神殿の朝は綺麗で、

 静かで、

 これから何か起こる様な………

 そんな感じがした。

 そして、何となく、

 終わりが見えたような、

 そんな気がした。

工藤 彼方

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シルフェイド幻想譚 回顧録

七日目前編 封印の神殿にて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝靄が立ちこめる中、身体をほぐし、食事を摂る。

 しばらく神殿内を歩き回り、何か良い物がないか物色する。

「………どうやら地下に何かあるみたいね」

 宝箱を探し終えた彼方が階段を下りる。

 降りきった先に扉があり、

『ここから先は魔王を封印せし場所。先行く者は聖印を掲げよ』

 と汚い字で書かれていた。

「賢者サリムさん、たしか魔王になりそうだったんだよね………?
 この扉は、魔王になりかけている時に作ったのかなぁ………」

 そう言いつつウリユが扉を調べる。

「………うん、一年前くらいに理力で封じられてるね………」

「カナタ、扉に聖印を掲げてみるか?」

「そうね………」

 鞄から太陽の聖印を取り出し、掲げる。

 扉がまばゆい光を放ち始め、

「これで、通れるわね」

 音もなく消え去っていた。

「さて、確認しておくぞ、カナタ」

「どうぞ」

「この神殿全体にフォースの封印がかかっているから、魔王の結界は発動しない」

 頷く彼方。

「しかし、こちらもフォースは使えない」

「だから、わたしは役立たずになるから………」

「まあ、相手も使えないなら、こっちが有利よ」

 奥へと進む。

 一部分、壁がこわされて新たに道が付けられている部分があった。

「つまり、ここにいる訳ね………」

 意を決して道を進む。

「………準備は良いか、カナタ」

「もちろん、行くわよクロウ、ウリユ」

 二人が頷くのを見て、更に歩を進める。

 

 


 行き止まりに、それは居た。

 ローブと思しきものを身に纏い、

 手には杖を持ち、

 獰猛な牙と、羽、鱗を持つ、

 トカゲ人が居た。

「う………アア………………」

 うめき声を上げる。

「そこに、居るのは………人間か………」

 苦痛に満ちた声。

「逃げろ………私の精神ではもう………この身体を押さえきれん………………」

 剣を構える。

「う………があああ……………」

「魔王さん………」

 その一言で、状況が動いた。

 本能のままにフォースを放とうとするが、封印の効果で放てず、その場に止まってしまう魔王。

 その隙をついて彼方が幾度も斬りかかる。

「遅い!!」

 更に連撃、休み暇を与えない。

「トドメ!!!!」

 彼方がすれ違うと同時に魔王も爪で斬りかかる。

 お互いが通り過ぎ、

「グオオオオオオォォォぉぉぉぉ…………」

 魔王が倒れ伏した。

 彼方は剣をしまい、そっと汗を拭った。

 同時に魔王から邪悪な気配が消え去っていった。

 

 

「う………うう……お…おお………」

 魔王が起きあがる。

「目が………覚めてきたぞ…………」

 目の色が変わり、ゆっくりと言葉を紡ぎ出す。

「私はかつて賢者サリムだった者………50年前の魔王を倒した人間の一人だ………」

 杖を支えにして足を地面につける。

「だった者………という事は」

「そう、倒した魔王の呪いでこのように、私まで魔王になってしまった」

 杖を振り、彼方の眼前に突きつける。

「そこにいる、トーテムの力を持ちし者よ。
 私の意識が敵と繋がったおかげで、私は重大な事実を知る事が出来た。
 いいか、よく聞くのだ………」

 軽く息を吸い込む。

「神と呼ばれる者が、人間をこの世界から消そうとしている………」

 いきなりの一言に何も言えない彼方。

「そして人間を消滅させる術はなんと今も続いているのだ………!」

「まさか………」

「人類が完全に消滅してしまうのは8日後の夜中0時………
 それまでになんとしてでも神を倒さねばならん………
 神のいる場所は私の別荘から南東の方角、その先の離島地下深くにいる………」

 何となく引っかかるところがある彼方が首をかしげているのを余所に、サリムは話を続ける。

「誰が何をしたか知らないが、今なら橋が架かっていて、神の島へたどり着く事が出来る………」

 彼方が手を叩く。

「ああ! 魔王の心臓!!」

 


――― 回想開始 ―――

 

 

「雪?」

 そこは雪原だった。

 しかし、ある部分を境に完全に途切れている。

「初めて見た………」

 不自然だが、綺麗だった。

「む………? カナタ、鞄が揺れているぞ?」

 クロウの言葉を不思議に思い、鞄を開けて調べてみる。

「………? 魔王の心臓が………」

 怪しく光を放っていた。

「ここで使うのか?」

「みたいだね………」

 天に向かって掲げる。

 すると、彼方を導くように透き通る橋が延び始めた。

 手に持っている魔王の心臓も激しく脈動している。

「この調子なら明日の今頃は………」

「僕は汽車のなか〜」

「橋が架かるね」

 二人にスルーされ、いじけている彼方を尻目に、二人は橋の向こうを見続けていた。

 


――― 回想終了 ―――

 


「………ちょっと悲しくなってきた………」

「どうした?」

「いえ、話を続けてください」

 先を促す彼方に乗せられ、話を続けるサリム。

「神の島の目立つところで聖印を使え。
 さすれば聖印がお前を神の元へと導いてくれるだろう………」

「ありがとう、賢者サリムさん」

「気を付けろ、神は強い上に凄まじい生命力を持っている………だが、傷はすぐに癒えぬ。
 何度も戦い続け、奴に傷を重ねていけば何時か勝てるはずだ………」

 その場で礼をし、静かに去る。

 

 

 


「とりあえず、目的地は決まった。だから、これが最後の戦いになるわ」

 転移のフォースを使ってリーリルまで戻り、現在宿屋の一室に地図を広げている。

「目的地はここ。橋が架かりきるまでの時間的猶予は結構ある………残りの時間、どうやってすごそう?」

 ………真剣に、時間つぶしの手段を考えていた。

 

 

 

続く

 

 

さあ、佳境です!

神との決着編はもう間もなく!

でも次回は息抜きだったりしてーーーー!!