さて、現在に至るまでの事は全部思い出した。

それにしても、目が覚めたらいきなり森ってどうよ?

新手の杉並現象か?

そう考えていると、周囲を割れんばかりの光が覆った。

そして気がつくと目の前には綺麗な女性が浮いていた。

額に角、耳は獣系とバラエティに富んでいる。

「朝倉さん、見えますか? 私です、リクレールです………」

とりあえず、一番突っ込みたい所を突っ込む事にした。

朝倉 純一

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シルフェイド幻想譚 回顧録 〜二冊目入りました〜

一日目前編 冴え渡るツッコミ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワイヤーアクションも大変だな………杉並から幾らで雇われたんだ?」

「………はい?」

 とりあえず後ろや辺りを見回す。

「こんな大がかりな白いセット作って………幾らかけてるんだか、あいつは」

「えーっと………朝倉さん?」

「照明も鈴木○子の顔に当てるクラスの奴持ち出して………怒られても知らんぞ」

「え、えーと………アトラクションとかそう言った事は一切関係ないのですが………」

 とりあえず事情を説明しようとしているリクレールに、辺りを探り回って杉並のカメラを探す純一。

 

10分後………

 

「どうやら、本当にシルフェイドの世界とかって所なんだな?」

「もう何度目の説明か分からないですけど………はい、その通りです」

「ここは私が作った名も無き天空大陸。人々が平和に暮らせる世界………のつもりでした」

「つまり今はそうじゃないと」

 純一のツッコミに頷くリクレール。

「まもなく、この島に悪いことが起きようとしています。
 この島の人々に関わる『災い』が起きようとしているのです」

「幸い? 良い事じゃないのか?」

「災いです! 『さいわい』じゃなくて『わざわい』です!!」

 息を深く吐き、リクレールが仕切り直す。

「『災い』の正体は分かりません。ただ、『十五日後』にそれが起こる、と言うことだけが私には分かるのです」

「で、わざわざ呼んだ理由は『災い』がなんであるか、そして『災い』の阻止って所だろう?」

「その通りです。これからどんな『災い』が起ころうとしているのかを、どうか見つけ出して欲しいのです
 そして出来ることなら、その『災い』が起こる前に何とか阻止して頂きたいと思っています」

 予想通りだが、あくまでも予想範囲なのでそのまま流す。

「そのためにあなたに『三つの力』を授けましょう………
 一つ目の力はトーテムの力。

 あなたのみに宿るトーテムにより普通の人間とは比べものにならない力を身につけることが出来るでしょう………

 二つ目は十五個の命。あなたは戦いで命を落としても十五回まで私が新しい身体を作ってさしあげることが出来ます。

 三つ目の力は、この世界の人々と話をするための言葉。
 この島の人々の話や文字は、あなたが理解出来る言葉として認識出来るようになるはずです

 これらの力を使い、この世界に起ころうとしている『災い』を見つけ、そしてどうかそれを防いでください………

 ……………これが身勝手なお願いかもしれないという事は分かっています。 

これまでに説明した私のお願い………聞いて頂けますか?」

「オッケー。力と命をあげるから災いをどうにかしろという事だろう?」

「その通りです」

 首を回し、肩を回す。

「かったりぃ、がやってやる」

「ありがとうございます。意識の海から見つけられたのがあなたで、本当に良かった………私は、あなたの旅の無事を祈ってます………」

「あ、最後に質問いいか?」

「なんですか?」

「俺が来る前に、彼方って奴がここに来なかったか?」

 リクレールは何一つ身じろぎせず、

「いえ、来ていません」

「そうか、分かった」

 そうして光は消え、元の森に戻った。

 

 

 

「………私の声が聞こえますか?」

 突然、頭の中に女性の声が響いた。

「私はスケイル、あなたのお手伝いをするために遣わされたトーテムです」

 凛と響く声に頷く純一。

「これから朝倉様にいろいろなアドバイスをいたしますので、不安な時はいつでも相談してください。
 私と朝倉様は言葉を交わさずともお話が出来ますからいつでもどこでもお話をしてくださって結構ですよ」

「だけどその前に………」

 懐の鞄から一冊の本を取り出す。

「たびのてびきしょ〜(ウワォ〜!! パラリロリラン!!)」

「………すごい効果音ですね」

「さて、早速読むぞ」

 スケイルの一言をスルーして読み始めた。

 

 

………五分後

 

 


 文字は読めないが意味が頭の中に入ってくる。

 時間は十二進法二十四単位分で一日、数字一つ分六十単位で次の単位へ進む。

「まあ、要するに元の世界と同じ、と」

 さくさく読み進め、大まかな内容を完全に覚え、細かい内容も読み進める。

 全てを読み終え、本を閉じる。

「なあ、スケイル?」

「なんでしょうか、朝倉様」

「お前って、男に興味あるんだ………」

「私はどんな事にでも興味がありますよ?」

「字汚いな、これ」

「そうですね………」

 純一がため息をついて本を閉じようとすると、一枚の紙切れが落ちてきた。

「この紙切れ、何か書いてありますね。どれどれ………」

 紙切れを見ると、

『これは私が徹夜して書いた旅の手引きの書です。大事に読んでくださいね?
リクレールより』

 と書いてあった。

「えっ!? この本、リクレール様が徹夜して書いたんですか!?」

「はい!?」

 あまりの内容に純一も驚く。

「では、このあまり上手でない字は………」

「普通に下手だろこれ」

 もう一度本を見直す。

 今、頭に明確なスケイルのビジョンが浮かんだ。

 たぶんこの様子はリクレールの事を想像している。

 夜中に机に向かって本を書いている姿。

 眠気に耐えられずペンがふらふら彷徨っている姿。

 字が下手なので『り』なのに『い』と書いている姿。

「「プッ」」

 二人同時に吹いた。

「だ、ダメです、笑いが………ふふ、ウフフフフフ………」

「は、腹が、腹がよじれ………」

 抱腹絶倒という言葉がよく似合うほどの二人。

「それ以上想像すると起こりますよ?」

 一瞬の悪寒を感じ、元の姿勢に戻る二人。

「ゴホンゴホン………とにかくリクレール様お手製の本なんですから大切にしましょうね?」

「………」

 純一は何も答えない。

「でも邪魔だと思ったら捨てても良いと思いますよ」

 何も言わず、手引き書を抱える。

「確か、藤林投擲法によると………こうやって」

 片手で本のノドを掴み、

「身体の回転と遠心力で投げ飛ばす!!」

 腰からのひねりと腕力、遠心力を持って遠くへ投げ飛ばした。

 幾ら身体能力強化がききにくいスケイルでも元の世界より全てが向上していて、遙か遠くへ本は飛んでいった。

「さて、行こうか」

 

 

 気分さわやかに旅立ちを始めた純一であった。

 

 


続く

 

 


前編でした〜。

一応プロフィール行ってみましょう。

 

朝倉純一


風見学園に籍を置く魔法使いの孫。

付属にいた頃はカロリーを消費して和菓子を生むという魔法と、

他人の夢を見るという魔法を使えたが、今は使えない。

現在は付属時代の元親友だった工藤叶と結婚を前提としたお付き合いをしている。

 

こんな感じで頑張っていきたいと思います。