しばらく、泣いただろうか。

 気分は落ち着いてきた。

 今、手の中にあるのはウリユのお守り。

 握りしめていると、なんだか暖かい気持ちが溢れてくる。

 ………戦おう。

 最後の最後まで、戦おう。

 そう思い、魔王が去っていったと思われる方向へ、

 力強く歩を進めた。




































シルフェイド幻想譚 回顧録

五日目後編−1 彼女の瞳に、映るモノ







































 カナタさんのお陰で姉さんの病状は回復した。

 僕は珍しくリーリルへ買い出しに行き、その帰り道だった。

 辺りは夕焼け。

 姉さんの看病をしていた頃には感じることは出来なかったが、ものすごく綺麗だ。

 そして、

 サーショの町にさしかかる頃、

 見てしまった。

 彼女の、狂気を。

 そこには、血に染まったカナタさんが居た。

 傍らには、翼の付いたトカゲ人間が。

 何故か、その横にはタンス。

 血に濡れていて、怪しく光を吸収している。

 よく見てみると、握りつぶした後が付いている。

 一体何があったのか、それは、彼女にしか分からない。

 僕は、急いで彼女をサーショまで運び込んだ。












 それから数時間後、

 リーリルに着く。

 城の兵士らしき人がきょろきょろと辺りを見回していた。

「あーすみませーん」

「何でしょうか?」

 いきなりこちらに駆け寄ってくる。

「トカゲ人間達の砦を一人で落とした人がいるって聞いたんですが、ご存じないですか?」

「知っていますが………」

 わざわざ自分の事を誇張する気もないのではぐらかす。

「えっ、本当に?
 実はですね、その人をお城に招待するように言われて招待状を持ってきたのですが、なかなか見つからなくて………
 あ、招待状ってこれなんですけどね、良かったらその人に渡してくれませんか?」

「はぁ………」

 はいどうぞ、と封筒に入った招待状を渡される。

「それじゃあ、後は頼みましたよ! いやーこれで休暇の続きをエンジョイ出来ます。ありがとうございました!」

 そう言うと、兵士はものすごいスピードで去っていった。

「カナタ、どうする?」

「………行ってみましょう。今は奴に関する手がかりはないし………」

 そう言って、リーリルを後にした。







 招待状を門番に見せるとあれよあれよという間に王の謁見室に案内された。

「よくぞ参られた! そなたが竜人達の砦を落とし、剣士エージスを掬ったという話はすでに聞いておる!」

(あのトカゲ兵士のことは「竜人」と呼ぶのか………)

(そうみたい………でも、見つけた…………)

(カナタ?)

「して、そなたの名前は何というのだ? このワシに教えてくれぬか?」

「名乗るほどの者ではありません」

 咄嗟にそう答える。

「………実は、すでに調べはついておる、そなたの名前はカナタというのだろう?
 どうやらそなたはなかなかひねくれ者のようだな。
 だが、その精神は戦いに欠かせぬ物なのかもしれぬ、悪くは言わぬぞ」

 その言葉に、軽く礼をする。

「では、カナタよ。早速だがそなたの腕を見込んで頼みたいことがあるのだ。
 そなた、太陽の剣の話を知っているか?」

「もちろんです」

 手元にある剣の軽く気にしながら答える。

「ほう、さすがだな、耳が早い。
 太陽の剣は五百年前にリクレールが、五十年前には剣聖ゼイウスが魔王を打ち倒したという伝説の剣なのだ。
 そして肝心の頼みなのだが………
 そなたにはその太陽の剣をここに持ってきて欲しい。
 こちらには褒賞として20000シルバを用意している。
 もちろんやるかやらないかはそなたの自由だ。
 我々はその間にその剣の使い手にふさわしい強き者を探す」

 一拍間を置き、

「太陽の剣と強き者、この二つが揃った時、初めて魔王を倒す準備が整ったと言えよう。
 ………これまでは強き者にすぐ魔王討伐をするように命じていたが、やはり下準備が無ければ勝てる戦も勝てぬようだ………」

 犠牲になった人たちのことを考えているのか、遠い目をしている。

「だからこそ、そなたに生きて帰って欲しい、カナタよ。
 今は太陽の剣を見つけ出すことを考えてくれれば、それでよいのだ」

(実を言うと太陽の剣はもう持っているのだがな………)

(………)

「王様、太陽の剣とはこれのことでしょうか?」

 彼方はいきなり鞘から太陽の剣を抜く。

 魔王との戦いを経て、完全にボロボロで、後数回振れればマシといったところである。

「驚いた………すでに太陽の剣をも入手していたとは………
 近衛兵よ、すぐに褒賞を持って参れ!」

 その言葉に弾けるかの如く飛び出す兵士。

「では、カナタ様、これを………」

 シルバ硬貨が大量に詰まった革袋を渡される。

「まったく、そなたの優秀さには頭が下がるばかりだ………」

 王は剣を兵士に持たせ、礼を言った。

「そなたの世話は召使いに任せておるから、ゆるりと滞在なされよ」

 その言葉を背に、彼方は謁見室を後にした。









「カナタ? どうして彼に剣を渡した………?」

「………全ては、ウリユの仇のために………って所かな?」

 頭を抱えているクロウを余所に、彼方は召使いの部屋に入る。

「………有った。これで良いわ」

 タンスの中から一つの衣服を取り出す。

 それは、メイド服だった。






続く






さてさて、本来ならもうとっくに終わっているはずなのに何故か後編で更にパート分け。

うーむ、道は険しい。

今回も特にすること無し。

テーブルとウリユのお守りは後日!

次回もお楽しみに〜