あゆ」

「あ〜、佐祐理さん達も一緒〜?」

「当然だろ。あゆは嫌か?」

「……そんなことはないけど。……はい、これ」(ジト)

「おう、サンキューな。うん? またタイヤキか?」

「うん、焼きたてだよ。今、外に行って買ってきたんだよ」

「お前、ここ一週間、ずっとタイヤキだろ?」

「だって、美味しいモン♪ それに、祐一君が最初に買ってくれたんじゃない」

「はー、だからってな〜、こんなに好物になるとはおもわなかったよ。
 まあいいか。でも数が多いから可憐にも分けてやるよ」

「え、本当ですか? 甘いのは大好きです♪
 じゃ、可憐のお弁当、あゆさんにも分けてあげますね」

「祐一様、はい、これ。祐一様に作ったお弁当です」

「……佐祐理さん、ありがとう。(もう、甘くはないよな?)」(汗)

「どういたしまして。あゆさんの分もありますから」

「わ〜、ありがとう。佐祐理さんの料理、美味しいもん。(でも、ボクも弁当作りたいな〜)」

「お前も料理の腕を上げろよな、あゆ」

「うぐぅ……祐一君、意地悪だよ〜!」

----きーん・こーん  放課後

「いや〜、わるいな〜、北川」

「何をいうかね、相沢君。
 大の親友の頼みとあれば、男・北川、これぐらいなんのその」

祐一は舞い上がっているそんな北川を見て、笑った。

「北川さん、ご馳走様です」

「チョコパフェ、美味しかったです♪」

「やっぱ、百果屋のタイヤキのあんこは独特の味だね。うーん。美味しい♪」

「お前等も随分、幸せそうな顔しているよな」

「「「ええ(もちろんです)(うん)」」」

「あんだけ昼に食べて、よく入るよな」

「祐一君、甘いモノは別腹というんだよ」

「よくいうよ、あゆ。一日にタイヤキを7個も食べるの、お前ぐらいだぞ」


(なんのかんの言っても、佐祐理達も女の子なんだな。
 守護精霊とかの役目も、こんな時ぐらいは忘れてくれてもいいんだがな)

祐一は佐祐理達の表情をみながら、そんなことを考えていた。

……と、そんな祐一の口元にスプーンが運ばれた。

「お兄ちゃん、はい♪」(ポッ)

「はいって……(パク)」

「お兄ちゃんも、その……可憐に……」(ポッポッ)

「可憐、何いってんだよ。……分かった分かったそんな顔するな。ほら。
 (甘いな〜、俺)」

祐一のスプーンは可憐のパフェをすくって、可憐の口元に運ばれた。
可憐は恥ずかしそうに、そしてうれしそうにそれを食べた。

「可憐ったら、本当にもう……。
 祐一様、いくらお兄ちゃんだからって、あまり甘やかしてはいけませんよ」

「あ〜、お姉ちゃんだって本当はしたいんじゃない?」

「私はそんな……」

「お兄ちゃん、試してみれば?」

「……可憐。でも、それもいいかもな。どれ……」


祐一の手にもってままのスプーンは可憐のパフェをすくって、佐祐理の口元に運ばれた。

「……・祐一様、意地悪です」(ポッ)

そういいながらも、佐祐理はうれしそうにそれを食べた。

「祐一君!あの……その……」

「あゆもしたいか?」

「……うん」

「やれやれ……」

祐一の手にもってままのスプーンは可憐のパフェをすくって、あゆの口元に運ばれた。
あゆはうれしそうにそれを食べた。

「チョコパフェも美味しいよ♪」(ポッ)

(こんな風に過ごすのも悪くはないか)
祐一は佐祐理達の真っ赤に照れた表情をみながら、そんなことを考えていた。

「相沢〜、羨ましいぞ〜?」

「あら、北川さんもしたんですか? じゃ、特別ですよ。……はいこれ」

佐祐理はスプーンを手にとって、可憐のパフェをすくって、北川の口元に運ばれた。
しかし、北川はその瞬間に嬉しさでフリーズし、佐祐理のパフェを食べられなかった。
?マークを浮かべる佐祐理の姿がそこにあった。

そんな北川の姿を見て、祐一・あゆ・可憐は、顔を見合わせて笑った。
佐祐理もあきれ顔半分で微笑んだ。

「お兄ちゃん、北川さんって本当に面白いですね」

「そうだな。幸せのあまりフリーズするなんて、こいつぐらいだろう」

「そうですね」

「本当」

「そうだね」

「みんなをこんなに笑わせてくれるのはこいつの良さかもな」

「ね〜、祐一君、みんなで思い出したんだけど
 ……これ、タイヤキ屋さんにもらった」

「いつもあゆが食い逃げする商店街のタイヤキ屋が?
 あゆにだけ特別にくれたって?
 まあいい。どれどれ……遊園地の招待チケット? それに5枚もあるぞ」

「でも来週末までなんだって。せっかくだから一緒にいこうよ、祐一君!」

「そうだな。じゃ、みんなで一緒に行こう。
 ありがとう、あゆ。
 メンバーはと……俺と佐祐理さんと可憐とあゆで4人か、じゃ、北川も連れて行ってやるか」

「お兄ちゃんと遊園地? 可憐、絶対に行きます♪」

「ところで祐一様、私達はいきますけど、北川さんにも聞かなくてもよろしいのですか?」

「このとおりフリーズしてるから、聞くまでもないだろう。
 どうせ、男・北川のなんとかに決まってる」

……この時、

(ふふふ……遊園地ですか
 ……この山田太郎がこのチャンスを見逃す訳ないですよ、相沢君。
 これこそ、この山田太郎が佐祐理さんの心を射止めるチャンス。
 それには、妹君の可憐さんにも是非、お兄様と気に入っていただかねば)

5人の様子を眺めては、勝手に電波を流しているストーカー男が一人いた。


「あの〜、お姉ちゃん、さっきから……」

「ええ、分かってるわ、可憐。まったく仕方のない人ですね。……」

『セレブレート……』……佐祐理は杖を出して詠唱を始めた。

杖の描いた残光の中心から、光に包まれた2つの影が現れた。
剣とメドゥーサの盾をもつ勇敢な女神アテナ、そしてペガサスであった。
アテナはペガサスにまたがって空高く舞い上がると、急降下し、手にもつ剣を男めがけて突き刺し、更に水平に薙ぎ払った。
アテネは、(つまらないものを斬ってしまったわ)、といわんばかりに剣を水平に振り払い、やがて姿を消した。

「……神罰ですわ」


「佐祐理さん、なんか忙しい一日だったみたいだね」

「ええ。
 でも、祐一様をお守りする守護精霊の役目ですから、気にしないで下さい」

「そうか。でも、佐祐理さん、ありがとう」

祐一は笑顔を満面に浮かべて言った。

「……はい」(ポッ)

 

 

(つづく)

後書き

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