「あれ? まさか牢屋まで掃除しに来たのか?」
「はい。丁度当番ですので」
牢の入り口に立つ兵士が驚いていた。
「牢屋の掃除やらされるなんて、お前も大変だなあ………」
苦笑して返すメイド。
「他の給仕に虐められたりしたら言えよ、俺が守ってやるからさ」
「う〜ん、せっかくのお誘いですけど間に合ってます」
こうして、新顔と思われるメイドと牢番の兵士との会話は過ぎていった
彼は気付かない。
彼女が城に呼ばれた最強に近い戦士だということに………
シルフェイド幻想譚 回顧録
五日目後編−2 彼の瞳に、映るモノ
「信じて! 見たの私! 王様が灰色のトカゲ人になるところ!」
叫んでいるメイドの所に近寄る。
「………その話、詳しく聞かせてもらえない?」
「あなたは………だれ?」
新人だろうかと勘ぐるメイドに、
「私はあなたの話が聞きたいの。お願い、協力して」
その真摯な態度にメイドは言葉を詰まらせながら答えた。
「あれは、強い人がお城に呼ばれた直後だったんだよ………。王様がふらりと散歩に出たからつけてったの………
そしたら、人のいないところで化けてたの。
羽生えてたし、大きかった。本当の話、誓っても良いもん」
「カナタ、もしかして王様は………」
(ビンゴ………!)
内心でガッツポーズをし、お礼を言って去ろうとした瞬間、
「………あれ? あんたひょっとして城に呼ばれた強い人じゃないかい?」
隣の牢からの声に見ると、兵士が捕まっていた。
「俺は隣の奴から話を聞いていただけだったんだがな………
まあともかく気を付けろ」
「ありがとう、ええと………」
お礼を言おうとして、名前を聞いていなかった。
「ああ、俺はコウヘイ、隣はミズカな」
「まったく、どうしてコウヘイといるといつもトラブルに巻き込まれるんだよ」
「なんだと、今回はお前だろう。だよもん星人のくせに責任転嫁か!?」
「転嫁じゃないもん。だったらコウヘイはばかばか星人だよもん」
「何!? この美男子星人を捕まえてぷじゃけるなよだよもん! 思わずマイトになってしまったではないか!!」
痴話喧華を始めた二人を放っておき、
(それにしても、朝倉さんの知り合いにそっくりだったな………この分じゃ相沢さんとかもいそうね………)
そんなことを考えながら、彼方は牢を後にした。
メイド服を脱ぎ、元の服に着替える。
「ふう。メイド服って意外と着心地良いね………」
とか感想を漏らしつつ、城から出る。
最初に着てから数時間は遊んでいた。
ドジっ子メイドの振りをしたり鏡の前でポーズを取ったり………
今思えば赤面物ばかりである。
そんなことを思いつつ、城門を出る。
少々離れた所まで進むと、
王様が立っていた。
しかし、その姿は一瞬にしてシイルを滅ぼしたトカゲ人、魔王に変わる。
「ククク………まさか本当に太陽の剣を金にかえるとはな……」
あざ笑うように、
「あの城の王に化けていたのが我だったとも知らずに馬鹿な奴だ………これで太陽の剣は我々の物、もう貴様に用はない………
金に目が眩んだ人間のクズよ、己の愚かさを悔いながらここで死ぬがいい!!」
手に魔力を集中させる魔王。
「………引っかかったのは、あなたの方よ………!」
手にはイーグルブレイド。
数撃加えるが、やはり結界に阻まれる。
「どうした? 蚊が刺した方がマシだぞ?」
言葉に合わせて稲妻を放ってくる。
それを軽くステップで避わし、
「赦せない………!」
背中から荷物として抱えていた物を全て降ろす。
「絶対に………!」
右手で降ろした荷物中にあったタンスの縁を掴む。
縁は彼方の握力に耐えきれず割れるようにして圧縮される。
「何よりも………自分自身に!!!」
タンスを掴んだまま数メートルの高さまで跳躍。
魔王もその姿に衝撃波を放つ。
しかし、その衝撃波も左手に持っていた物で弾かれる。
テーブルだ。
片手では絶対持てないほどの重さの物を余裕で持ち上げ、盾とする。
「何だと!?」
「うわああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
重力の助けとタンスの重たさが相まって強烈な一撃が魔王に加えられる。
魔王も何とか避けるが、右足を潰されていた。
それを見た彼方は、
「いやあああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」
テーブルで左半身を強打する。
数本の骨を砕く音を響かせながら魔王が吹き飛ぶ。
「ぐべぇ!!」
勢いよく吹き飛び、背中から地面に打ち付けられる魔王。
その視界には、
自分の下半身に向かって飛んでくる、
テーブル。
「馬鹿な………! うぐぉう!!!」
テーブルに下半身を潰され、唸る。
「………」
緩やかに歩み寄る彼方。
魔王はもうすでに片手と首しか動かない。
懸命に魔力を込めているが、収束しない。
彼方の手がテーブルを掴み、遠くに投げ捨てる。
「ま、待て………」
「命乞いは聞かない。ついでに一撃でなんて事もしない。みんなの分をちゃんと受け取ってから、思う存分に、死ね」
「だが、神を止めることだけは………絶対に、出来ん」
その言葉に、軽く嘲笑を浮かべ、
「………知ったことか、お前も、その神もみんなまとめて、殺す」
彼方はそのまま右手のタンスを振り下ろした。
何度も何度も。
魔王が死んでからもしばらく。
ただ懸命に、振り下ろし続けた。
全てが終わり、
何もする気無く座っていると、
遠くから、シンの声が聞こえたような気がして、意識を閉ざした。
続く
………うーん、暗い。
今回は後編第二部。
後編は次回でたぶん終わり。
………いや、マジでタンスって武器有りますよ?
テーブルもだけど。
次回をお楽しみにーです。
………読んでる人いるのかなぁ、これ?