「………とりあえず、この状況を何とかしないと………」
手早く床に落ちていた服に着替える。
スケイルの服をたたんでイスの上に置き、洗面所で顔を洗う。
そして洗い終わるとまだ寝ているスケイルに毛布を掛ける。
床に落ちていた毛布をたたんでソファに掛け、マントをブラシでこする。
スケイルの分の持ち物をワンショルダーリュックに詰め込み、服の上に置く。
「とりあえず、これで問題なし………」
実際には問題が山積みだが、それらを無視して出発の準備を進めた。
純一がこの瞬間に思った事はただ一つの言葉である。
(叶、俺は無実だ)
シルフェイド幻想譚 回顧録 〜二冊目入りました〜
二日目後編−2 理力の町と砦と
「良い天気ですね、朝倉様」
「そうだな………」
元気一杯のスケイルに対し、純一は少しやつれているように見えた。
原因はもちろんスケイルで。
朝起きて事情を聞いたら、
「すごかった………です」
といきなり言い放ち、それが冗談だと分かった瞬間にいきなり着替えを始めようとしたりした。
極めつけは食事の際に「あーん」をしようとした瞬間だった。
一瞬おぞましい気配を感じたのでそれを阻止する。
そして今現在、純一の腕にスケイルが抱きつく形でムーの村の腕輪の露天商を見ている。
そのころの叶
「………」
叶の手にあるティーカップにヒビが走る。
「………」
音夢の手にあるティーカップにもヒビが入る。
その様子を眺めていた彼方は二人の気配に当てられて動けないでいた。
というわけで、あの二人は何となく自分以外の人間が抱きついたりしていると分かる様である。
その上で世界を超えた嫉妬心とどす黒いオーラを向ける事が出来るといった所。
「と、とりあえず行こう………」
スケイルを腕から引きはがし、宿屋に戻って荷物を完全に整えた。
「リーリルへようこそ!」
門番の人に迎えられる。
「あの、ちょっと聞きたいんだけどいい?」
「はい、どうぞ」
「ここって何があるんですか?」
その言葉に、門番は手を広げ、
「リーリルといえばフォース! この一言に尽きます! 理力使い達の聖地! それがここ!!
すぐそこの理力館で一杯フォースを取り扱っています!」
その言葉に礼をして、理力館のフォースを見る。
「攻撃的なフォースは置いてないな………」
「やはり禁術の里のフォースは威力重視なんですね」
とりあえず効果のほどを見せて貰う。
「この波動ってフォース強いな………」
「朝倉様クラスの理力容量があればの話ですけどね………」
とりあえず目星を付ける。
「あれ、買わないんですか?」
「………腕輪買ったから………」
そう言って、スケイルの腕に填っている腕輪を見る。
「集中の腕輪………高かったですものね………」
とりあえずお金が無い事を考えた上で情報を集めることにした。
「とりあえず、今現在集まった情報を元に考えると………」
東側の森にトカゲの砦があるということ。
町の北に変な洞窟があるという二つ。
「スケイル、どっちを優先する?」
「う〜ん、とりあえず砦に行ってから洞窟へねじ込んでみるか」
地図に赤線でルートを書き込む。
「しかし………なあ、スケイル」
「なんですか?」
「また、シングルなのか?」
現在位置は基点にして動くための宿屋。
部屋は、シングルであった。
「この宿屋も小さいためシングルしか………」
そう、この宿屋も二部屋のみなのである。
「でも、前の所より防音はしっかりしてますよ?」
その言葉を聞いた瞬間、殺意がどこからか吹き出し、部屋を包み込んだ。
そのころの叶
「………!」
ティーカップは全体にまんべんなくヒビが入り、今にも砕けそうな勢いである。
「…………………」
対する音夢は机に指が食い込んで、みしみしと音を立てている。
「………あのぅ」
キッ!! ×2
二人に睨まれ、思わず押し黙ってしまう彼方。
その部屋がきしむ音を聞きながら彼方はこの修羅場が過ぎるのを待っていた。
続く
はい、次回は砦攻略戦です。
前回はあっさり終わっちゃいましたが、今回もあっさり終わっちゃいます。
セタよりも魔王の方が強いので………
さて、今回のアイテム!
集中の腕輪
リーリルで大人気の腕輪。付けていると集中力が高まる。
高級品である。
さあさあ、後半もまだまだこれからです!!