………いきなりそんな事いわれたら硬直するしかない。
だって、いきなり「工藤叶」ですって。
工藤君は男ですよ?
でも、目の前にいるのは女物の本校の制服を着ている工藤君。
………兄さん、あなたに一体何があったんですか………………
朝倉 音夢
シルフェイド幻想譚 回顧録 ~二冊目入りました~
幕間その2 朝倉音夢の帰還
AM9:05 朝倉家玄関
「………はい?」
五分経ってようやく発せられた第一声がそれだった。
「ちょ………ちょっと待ってください、工藤君は男で……」
「久しぶり、朝倉さん。元気にしてた? ………久しぶりにやると恥ずかしいですね………」
その口から発せられる声は紛れもなく工藤君のものだった。
「じゃあ………本当に、工藤君?」
「はい………」
その言葉を聞いた瞬間、音夢の視界は暗転した。
AM9:30 朝倉家純一の部屋
「………うぅん」
「おお、やっと気がついたか、朝倉妹よ」
いきなり聞こえた懐かしい宿敵の声に反応し、神速の裏拳をたたき込む。
「ええ、久しぶりですね、杉並さん」
後ろに仰け反ったまま、
「やはり、時空の断層…………」
と呟いていた。
部屋を見渡して、兄さんの部屋だと分かる。
たぶん、杉並さんを考慮してこっちに運んだのだろう。
「あ、目が覚めましたか」
洗面器とタオルを持ってきた工藤君が部屋に入ってくる。
「あなたが純一君の………」
その後ろ、工藤君と似た人物が入ってくる。
「あの、そちらの方は………」
その人は、軽く手を振りながら、
「ああ、私は工藤彼方。叶とは親戚関係で、今は純一君の内縁の妻やってます♪」
一瞬で工藤君の腕が閃き、その次の瞬間には彼方さんは腹を押さえてうずくまっていた。
「まあ、この人の生き甲斐は面白く生きる事ですから。あまり気にしないでください」
突きだした拳を振るってほぐし、片手で支えていた洗面器に手を戻す。
「あ、あはは………」
あまりの手際に共通するものを感じた。
警戒しなくては。
「とりあえず、朝倉さんが気絶している間に連絡は済ませましたから、皆さんもここに来る事になります」
という事は、ここに兄さんの知り合いが全員終結する事になるのか。
………入りきるのかなぁ?
「でも、どうして男装していたんですか?」
とりあえず、最もな疑問から聞いてみる事にした。
「真摯な態度で勉学に臨むべき学生時代色恋沙汰など以ての外、故に在学中は女である事を捨てなさい
これが、工藤家の現当主であるお祖母様の言いつけでした」
その一言で、愕然とした。
まさか、あの工藤君にそんな事情があったとは………
「でも、その話はこう続くんです。
浮ついた色恋沙汰は御法度。然れども、生涯の伴侶に相応しき男性が相手であれば話は別………ということです」
「じゃあ、工藤君は伴侶を見つけたって事なんですか?」
「え、ええ………」
何だか動きがおかしい。
何か重大な見落としがあるような………
「あれ? 音夢ちゃんには話してないの?」
後ろから彼方さんの声が響く。
「えっ? どういうことです?」
「ふぅ………以外と鈍いな、朝倉妹よ」
そのとき、初めて何もかもが結びついた。
「じゃ………じゃあ、もしかしてその生涯の伴侶って…………………!!」
軽く頬を紅く染めながら、
「はい………朝倉君です」
と告げた。
その瞬間から音夢が再起動するまで、数十分がかかった。
AM9:50 朝倉家リビング
静かに、茶をすする音が響く。
テーブルに座る四人の若者がお茶をすすっている。
一人は何とも言えないオーラを放っていた。
一人はそれに負けないように懸命に踏ん張っていた。
一人は我関せずとお茶菓子を口に入れ味を楽しんでいた。
一人は二人のオーラに板挟みとなり冷や汗を流していた。
「では、きっかけは兄さんが桜餅をくれたところから始まってたんですね?」
「ええ、それ以来………意識して朝倉君の側にいましたね」
そこはかとなく、火花が散っている。
「うぅ………肩身が狭い……………」
工藤家側としては叶を応援したい、しかし、音夢の放つプレッシャーがそれを許さない。
杉並はハンディカムを二人にばれないように設置し、撮影している。
後で話の種にでもするのだろう。
ビキッ!
突如、音夢と叶のカップにヒビが入る。
「今、兄さんに関する何か予感が………」
「あ、朝倉さんもですか………?」
握力は更に増し、カップが悲鳴を上げる。
「………ひぃぃぃぃ、こんな所になんで居るんだろう………………」
彼方は、自分の必要性を深く考えていた。
続く
はい、ついにばれました。
ずっとこのシーンを書きたかったです。
そりゃもうこれを書くために頑張ったというか………
………文章力低くてごめんなさいっす……………………