ゆっくりと、しかし確実に光が目に入り込む。

 目の前には、崩壊したはずのシイル。

 だが、映るのは破壊される前の姿。

 目の前にはウリユが居た。

 そして、彼方の顔を見て、

「まってるから、あの場所で………」

 と言った。

 言葉の意味を問おうとしても、

 帰ってくるのは、

 

「ずっと、まってる………だから

 

 絶対、来てね? カナタお姉さん………」

 


 景色が遠ざかり、意識が覚醒する。

 見覚えのない天井、

 そして、一人の女性だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


シルフェイド幻想譚 回顧録

五日目後編−3 そこにあるモノ、聖印とお守り

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「あ、気が付きましたか?」

 目の前の女性は心底嬉しそうに、

「動けますか?」

 と聞いてきた。

 それを首の動き一つで表し、ベットから出る。

 外傷は無い、マントは壁に掛けられていて、内側に着ていたチェインメイルは外されていた。

「あ、目覚めましたか、カナタさん」

 後ろからの声に振り向くと、シンがいた。

「………あの、私、どうしてここに……………?」

「リーリルからの帰り道でタンスによしかかって気絶しているのを見つけて、それで………」

 その言葉を聞いて、

「側に何かありませんでしたか? タンスとテーブル以外に………」

 シンは少々考え込み、

「………トカゲ人間の死体が、羽と角が生えた」

「そっか、倒せたんだ………」

 心、ここに非ずといった感じで返事をする。

「倒せたんだ………ね」

 心が渇いていた。

 ウリユの仇が討てた。

 でも、

 討ったのに、

 それが実感出来なくて、

「シンさん、ちょっと胸を貸してください………」

 シンの胸にすがりつき、

「うう、ううう……………」

 彼方は、泣いた。

 

 

 


「済みません、いきなり泣き出して………」

 数分泣いた後、これまでのいきさつを全て話した。

 砦のこと、ウリユのこと、予言のこと、シイルのこと、今さっきの戦いのこと………

「というわけです」

 と、憑きものが落ちた顔で言う。

「そうですか………」

 横でシンの姉、シズナが頷いていた。

「そういえば………シズナさん、回復したんですね」

 横に目をやると、シズナが食事の支度をしていた。

「一日はベットで安静にしていたんですが、すぐに歩けるようになりました」

 カナタさんのお陰です、とシンは言い、

「本当に、ありがとうございました………」

 深々と礼をした。

「お姉さん、治って良かったです」

 そう言うと、シンは軽く考え込み、一つの包みを取り出す。

「これは?」

「今はちゃんとしたお礼が出来ないんですけど………
 とりあえず、これを受け取ってください」

 包みを開けると、月を象った紋章があった。

「聖印………? 太陽だけじゃなかったの!?」

「僕たちが子供の頃、占い師のお婆さんに貰った物なんです………
『もしあなた達姉弟を救ってくれる人が現れたらその人に渡しなさい』と言われて………」

 じっと見つめる。

 銀色に輝く月を見ているようだった。

 

 

 

 二人に礼を言い、シイルへと向かう。

 ウリユに仇討ちの報告をしようと思ったからである。

 夜になり、シイルにたどり着く。

 その辺りから摘んできた花を持ち、道具屋に向かう。

 かすかな光があった。

 中を覗くと、

「ウリユ………?」

 青白く発光し、宙に浮いているウリユが居た。

「カナタお姉さん………どうして私だけここにいるの?」

 彼方にも分からない。

 何故彼女が幽霊としてここにいるのかが。

「みんな死んじゃったのに、どうして私だけ生きているの………?」

「………い、いや、どう見ても生きているように見えないんだが………」

 クロウの言葉も耳に入らない。

「えっ? でもわたし足ついてるよ? おばけじゃないよ?」

 いやそう言う問題じゃなくてとクロウがツッコミを入れるが、

「えっ、そうなの?」

 と一言で返した。

「もしかして、カナタお姉さんも私がおばけに見える?」

 やっと回復した彼方が頷く。

「そうなんだ………」

 しばらく考えるようにして、

「突然こんな事を言うのも変だけど………私、カナタお姉さんのお手伝いがしたいな………」

 お手伝いしてもいい? と首をかしげて聞いてくるウリユを、

「正直、この世界に来ていろいろ驚きっぱなしだから………一緒に来てくれる?」

 ウリユは顔を笑顔にして、彼方にありがとうと言った。

 


 しばらくウリユと話をし、シイルでの夜を明かした。

 

 


続く

 


ご都合主義と笑いたくば笑え!

ウリユ復活です!

次回から物語は終盤に!

お楽しみにー!

………次回は幕間ですけどね。