「ふふっ、兄さん絶対驚くでしょうね………」
口を開けば兄さんのことばかり。
朴念仁で、なんでもかったるいって怠惰な、
それでもやる時にはやる人。
それが、私の兄さん。
インターホンを押し、兄さんと二人で決めた置き鍵のある場所から鍵を取って開ける。
「にいさーん、帰りましたよー………? 兄さん?」
家の中は静かで、
目の前には、
どこか見覚えがある女の人がいた。
朝倉 音夢
シルフェイド幻想譚 回顧録 〜二冊目入りました〜
幕間その1 出会った二人
AM8:30
工藤家純一の部屋
「というわけで、昨日の夜からずっと計算とかしてたんだけど、急に力の流れが変化して………」
「俺はその計算の手伝いをしていたわけだ」
杉並があくびをしながら答える。
「という事は………」
「十中八九彼方ちゃんと同じだね」
どこから出したのか、ホワイトボードを取り出す。
「昨日、叶ちゃんには説明したけど、彼方ちゃんにはまだだから………」
「どういう内容なの?」
ホワイトボードに簡単な図を書き込む。
「ぶっちゃけて言っちゃうと、ここに咲いていた桜って世界中の人たちの夢だったんだよ」
寝ている人と、その頭に吹き出しで夢を書く。それを矢印で桜の絵と繋ぐ。
「その集った夢を使って人に不思議な力を持たせていたの」
彼方はちょっと考えてから口を開く。
「つまり、世界中から夢を集めてそれを現実に再現する力………」
「そう、わかりやすく言うとそう言う事」
「長くなりそうだから………私、一応探してくる」
叶がフラッと部屋を出ていった。
彼方がそれを追おうとするが、さくらに止められる。
「今は、そっとしといてあげて………」
「で、話を戻すけど昔、お祖母ちゃんがこのシステムを創り上げた。でも、この間僕がそれを閉じた」
桜の木と人、人の上に夢を見ている絵を描き、絵から矢印で桜に繋ぎ、矢印に×印を付ける。
「そうすることによって世界自体が安定を図ろうとして試行錯誤する」
ミステリーサークルの記事やその他怪奇現象の記事を貼り付け、夢の線に繋げる。
「まあ、それもこの1年の間に衰退して行ったんだけど………ここでイレギュラーが発生」
新聞記事の線に×印を加え、大回りで桜と夢を繋ぎ直す。
「ここに誰か分からないけど介入、衰退していた線を無理矢理修正して桜に繋ぎ直す」
夢と桜を繋ぐ線に更に矢印で線を引き、片側に?と書き込む。
「この人の目的は分からないけど、とりあえず彼方ちゃんを自分の世界に引き込むためにシステムを使ったということ」
桜から新しい線を引き、間に彼方と書き込み、別世界と書き込んだ部分と繋ぐ。
「つまり、私は無作為に選ばれてしまったと」
「その辺りの関連はまだわからない………でも、何か一波乱あるのは確かだよ………」
「ところでご両人、叶の部屋にこんな物が落ちていたんだが………」
杉並が手にしていた物。
それは、月を模した、一振りの剣だった。
AM8:45
桜公園始まりの木
「これが………その桜の木………………」
夏の日差しの中、淡いピンクの花びらが風に揺れていた。
「昔はこれのおかげで勇気をもらえて、今はこれのせいで苦しんでる………」
その声に答えるかの如く、風が静かにそよぐ。
ここだけ夏の暑さを感じさせないように。
「できれば、早く、朝倉君を帰して欲しいな………………」
振り向き様に呟いた言葉は梢の中に消えた。
AM9:00
朝倉家玄関
一昨日まで人の気配があった家。
今日は一切の気配を感じない。
「朝倉君………」
呟く言葉は静かに。
ピンポーン。
「こんなときに一体誰だろう………」
出る気力がない。
でも、何故か鍵を開ける音が響く。
「にいさーん、帰りましたよー………? 兄さん? …………………えっ…!?」
「朝倉………さん?」
そこにいたのは朝倉君の妹。
そういえば………
――― 回想 ―――
いきなり朝倉君の携帯が鳴り出す。
「………音夢から電話? いきなりなんだ?」
通話ボタンを押し、電話に出る。
「はい、ただいまこの電話は使われていません。またお掛け直しください」
いきなりそんなボケをかます。
「久しぶりだな、音夢。で、どうしたんだ?」
どこか楽しそうに話す朝倉君。ちょっと妬ける。
「へぇ、いつ帰ってくる予定だ?」
どうやら話が本題に入ったようだ。
そう思ったら、朝倉君がいきなり何かを吹き出した。
「な、ななな………なんだとーーーーーー!!」
目に見えて混乱している。
「あ、おい! 音夢!?」
「朝倉君?」
「………なんというか、大混乱になりそうな予感が………」
「どうしたの?」
私が問いかけると、
「音夢が………帰ってくる……………………………………」
私と朝倉君が、石になった。
――― 回想終了 ―――
「あなた………どちら様でしょうか………?」
瞬間、朝倉さんの身体からどす黒いオーラが発せられる。
「え、えーと………」
「どちら様でしょうか!?」
こんなときに朝倉君が居ないのは厳しいですが、正直に話さないと死に目をみそうなので………
「く、工藤叶………です」
続く
本編中で出会っていない二人の出会いです。
音夢、デスモード突入。
次回はどうなることやら………