森の奥に、その建物はあった。
「これがトカゲ達の砦ね………」
「しかし、警備はスカスカのように見えるな………」
近くの茂みから中をうかがう。
「じゃあ、潜入してみる?」
「それが一番楽だろう。いこう、カナタ」
茂みから音もなく這い出て、入り口に向かう。
(………って、警備はスカスカだけど森に向かうのと鉢合わせってのは考えられないのかな?)
「あり得る話だが、今はそんなことを気にしている場合ではないだろう」
(……そうね)
入り口から中に入ると、
「我が同胞達よ! 最近、人間達の偵察行動が目立っておる!
森の警備を一層厳しくし、魔王様復活の日までこの砦を守り抜くのだ! 良いな、皆の衆!」
「おーーーーッ!!」
トカゲ兵が数人、上官と思われるトカゲ兵の訓告を受けていた。
(魔王………いつぞやかの詰め所で聞いた話ね………)
「うむ、気合いの入ったかけ声で良し! その調子で警備を頼………ん?」
上官のトカゲと目が合う。
「「………」」
見つめ合う二人。
時が止まったように、動かない。
ああそれは、
「し、侵入者だ!! 突撃ーーー!!」
「潜入いきなりでこんなのアリですかーーー!!?」
戦闘の幕開けだった。
シルフェイド幻想譚 回顧録
四日目中編 攻砦戦前編
「カナタ、勝てる見込みあるのか!? 合計五匹!」
「問題なし!」
太陽の剣を構え、相手に突進する。
一匹のトカゲ兵がそれに合わせて突進。
交差する。
「胴ォ!!」
胴を横に切り裂く。
太陽の剣の切れ味は凄まじく、鎧ごとトカゲ兵を真っ二つにした。
「続いて面!」
頭上に盾を構えたトカゲ兵をそのまま縦に分ける。
「小手! 逆胴!」
小手でトカゲ兵の手首を切り落とすと、そのまま勢いで逆胴で横に分ける。
「突き!」
後ろに回り込んで攻撃しようとしたトカゲ兵の攻撃を盾で防ぎ、振り向き様に胸を一突き。
「何故だ、何故人間ごときに………グファ!」
血に濡れた太陽の剣を振り、血を払う。
「そ、そんなバカな………あり得ん………」
残った上官クラスのトカゲの呟きが響く。
「さて、残るは………」
「………くそっ、覚えてろ!」
その言葉と共に、背後のドアに走り、素早く鍵をして逃げた。
「さて、邪魔する者は無し、あの扉はたぶん開かないだろうから、とりあえず上へ行きましょうか」
「そうだな」
上への階段を登る。
二階の廊下には見張りと思しきトカゲ兵が二匹いた。
「でさ、森の警備の奴ら、先週だけで二人死んだってよ………」
こちらには気付かず、同僚と会話をしている。
「本当か? 最近は人間も結構攻めてくるんだな………」
「にしても、俺たちも最近は剣とか鎧とか使ってるから人間と同じ条件の筈だよな?
それでも負けるって一体どんな強さの人間なんだよ………」
「やっぱ、隊長みたいに桁違いに強い奴が混じってるんじゃないかなぁ………」
「そうかもな。隊長なんて俺たち五十人分より強いからな」
その言葉に、片方のトカゲ兵が震える。
「そんな人間が来たら怖いな………」
「そうね、それは怖いわ。私も相手にしたくない」
「そうそう………って………!」
「あ、しまった」
いつの間にか会話に参加していた彼方に気が付くトカゲ兵。
「こんな所まで入り込まれたのか!?」
「と、とりあえず倒すぞ!!」
と、剣を振りかぶり、振ろうとするが、
「遅い」
彼方の剣はそれ以上に速く二人の息の根を止めた。
「ここは………ベットルームみたいね」
周りには所狭しとベットが列んでいた。
「というかうたた寝してる奴もいるし………」
「どうする?」
「やめとく。寝込みを襲うのはイヤだから」
逡巡もなく答える。
そして、めぼしい物がないか確認していたら、
「あ、あそこから中のぞけるね」
壁に入ってた亀裂から、隣の部屋がのぞけそうになっていた。
「見てみるか? カナタ?」
「もちろん」
壁に手を当て、中をのぞく。
「よいか! 強力な侵入者に対抗するため、これから三列縦隊で一階の通路の警備、封鎖を行う!」
先ほどの隊長が、今度は九匹のトカゲ兵を引き連れて叫んでいた。
「侵入者ごとき、隊長の手を煩わせるまでもない! 我々の団結の強さを見せてやるのだ!!」
「おおおーーーー!!」
勇ましい叫びを上げ、一階へ下りていった。
(つまり、これは一階に何かあるということね………)
「行ってみるか?」
(ええ)
そういったやり取りの後、一階への階段を目指して歩いていった。
「………まで後三日か…………」
一階に降り、先ほどのトカゲ兵軍団を相手にしようと思って進んでいたら、すぐ近くの部屋から話し声が聞こえた。
彼方は手早くバックからコップを取り出し、ドアに当てる。
「隊長が居なくなると、労に閉じこめている人間が心配ですね………」
(………牢に誰か閉じこめられている……………!?)
「そうだな、父の命令通りに毎日食事に毒を盛っているのか?」
「はい、気付かれぬ程度の量を毎日………」
中での音が途切れ、イスのきしむ音が響く。
「人質を取っているから良いものの、そうでなければ何時暴れ出すか分かった者ではないからな。
以後も変わらず、刺激しない程度に監視してくれ」
「はい、分かりました」
「それにしても、父上の言っていた伝説の武具は予定通り見つかっているのだろうか………」
(絶対一つだけ揃わない。私が持ってるから)
鞘の中にも関わらず、太陽の剣が光った気がした。
「伝説の武具、たしか太陽の剣と大地の鎧の二つを探しに行ったのですよね?
『人間共は、太陽の剣以外は厳重に管理していないようなので何とかなるだろう』
と、前に隊長が言ってましたよ」
「そうか、うまくいっていれば良いのだが」
「心配せずとも、必ず帰ってきますよ、セタ様」
(………結構大事な情報ね………)
と、コップを鞄にしまい、音もなく立ち去ろうとしたところで、
「居たぞ! 全員突撃ーーー!!」
先ほどの上官とトカゲ兵が襲いかかってきた。
続く
なんだかトカゲ兵より圧倒的に強い彼方ですが、太陽の剣のせいでもあります。
シル幻内では太陽の剣は振れる回数こそ少ない物の、必ずクリティカルが出ます。
RPGにしてある意味最強の剣です。
さて、今回は尻切れでしたが、次回で砦は完結です。
今回は変更点とか無いのでこれにて閉幕!
では、次回のお楽しみ!