「ここがその砦か………」
「規模は大きめですね………」
森の中程まで進むと、その姿がはっきりと分かる。
背後は山、正面は森に囲まれた守るにはもってこいの地形。
「さあて………」
「行きますか!」
今、二人の人間がその砦に挑む。
シルフェイド幻想譚 回顧録 〜二冊目入りました〜
二日目後編−3 砦の兵士と
「………で、朝倉様、どうやって攻めますか?」
「まあ、普通に行こうか」
といって、今まで隠れてた茂みから飛び出し、悠然と正門をくぐり抜ける。
「我が同胞達よ! 最近、人間達の偵察行動が目立っておる!
森の警備を一層厳しくし、魔王様復活の日までこの砦を守り抜くのだ! 良いな、皆の衆!」
その言葉に雄叫びを上げる兵士。
「おじゃましまーす………」
その後ろを堂々と歩く純一。
「うむ、気合いの入ったかけ声で良し! その調子で警備を頼………ん?」
そのとき、上官のトカゲと目が合う。
「………」
「あ、どうぞどうぞお構いなく。続きをどうぞ」
そそくさと砦の奥に退散を決め込もうとする純一。
「………」
沈黙が数秒続き、思い出したかのように部隊長が叫ぶ。
「し、侵入者だ!! 突撃ーーー!!」
「かまうなって言っただろうが!!!」
広間は乱戦となった。
「………いけると思ったんだけどなぁ」
広間の石壁は衝撃波で大半がめくれ飛んでいる。
地面にも焼けこげが残っており、いかに一方的な戦いだったかを物語っている。
今この場で動いているのは純一達と部隊長である。
「そ、そんなバカな………あり得ん………」
残った上官クラスのトカゲの呟きが響く。
「さて、残るは………」
「………くそっ、覚えてろ!」
その言葉と共に、背後のドアに走り、素早く鍵をして逃げた。
「追わないんですか?」
「あのな、一応俺らは忍び込んでるんだ。だったら………」
その一瞬の気迫にスケイルが押し黙る。
「家捜しするに決まってるんだろ!」
スケイルがドリフばりのズッコケを見せる。
「またその手の話ですか!!」
だが、スケイルも理解している。
財布の状況がそんなに良くない事を。
「そうと決まればレッツ家探し!」
そう言って、忍び足で二人は進んでいった。
階段を登ると、見張りと思われるトカゲ兵がいた。
「でさ、森の警備の奴ら、先週だけで二人死んだってよ………」
こちらには気付かず、同僚と会話をしている。
「本当か? 最近は人間も結構攻めてくるんだな………」
「にしても、俺たちも最近は剣とか鎧とか使ってるから人間と同じ条件の筈だよな?
それでも負けるって一体どんな強さの人間なんだよ………」
「やっぱりフォースとかバンバン使ってくるからじゃないか?」
「それか薬とかで身体を強化しているという事も………」
「やっぱ、隊長みたいに桁違いに強い奴が混じってるんじゃないかなぁ………」
「そうかもな。隊長なんて俺たち五十人分より強いからな」
「やっぱり頼もしいな、隊長は」
「そうですね、朝倉様」
その言葉に、片方のトカゲ兵が震える。
純一は楽しそうに、スケイルは半分呆れたように会話をしている。
「そんな人間が来たら怖いな………」
「ああ、まったく早く魔王様復活してくれよ」
「まあ、そうそうこんな所には攻めてこないでしょうし、気長に行きましょう」
「そうそう………って………!」
「あ、しまった」
「ばれちゃいましたね、朝倉様」
いつの間にか会話に参加していた純一とスケイルにようやく気が付くトカゲ兵。
「こんな所まで入り込まれたのか!?」
「と、とりあえず倒すぞ!!」
と、剣を振りかぶり、振ろうとするが、
「遅い」
純一の手から放たれた炎がトカゲ兵を消し炭にする。
同時にスケイルの雷が降り注ぎ、跡形もなくなっている。
「さて、レッツ家探し」
「………はぁ」
スケイルのため息を聞きながら純一は進んでいった。
「ここは………ベットルームみたいですね」
周りには所狭しとベットが列んでいた。
「金目のものは………無いな」
「朝倉様、ここに寝ているトカゲ兵は?」
「とりあえず無視。起きるようなら気絶させる」
逡巡もなく答える。
そして、めぼしい物がないか確認していたら、
「あ、あそこから中のぞけますね」
壁に入ってた亀裂から、隣の部屋がのぞけそうになっていた。
「見てみますか?」
「もちろん」
壁に手を当て、中をのぞく。
「よいか! 強力な侵入者に対抗するため、これから三列縦隊で一階の通路の警備、封鎖を行う!」
先ほどの隊長が、今度は九匹のトカゲ兵を引き連れて叫んでいた。
「侵入者ごとき、隊長の手を煩わせるまでもない! 我々の団結の強さを見せてやるのだ!!」
「おおおーーーー!!」
勇ましい叫びを上げ、一階へ下りていった。
「一階に何かあるようですね、朝倉様」
「いや、それ以上に………」
純一の視線の先、そこには一本の剣がぶら下がっていた。
「アレは、きっと高く売れる。断言しよう。絶対売れる」
「………」
そういったやり取りの後、一階への階段を目指して歩いていった。
「………まで後三日か…………」
一階に降り、先ほどのトカゲ兵軍団を相手にしようと思って進んでいたら、すぐ近くの部屋から話し声が聞こえた。
純一はドアに耳を当てる。
「隊長が居なくなると、労に閉じこめている人間が心配ですね………」
(なるほど、牢屋に何かあるのか)
「そうだな、父の命令通りに毎日食事に毒を盛っているのか?」
「はい、気付かれぬ程度の量を毎日………」
中での音が途切れ、イスのきしむ音が響く。
「人質を取っているから良いものの、そうでなければ何時暴れ出すか分かった者ではないからな。
以後も変わらず、刺激しない程度に監視してくれ」
「はい、分かりました」
「それにしても、父上の言っていた伝説の武具は予定通り見つかっているのだろうか………」
(懸賞金がかかってる剣だな………)
「伝説の武具、たしか太陽の剣と大地の鎧の二つを探しに行ったのですよね?
『人間共は、太陽の剣以外は厳重に管理していないようなので何とかなるだろう』
と、前に隊長が言ってましたよ」
「そうか、うまくいっていれば良いのだが」
「心配せずとも、必ず帰ってきますよ、セタ様」
ドアから耳を離し、音もなく立ち去ろうとしたところで、
「居たぞ! 全員突撃ーーー!!」
先ほどの上官とトカゲ兵が襲いかかってきた。
今日の執務を終え、部下の訓練状況を確認しようと思い、執務室を出る。
「さて、今日は稽古を付けてやるか………」
副官に苦笑される。
今となっては父上と互角に戦えるまで腕は上がった。
だからこそ、まだ上を目指したい。
とか考えている時、
「…………………ぐぁ!」
砦を揺るがす衝撃の音と共に、苦痛の叫びが廊下に響いた。
「なんだ、今の騒ぎは………」
声のした方向に行く。
そこには、
「こ、これは………!」
おびただしい数の同胞達の死体と、
「噂の隊長とやらか、お手並み拝見!」
「家探しがなんでこんな派手な戦闘に………」
緋色のマントを羽織った男と、何故か竜人と同じ匂いがする女が立っていた。
続く
目的ははっきりと言っています。
「家探し」です。
集中の腕輪がものすごく高かったので、本当にお金がありません。
このままでは、やばい?
というわけでお金稼ぎ編第一章・砦でした。