浮いている月の剣を取る。

 剣は彼方の手に収まると、淡い光を放つ。

「どうやら太陽の剣と同じ力が備わっているようだ」

 刀身も刃こぼれ一つ無く、今まで使われてこなかった事が証明されている。

「きれいな剣だね、カナタお姉さん」

 そうね、と返事を返して、神殿を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シルフェイド幻想譚 回顧録

六日目中編 サリムの日記

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、そうやって勇ましく神殿を後にしたのは良いんだけど………」

 周りには森が広がっていた。

「ここどこだろうね?」

 つまり、迷子になっていた。

「まだ陽が高いのは幸いだが………このままでは夜になってしまうな………」

 クロウの言葉を受け止め、何とか道を探す。

 すると、

「ねえ、カナタお姉さん。あそこに見えるのって家じゃない?」

 言われてからその方向を見ると、森が切れていて、その先に見える湖の畔に家が一軒だけ建っていた。

 家に近くまで行くと看板が立っていた。

「サリムの別荘………サリムって50年前に活躍した賢者じゃない」

 そう言ってドアを見てみると、

「カナタ、暴れるなよ?」

「分かってるけど、この怒りどうしようか………」

 ドアは不思議な扉だった。

 現在、鍵はない。

 となると入れないので、あの惨劇に繋がろうとした時、

「あ、この扉開けられるけど、どうする?」

 彼方の首が一瞬でウリユに向けられる。

「本当に!?」

「う、うん………じゃあ、開けるね」

 そう言ってドアの前に立ち、二、三言呟いた。

「これで入れるよ」

 そう言って、彼方の方を見るウリユ。

「…ありがとう……………」

 彼方は涙ぐんでいた。

 

 


 中を探ってもたいした物は見つからなかった。

「カナタお姉さん、これ………」

 ウリユがテーブルに置いてあった本を指さす。

「賢者サリムの日記………?」

「これって手がかりとか書いてないかなぁ………?」

 手にとって開けようとする。

「………? 開かない?」

 表紙をよく見てみると、親愛なる我が子孫達へと小さく書かれている。

「子孫………イシュテナとかなのかな?」

「どうするカナタ?」

 日記を手に取り、

「リーリルまで行ってみましょう。転移出来るのはあと二回、それ以上はちょっと厳しいかな?」

 リーリルを思い浮かべる。

「飛ぶわよ!」

 その瞬間、彼方達の姿が消えた。

 

 

「あら、カナタさん………どうしたの?」

 リーリルに着いてすぐにクラート医院に駆け込む。

「実はこれ………」

 サリムの日記を手渡す。

「これは、おじいさまの本!?」

「偶然別荘を見つけて………そこで………」

「とりあえず届けてくれてありがとう、早速、読んでみるわ」

 はやる手を押さえてイシュテナが本を開く。

 

――― バーン歴495年 ―――


「495年っていうと、おじいさまが行方不明になってから一年後の話ね………」


――― 魔王が二度と現れぬようにするための手段を探し始めて、すでに40年が経った。

これまでに調べてきて分かったことが一つある。

それは、『魔王とは別に、魔王を生み出した何者かが存在する』………ということだ。

おそらくそいつを倒さぬ限り無限に魔王が沸いてくるだろう。

私はその『親玉』を探すため、この島を片っ端から捜索することにした。―――

 


「つまり、魔王とは別の存在がいる………」

 呟きながらも読み進める。

 


――― バーン歴496年 ―――

 

―――この一年で島中の捜索が一通り終わったが、敵の『親玉』は見つからなかった。

だが、私はとんでもない物を見つけた。

それは『新たな魔王』!

すでに一匹生まれていたのだ!

魔王が生まれる時には必ず雪が降る筈だが、今回ばかりは雪を見た記憶がない………

だが、奴は魔王だ!

私のロングブレイドは間違いなく魔王の『結界』の力で完全に弾かれた!

太陽の剣もなく、仲間もいない状況、全く太刀打ち出来なかった………

それなのに………奴は私を殺さなかった。

『先代にとどめを刺したのはお前だな………?後四年、せいぜい人間としての余生を楽しむがいい』

………奴はそう言って去った。

『後四年』とはなんなのか、それは分からないが、とにかく時間は無さそうだった。―――

 


「あれは、魔王だったのね………」

「でも、後四年ってなんなんだろう?」

 日記のページは進む。

 


――― バーン歴498年 ―――

 

――― まずい事になった。

私の心に何者かが入り込もうとしている。

人間を凄まじく憎む、とても邪悪な心だ………

直感だが、分かる。これは魔王の意志だ。

奴の言っていた『人間としての余生』とはこういう意味だったのだ。

私の身体は徐々に魔王に乗っ取られようとしている。

おそらく、前魔王はあらかじめこうなるように罠を張っていたのだろう。

『自分を殺した者を乗っ取り、新たな魔王を生む』

………最初からそれが目的だったのだ。

ここが人里離れた別荘で助かった。

もしここがどこかの町であったなら、所かまわずフォースを撃ち放っただろう。

………だがもう、町へ行く事は出来ない。

ただ、私が魔王に乗っ取られようとしているのなら、うまくいけば親玉の場所が分かるかもしれない。

発見が間に合いそうもなければ………
私は魔王になる前に、この命を絶つつもりだ―――

 

「おじいさま………」

 イシュテナの表情が曇る。

「まさか、そんな事になっていたなんて………」

 それでも、日記は進む。

 


――― バーン歴499年 ―――

 

―――                           ダ
                                                          メ     だっ

 

                                                      死ね   な      かっ

 

                       
                                  前に  封印の神 殿に
                        魔王 なる                    行く

 


                         ………        イシュ   テ ナ

 


                                                     会いた

                              さい  ごに

                                                                      かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 顔を俯け、誰も何も言わない。

「………おじいさまはきっと、封印の神殿で今も『待っている』のね………自分を殺してくれる誰かを………」

「………魔王は私が倒したけど………これじゃ、悲しすぎるよ………」

「それにしても、これからどうすればいいのかしら………」

 俯き、考え込むイシュテナ。

「これからどうするの?」

「そうね、………雪が降り始めたら封印の神殿に向かおうと思ってるわ………
 万が一、おじいさまに正気が残っていたら、私はきっとおじいさまを殺す事が出来ない………
 だから完全に魔王になったのが分かったら、ここを発つつもりよ」

 その言葉を聞いて、彼方は席を立つ。

「じゃあ、私は私なりの解決法で行ってみたいと思います」

 それでは、と挨拶を残してクラート医院を去る。

「封印の神殿………この大陸の中心点だから……行き方は何となく想像付くわ………」

 そう呟き、リーリルを後にした。

 

 


続く

 

 

次回、あとがき拡大スペシャル!

装備品データからアイテムまで、一気に大公開!

お楽しみに!