今日の執務を終え、部下の訓練状況を確認しようと思い、執務室を出る。

「さて、今日は稽古を付けてやるか………」

 副官に苦笑される。

 今となっては父上と互角に戦えるまで腕は上がった。

 だからこそ、まだ上を目指したい。

 とか考えている時、

「…………………ぐぁ!」

 剣戟の音と共に、苦痛の叫びが廊下に響いた。

「なんだ、今の騒ぎは………」

 声のした方向に行く。

 そこには、

「こ、これは………!」

 おびただしい数の同胞達の死体と、

「ここの親玉!?」

 緋色のマントを羽織った人間が立っていた。

 その手には、輝く剣一振りが握られていた。

 刃には、曇り一つ無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


シルフェイド幻想譚 回顧録

四日目後編 攻砦戦・後編、そして………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 トカゲ軍団に見つかってから走って広いところに出て、一人一人確実に仕留めた。

 出来る限り一撃必殺を狙い、確実に仕留める。

 途中、太陽の剣を見ると、ひびが入っていた。

「………これは早めに決着付けないと」

 呟きながら最後の一人を仕留め、一息つく。

「こ、これは………!」

 声がした方向を向くと、先ほどの上官クラスより更に偉そうなトカゲ兵が立っていた。

「敵の親玉!?」

 咄嗟に構える。

「これだけの兵を立った一人で………!?」

 横にいた副官らしきトカゲ兵が青ざめた表情で呟く。

「………ここは私が押さえる、お前は他の物をいったん逃がせ!」

「ハッ!」

 威勢良く返事をした副官が駆け出すと、隊長も剣を構える。

「行くぞ!!」

「望むところ!!」

 剣と剣が交差する。

 頭を狙った攻撃を剣で弾き、次いできた胴への攻撃を盾で受ける。

「貰った!」

 その隙をついて盾で相手の顎を捉え、剣で相手の剣を叩き折る。

「くっ、強い………!」

「完全に入ったと思ったのに動ける!?」

 剣を失った隊長は後ろに下がり、

「………次にあった時こそお前を討つ! 覚えていろ!」

 砦の奥に走り、

「総員、この砦から撤退しろ! 一人でも生き残るのだ!」

 撤退を指示しながら逃げていった。

 

 

 

「………これは、この砦の鍵ね」

「そのようだな、何か無いか探るだろう?」

「もちろん」

 隊長が落としていった鍵を使い、砦を探索する。

 最後に牢屋に行くと、中に人が倒れていた。

「大丈夫ですか!?」

「………ん? 誰だ……………助けに、来てくれたのか?」

 その言葉に頷くと、

「俺はエージスってモンだ。魔王を倒す旅の途中だったんだがな………」

 エージスは立ち上がろうとして、

「身体が重くて動けねぇ、悪いが俺をリーリルまで運んでくれねえか? リーリルには医者が居るから………」

「分かりました」

 彼方はそう答えると、エージスを背に乗せて歩き出した。

 

 

 

 

「すいません、急患です!」

「何ですか?」

 リーリルに着くと、真っ先にクラート医院を目指し、到着する。

「………という訳なんです」

「分かった、その人を引き取ろう………それにしても、たった一人であの砦を落とすなんて………」

「運が良かったんです」

 それでも信じられないよ、と言うクラートに苦笑を返すことしかできなかった。

 

 

 

「うーん………」

 診察道具をしまい、考え込むクラート。

「どうなんですか?」

 クラートは首を振り、

「毒の進行が酷いな、ウチの薬を全部投与しても治るかどうか………
 たぶん、どう処置しても進行を遅らせることが精一杯だと思うよ」

 とりあえず安静にするしかないと言われ、礼をして彼方は医院を出た。

 

 

 

 


「聞いたぞおぬし! たった一人でトカゲ共の砦を落としたそうじゃないか!」

 町を歩いていると一人の老人が彼方に寄ってきた。

 そして、若者がどうとかこうとかという話を聞き流しつつ、老人の家に着く。

「ということで、この家にある物をおぬしに全部くれてやるぞ!」

 家を見渡す。

 調度の良いタンスにテーブルとイス、宝箱が置いてあった。

「お爺さん、本当に全部ですね?」

「ああ、二言はない!」

 それでは、と前置いて、

「宝箱には………封印の鍵」

「珍しい物だな、カナタ」

 そして、彼方は、

「じゃ、次はこれ!」

 テーブルを担いだ。

「オーーーーーウ、ノォォォォォーーーーーーーーーー!!!!」

「最後はこれ!」

 タンスを持ち上げ、紐でくくる。

「ガーーーーーーン!!!」

「どうしたの? お爺さん?」

「………いや、別に家具持ってってもいいんじゃよ、うん」

 じゃあ、とタンス、テーブルを担いで彼方は老人の家を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 時間は遡り、四日目の0時………

「………っ!!」

 夜中、ウリユは飛び起きた。

「………はぁ、はぁ、はぁ……………」

 息が荒く、身体には汗が流れていた。

「どうしよう…………!」

 予言で見えてしまった物。

 それが、彼方の、そしてウリユの運命を決める物とは、誰も知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 再び現時刻に戻り………

「やっぱりタンスとか持ってると重いわね………」

「何故に………」

「気まぐれ」

 そんなやり取りをしながら、夜のシイルにたどり着く。

「? 広場にみんな集まってる………?」

 なんとなしに広場に行く彼方。

「町の皆さんに集まって頂いたのは他でもありません、娘の予言の話です」

 ウリユのお母さんが喋っていた。

 落ち着いてください、と前置きをし、喋り出す。

「昨日の夜中、家の娘が見た未来のことなんですけど………

 『今日の日が変わる頃、大勢の魔物がやってきてこの村の全員が命を落とす』

 という光景を『見た』そうです………

 そう、魔物がやってくるだけでなく、この場にいる皆さんが亡くなる光景を予知してしまったんです………」

 村人が口々に騒ぎ出す。

 今までウリユの予言が外れた事はない。

 そして、ウリユ自身も定められた運命を見ていると言っていた。

 となれば、事実なのだろう。

 そう思った瞬間、彼方は駆け出していた。

 

 

 


「ウリユ………」

「カナタお姉さん………」

 ウリユの声は低く、思い詰めていた。

「もう、聞いた? 私が予知したこと………」

 首を縦に振る。

「嘘だよね………?」

 分かっていても、聞きたかった。

 そのことは、朝話した時に聞いている。

「………朝、すごく辛かったけれど、それでも、カナタお姉さんが来てくれると思ったから………嘘、ついちゃった
 だから、今日でお別れ。
 今日まで、お話に来てくれてありがとう………わたし、とても嬉しかったよ………」

 声が震えている。

 泣きたいのをこらえている。

「予言に出てきた魔物はすごい力を持っていたの………今のカナタお姉さんでもきっと勝てないと思うの………」

 分かってるから、もうそれ以上言わないで。

「だから、」

 そう、口に出す前に、

「………さようなら、カナタお姉さん」

 先に、言われてしまった。

 

 

 

 ウリユの部屋を出る。

 目の前にある薬棚を見る。

「させない………」

 列んでいる薬を掴む。

「………絶対に、変える」

 初めて、叶以外に出来た、心の許せる友達。

 

「変えてみせる! 絶対に、何があっても、ウリユに、

 

明日の朝日を見せる!!」

 

 


 扉を開け、シイルを飛び出していった。

 


続く

 

 

 


隊長は一撃でした。

老人の下りはギャグです。そして彼方の筋力はバケモノです。

ウリユの運命が、翌日決まります。

そんな感じで序盤・中盤・終盤が見事に別れた今回でした。

さて、書く物多いですよ〜


現在の装備


太陽の剣(ヒビ入り)

チェインメイル

ギガントシールド

 

持ち物


太陽の聖印

タンス(何に使う?)

テーブル(だから何故に?)

ロングブレイド(砦にて入手・売却)

ショートブレイド(同上・売却)

不思議な鍵(老人宅にて)

 

使ってみよう!

お題・タンス


カナタはタンスの引き出しをすごい勢いで抜いたり引いたりした!!

「やめろ! 中に入っているオヤジの下着が飛ぶ!」


………中盤最大の山場、到来。

でもその前に、幕間。

次回、幕間おたのしみに〜(逃