「橋が、かかってる………」

 二人で、橋の先にある島を見つめた。

「きれいだね………」

 後ろのウリユは嬉しそうに、そして楽しそうに、

「高い………ね。この橋って、掴むところ無いんだね………」

 対照的に青ざめている彼方。

 そう、高所恐怖症である。

 真下に見えるのは海。

 しかし、高さが半端ではない。

 そのうえ今日は風が強い。

「………ごめん、神を倒せないかもしれない。ついでに生きて戻れないかも………」

 死にそうな表情で、橋を渡り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シルフェイド幻想譚 回顧録

七日目後編 神の夢に終焉を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 慎重に一歩を進めて行き、離れ島までたどり着く。

「はぁ………やっと、着いた…………」

 怖くなり下を向こうものなら透明な橋なので海が広がり、正面を向けど島は遠い。

 それを繰り返しながら何とか到着した。

 島の規模自体は小さく、中心に向かうにつれすり鉢状に大地が削れ、雑草が生い茂っている。

「たぶん、島の中心で聖印を使えば………」

 斜面を下り、中心と思われる地点に立つ。

 その部分を中心に半径1メートルほど雑草が生えていない。

「みんな、行くよ」

「うん、カナタお姉さん」

「ああ。これで最後だ」

 彼方が聖印を掲げる。

 辺りに光が満ち、目の前が白く染まった。

 

 

 そこは、誰が作ったかも分からない、洞窟になっていた。

「行くなら行く、準備を整えるなら戻る。どうするのだ?」

 背後には光の珠が光っている。

 触れれば地上へと飛ぶだろう。

「冗談、覚悟は済んでる」

 彼方はゆっくりと前に歩み出した。

「ねえ、カナタお姉さん」

 ウリユの言葉に軽く反応して首を向ける。

 身体は前に進みながら。

「トカゲの人の神様をやっつけたら、それで終わり………なんだよね?」

 一瞬、歩みを止め、歩き出す。

「そうね、そしたら………」

「そしたら?」

 彼方は首を振り、

「ううん。なんでもない」

 

 

 少し進んだ先には階段があり、降りてこいといわんばかりに口を開いていた。

 躊躇無く降りると、島の中心部にある空洞に出た。

 一本道で、辺りには雪が降っていた。

 しかし、冷たさを感じない。

 ただ、前へ進む。

 やがて、崖の部分に到達した。

 目の前には小さな光。

 そこから声が発せられる。

 


――― 私は竜人達の神 ―――

 

――― 私は500年前に生を受けし者………―――

 

――― 死より目覚める前、私は夢を見た。竜人達が暮らす平和な世界の夢を……… ―――

 


 辺りは静かで、神の声以外、何一つ聞こえない。

 


――― ………目覚めた時、なんと側の島には竜人達が誕生していた。そして、人間と戦っていたのだ ―――

 

――― 戦いで死んで行く竜人達を見て、私は何故か悲しみを覚えた ―――

 

――― 彼らは私の些細な夢から生まれた、まがい物の命に過ぎない……… ―――

 

――― それなのに、私は竜人を殺す人間を憎んだ ―――

 

――― 私のその憎しみは、そなたらが魔王と呼ぶ存在を生み出した……… ―――

 

――― 最初に魔王を生み出してから、もう500年にもなる……… ―――

 

 神の言葉は続く。彼方は口を挟まない。

 

――― 私は人間を憎み続けた。昔も、今も、ずっと ―――

 

――― そして今まさに、私は人間を消そうとしている ―――

 

――― 一つ問おう、そなたはそれを止めに来たのだな………? ―――

 

「ええ、そうよ。私はあなたを止めに来た。だから、戦う」

 

――― 良い答えだ ―――

 

――― 私を殺さねば、人間は静かに消えゆくだろう。だからそなたは私を殺さねばならない ―――

 

――― そして私が死ねば、私の夢から生まれた竜人達もみな消えるだろう ―――

 

 彼方が、月の剣を抜く。剣から発せられる光が雪を照らす。

 

――― この島で最も強き人間よ ―――

 

 ウリユが両手を前に出し、精神を集中させる。

 

――― そなたが私を倒さねば、もう誰も私を止める者はいまい ―――

 

 彼方の身体から、力があふれ出す。

 

――― だから………そなたが諦めるまで、何度でも死を授けよう ―――

 

 ウリユの両手から電気が走り始める。

 

――― さあ、ゆくぞ ―――

 

 その言葉が合図となり巨大な白竜が姿を現した。

「行くぞ! カナタ!!」

 月の剣を振りかざし、斬りかかる。

 その瞬間にウリユが雷を浴びせ、神に牽制を掛ける。

 大振りな一撃は巨大な神に当たるも、そんなに傷にはなっていない。

 お返しとばかりに雷を放ってくるが、冷静にステップで避ける。

「堅い………ウリユ、攻め続けるよ!」

「うん! カナタお姉さん!」

 その瞬間にウリユの手から衝撃波が放たれる。

 神はそれを仰け反って避けると、走り込んできた彼方に鋭い爪を向ける。

 それを紙一重で避わし、振るってきた腕を切る。

 手応えはあるものの、やはり神に効果的なダメージとはなっていないようである。

 

 

 


「はぁ………はぁ………」

 双方の身体はもうすでにボロボロである。

 神も彼方もお互いに決定打を与えられていない。

 彼方の着ている精霊のローブはあちこちが焼けこげて、細かい傷が全体にまんべんなく付いている。

 神の方は全身切り傷を負っている。

 しかし、まだ両方とも動ける。

「やあああああぁぁぁぁぁ!!!!!」

 裂帛の気合いと共に剣を振るい、神の身体に傷を増やす彼方。

「キシャアアアアァァァァ!!!!!」

 肉を切らせ、その隙に攻撃する神。

 実力は伯仲していた。

「うわああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 彼方が神の頭めがけて一気に大上段から振り下ろす。

 それを神が歯で受ける。

 その隙を狙って火炎を吐く。

 そんなやり取りの繰り返し。

 戦い始めてどれくらいの時間が経っただろうか。

 

――― なんという強さだ………本当にこれが人間だというのか……… ―――

 

 神の声が頭に響く。

 

――― 私もそろそろ死への恐れを感じ始めてきた……… ―――

 

――― そなたの命が尽きるのが早いか、私の命が尽きるのが早いか……… ―――

 

――― 正真正銘、最後の戦いだ……… ―――

 

――― ここからは全力で行くぞ、人間よ………!!!! ――― 

 

その途端、神の身体から膨大な理力があふれ出す。

「冗談、こんなところで負けてられないのよ!!」

 彼方の身体から青白い光があふれ出す。

「いやあああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「キシャアアアアァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 お互いの攻撃が交差する。

 激しい火炎や雷撃、衝撃波が踊る中、彼方が突撃する。

 全てを引き裂き、月の剣が神の頭に刺さる。

 

――― これで、終わりか……… ―――

 

――― だが、これでいいのだ……… ―――

 

――― 私ももう、生きるのに飽きてきた……… ―――

 

――― ………さらばだ、人間よ…………… ―――

 

――― 願わくば、人間達が良き生命とならんことを……… ―――

 

 そう、頭の中に響きを残し、神の気配が完全に消え去った。

 それまで空洞内に降り続いていた雪も、完全に消え去った。

 

 

エピローグ1へ続く。

 

 

 


はい、どーも! 大学受かっちゃいました!!

ついでにシル幻でも神を倒しちゃいました!!

次回、エピローグ!

 

――― 遙か彼方の世界より、果てのある夢を。 ―――

 

お楽しみに!!