幅跳びの要領で飛びあがる。
その間にも魔王が放った不思議な衝撃を襲うが、かまわずに斬りつける。
先ほどまであった結界の感触はなく、魔王の肉に食い込む感触がした。
それから一気に怒濤の連撃をたたき込む。
しかし、太陽の剣に負荷を掛けることを無いように斬るのでそう威力はない。
魔王はそれに怯む様子もなく稲妻を放つ。
何とか避けているものの、形勢はこちらが不利である。
魔王は本来集中が必要なフォースを集中無しに撃ってくる。
対してこちらは相手の懐に入るためには接近しなくてはならない。
接近する瞬間に魔王は衝撃波を放ってくる。
威力こそ低い物の、確実に体力を削る。
フォースなので盾で防げるわけではない。
彼方自身も耐性はそんなに無いのでそれなりに堪える。
現状として、ジリ貧である。
シルフェイド幻想譚 回顧録
五日目中編 シイル防衛戦・魔王との戦い
雷光を避け、相手を切り、衝撃を貰い、相手の豪腕を盾で受け止める。
先ほどからそのやり取りが続けられていた。
相手にも目立つ傷が多い。
こちらもどこか骨ぐらい折れているだろう。
体中が痛い。
きしみを上げている。
出来るなら倒れたい。
でも、それは出来ない。
シイルには、ウリユちゃんが居るから!
「セヤアアアアアアアアアアアァアアアア!!!」
全力で腕を狙うように切る。
それを腕に力を込めて迎え撃つ。
競り勝ったのは、魔王。
「どうした? 力がたりんぞ?」
そのまま腕で剣を受け止めたまま衝撃波を三、四発まとめて放つ。
それをまともに食らい、地面を転がる。
「トドメだ、これで死ね」
魔王が手をかざすと同時に雷が彼方の身に降り注ぐ。
「きゃあぁああああああああ!!!!!!」
彼方の絶叫が辺りに響く。
数発雷を放ち、彼方が完全に動かなくなったところで、魔王は彼方の横を通り過ぎようとする。
しかし、その足を彼方が掴む。
「行かせ………ない………! ウリユは………私が…………守る…………………!」
魔王は彼方の手を振り解き、数発蹴り付ける。
「………愚かな人間よ、そのまま苦しみ抜いて死ぬがいい………」
すでに彼方の身体はボロボロで、皮膚は感電によって焼き爛れ、内臓器官も相当なまでに傷ついている。
どう考えても助からない。
魔王はそう考えて彼方を放置した。
「………愚かな人間よ、そのまま苦しみ抜いて死ぬがいい………」
彼方が最後に聞いたのは、悪意に満ちたそんな声であった………
薄れゆく意識の中で、彼方はシイルの方角から人々の叫びを聞いたような気がした………
―――そうか、これが………死ぬって事なんだね………―――
そう思い、彼方の意識が消え、その命が潰えた………
「………さん。カナタさん。聞こえますか、カナタさん………」
いつの間にか、一面白の世界に居た。
目の前にはリクレールが浮いている。
「あなたは戦いに敗れ、肉体が滅んでしまったのですね………
しかし、あなたに預けた生命の血漿はあなたの命の片割れ………
それがある限り、あなたに新しい身体を作ってさしあげることが出来るのです………
さあ、あなたに新たな身体を授けましょう。
あなたが目を閉じ、次に目を開いた時、あなたは転移石の前に立っているはずです。
私はここで、あなたを見守っています。
どうか負けないで………カナタさん」
その言葉を最後に、彼方は目を閉じた。
目を開いた時、そこに有った物は、廃墟だった。
今まで人が笑い、怒り、生きていた場所。
今は見る影もない。
「………結局、シイルは守れなかったな………」
クロウの声が響く。
「あの灰色の翼の者、魔王並みの力を持っていたが、どうすれば勝てるのだろう………」
その言葉を無視して、彼方は歩き出す。
宿屋は見るも無惨に破壊されていた。
カウンターの角で、店主が死んでいた。
宿帳が風でページを見せる。
そして、最後のページには、
『旅人さん、あんたの戦い、最後まで見てたよ。
ワシらの為に命を張ってくれてありがとう。
天国に着いたらタダで泊めてやるからな、約束だぞ』
「でも、私はここにいる………」
宿帳をそっと抱き、鞄にしまう。
それから、道具屋へ行く。
建物自体が完全に破壊されていた。
ウリユのベットが有った場所に行く。
そこには、木彫りのお守りが落ちていた。
町全てを探したが、ウリユの遺体だけはなかった。
「………私の力が足りなかったから…………ウリユ………ごめん、ごめん………なさい」
雨の音が、彼方の泣き声を消していた。
世界全体が、泣いているようにも感じた。
続く
皆様がこれを読んでいる頃、私は知床の宿でのんびり温泉に浸かっている頃だと思います。
もしくは爆睡中です。
えーと、シイル攻防戦完結です。
って、石はやめてください!?
当初から予定していたプロットなんです!
だから許してーーーー!!(逃