トカゲ軍団が雄叫びを上げながら突撃してくる。

「朝倉様………ここは私が」

 そう言って前に出るスケイルを左手の動きで制する。

「まあ、たまには俺に見せ場をくれよ」

 マントの内側から母なる海の杖を取り出し、精神を集中する。

「吹っ飛べ!!」

 杖の先から莫大な衝撃が生まれ、突撃してくる兵士を全てなぎ払う。

 後に残ったのは膨大な衝撃に晒され、崩れ飛んだ壁の瓦礫だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シルフェイド幻想譚 回顧録 〜二冊目入りました〜

二日目後編−4 砦と隊長と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「こ、これは………!」

 声がした方向を向くと、先ほどの上官クラスより更に偉そうなトカゲ兵が立っていた。

「噂の隊長とやらか、お手並み拝見!」

「家探しがなんでこんな派手な戦闘に………」

「これだけの兵を立った二人で………!?」

 横にいた副官らしきトカゲ兵が青ざめた表情で呟く。

「………ここは私が押さえる、お前は他の物をいったん逃がせ!」

「ハッ!」

 威勢良く返事をした副官が駆け出すと、隊長も剣を構える。

「行くぞ!!」

「来なくていい!」

 振るわれる剣をスケイルが短剣で受け止める。

「させません!」

 スケイルが短剣で隊長の攻撃を全て受け止めるようにこらえる。

「どうした、この程度か!」

 スケイルの短剣が剣によってはじき飛ばされる。

「この程度で良いですね? 朝倉様!!」

「充分!!」

 スケイルがステップで横に逃げると、その正面には純一が立っていた。

「これで! 吹き飛べ!!」

 杖から出るのは壁どころか建物一つ破壊出来そうな衝撃波。

 そう、スケイルが囮になっている隙に集中を続け、威力を高めた衝撃波をたたき込んだのである。

 その衝撃で元からあった瓦礫は完全に吹き飛び、壁は完全に破壊された。

「………びっくり、恐るべし母なる海の杖………」

「私も一歩間違えたら死んでましたね………」

 そのあまりにも凄まじい威力にビビっていた。

「くっ、強い………!」

 瓦礫の中から隊長が這い出る。

「………嘘ぉ」

「生きてる………!?」

 しかし、その足取りはふらふらしており、鎧などは完全に使い物にならない様相を呈していた。

「………次にあった時こそお前を討つ! 覚えていろ!」

 砦の奥に走り、

「総員、この砦から撤退しろ! 一人でも生き残るのだ!」

 撤退を指示しながら逃げていった。

 

 


「これは………ここの鍵だな」

 手早く拾い、砦の中を駆けめぐる。

「朝倉様………火事場泥棒ですか?」

「いや、まっとうな金稼ぎ?」

 駆けめぐり終わった純一の荷物袋は売れるもので一杯だった。

 牢屋の中を調べると、男が一人横たわっていた。

「………おーい、生きてるか?」

「………ん? 誰だ……………助けに、来てくれたのか?」

 その言葉に頷くと、

「俺はエージスってモンだ。魔王を倒す旅の途中だったんだがな………」

 エージスは立ち上がろうとして、

「身体が重くて動けねぇ、悪いが俺をリーリルまで運んでくれねえか? リーリルには医者が居るから………」

「分かった」

 純一はそう答えると、エージスを背に乗せて歩き出した。

 

 


「すいません、急患です!」

「何ですか?」

 リーリルに着くと、真っ先にクラート医院を目指し、到着する。

「………という訳なんです」

「分かった、その人を引き取ろう………それにしても、たった二人であの砦を落とすなんて………」

「運が良かったんですよ」

「そうですね」

 それでも信じられないよ、と言うクラートに苦笑を返すことしかできなかった。

 

 

 

「うーん………」

 診察道具をしまい、考え込むクラート。

「どうなんですか?」

 クラートは首を振り、

「毒の進行が酷いな、ウチの薬を全部投与しても治るかどうか………
 たぶん、どう処置しても進行を遅らせることが精一杯だと思うよ」

 とりあえず安静にするしかないと言われ、礼をして純一達は医院を出た。

 

 

 

「聞いたぞおぬし! たった二人でトカゲ共の砦を落としたそうじゃないか!」

 町を歩いていると一人の老人が純一達に寄ってきた。

 そして、若者がどうとかこうとかという話を聞き流しつつ、老人の家に着く。

「ということで、この家にある物をおぬしに全部くれてやるぞ!」

 家を見渡す。

 調度の良いタンスにテーブルとイス、宝箱が置いてあった。

「爺さん、本当に全部だな?」

「ああ、二言はない!」

 それでは、と前置いて、

「宝箱には………封印の鍵」

「これは貴重ですね」

 そして辺りを見渡して………

「まあ、今はこれくらいで………」

「朝倉様の事だからタンスも持って行くのかと思いましたが………」

 その言葉に首を振り、

「残念ながら荷物が一杯だ。本当は持って行きたかったんだけど………」

 と呟き、老人の家を後にした。

 

 

続く

 

 


まだまだ続く後編です。

砦の成果はそんなに良くないですが、アイテムの売値でカバー。

次にサリムの洞窟での話を書いて、二日目はそれで終わり予定です。

こうご期待。