音夢が帰ってくる。

 これがどんな事を意味するのか。

 早い話が、筆無精である。

 去年の夏休み、

 音夢は忙しくて初音島に帰省することが出来なかった。

 純一も叶が女の子であり、なおかつ付き合っていることを言っていなかった。

 つまり、

 現時点で音夢は叶の事を男と思っている。

 その音夢が帰ってくる。

 そして、笑顔で問われるだろう、

「兄さん? 兄さんの隣にいる方は誰なのでしょうか?」

 と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シルフェイド幻想譚 回顧録

幕間その3 大混乱の中、朝倉純一がお伝え致します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM17:50

工藤家リビング

 

「………困った。こう問題が立て続けに起こると……………」

 ソファーに身を任せ、考え込む。

「………とりあえず、じっとしていられませんから………私は屋敷の中を探してみます。
 
 もしかすると、いつぞやかの時みたいに『ドッキリでした!』とか言い出して出てくるかもしれないから………」

 叶がそう言って出て行こうとする。

「俺も行く。念のために外を回ってくるよ」

「ありがとう………」

 それに併せて、純一も一緒に出て行った。

「………彼方」

 叶の祖母さんが一人呟き、揺り椅子に身をゆだねた。

 

 


PM18:00

桜公園 視点・天枷美春

 

「やはりチョコバナナは最高です!」

「美春、食べ過ぎだと思うんだけど………」

 そんな月城さんの声など参考程度に聞き流しです。

「それにしても、まだまだ日は高いですね」

「そうですね」

 今日一日、月城さんと一緒にウインドゥショッピングでした。

 ………まあ、美春は日頃の行いが祟ってなにも買いませんでしたが………

「あれ? 美春、あそこにいるのって、朝倉先輩じゃないでしょうか?」

「あ、本当です。朝倉せんぱーーーーーい!!」

 


視点変更・朝倉純一

 

 とりあえず、走ってここまで来たのは良いが、肝心の彼方は見つからない。

 走りっぱなしだったので、止まって息を整える。

「朝倉せんぱーーーーーい!!」

 この何も考えて無さそうなわんこの声は………美春だな。

 歩いて美春に接近する。

 美春の隣にはアリスがいた。

「よう、美春。それにアリス」

「お久しぶりです、朝倉先輩」

「こんにちわ、先輩」

 二人とも変わってない。

 当たり前だ、最後にあったのは一昨日だ。

「そういえば、息が荒いですがどうしたんですか?」

「ああ、実は………」

 事情をかいつまんで説明する。

「そんな………」

「あの彼方先輩が………?」

「そうなんだ」

 二人の表情が曇る。

 叶と付き合い始めて、彼方とも話す機会が多くなった。

 その関係で遊びに行く時も一緒になったりと、美春達とも面識はあった。

「あの、先輩。私たちも手伝います」

「ああ、ありがとう………」

「じゃあ、美春と月城さんで高台から工場区にかけて探しますね」

「分かった。俺は商店街とかを探す。二時間後に工藤家前集合で」

「分かりました、先輩」

 二人と別れ、商店街へと向かっていった。

 


PM18:20

商店街 視点・朝倉純一

 

 商店街の店を一軒一軒覗く。

 駆け足で進んでいると、

「あ、朝倉!」

 声がした方向を向くと、眞子と萌先輩、それと鷺澤さんがいた。

「こんにちわ、朝倉君」

「あ、お久しぶりです、朝倉さん」

 三人で買い物でもしていたのだろうか、それぞれの腕には紙袋がぶら下がっていた。

「ちょうど良いところに………三人とも、彼方を見ていないか?」

 三人は目を合わせ、

「あたし達は見てないわ」

「そうか………」

 若干うつむいてしまう。

「どうしたんですか?」

「ああ、実は………」

 三人に事情を説明する。

「………私たちも手伝いましょう」

「そうですね」

「ありがとうございます」

 三人に礼をして、

「手分けして病院の方向を探してくれないか、俺は学園を探すから」

「じゃあ、私は商店街を一通り見てから行くわ。集合時間は?」

「八時に工藤家前に!」

 言うが早いか、純一は駆けだしていた。

 

 


PM18:50

??? 視点・杉並

 


「ほうほう………」

 周りが闇に覆われた部屋の中で、一人モニターを見つめていた。

 耳にはヘッドセットが当てられ、座っているリクライニングシートの周りには多数のモニターが置いてあった。

 正面のモニターには、走っている純一の姿が映っている。

「………これは、非公式新聞部の出番だな」

 手元のキーボードを操作し、周りの画面を全て消す。

「聞け! 我が同士よ!」

 ヘッドセットのマイクに叫ぶ。

「我が親友、朝倉純一が工藤彼方を探し回っているようだ。

 我々は事情とその行方を徹底的に洗おうと思う。では、各自情報収集開始とする」

 そう呟いた瞬間、周りの空気が動いた。

「さて、風見学園七不思議を超える話題になるかな?」

 杉並が普段着の上着を脱ぎ捨てると、どこに着ていたと言わんばかりに風見学園の制服が輝いていた。

 

 

 

 

PM19:00

風見学園 視点・朝倉純一

 

 時間をかけて全ての教室を見るしかない。

 そう思って、校舎に駆け出そうとして、

「いようっ! 我が友よ!」

 聞こえた瞬間に、ラリアットをかます。

 良い感じに腕が首に入り込み、吹き飛ぶ杉並。

「良いパンチだ、戦友………」

「ラリアットだ」

 杉並が制服の埃を払い、

「で、彼方嬢はこの学園に居ないぞ?」

「何故それを」

「ふっふっふっ、非公式新聞部に不可能は無い。すでにこの中は調べ上げた」

「じゃあ、事情はだいたい知ってるな?」

「分かっているぞ、ではこのまま捜索を続ける。集合は一時間後だったな、ではこれにて」

 素早い身のこなしで去っていく杉並を尻目に、

「やれやれ、気の利く友人で………」

 呟いて、走り出した。

 

 

 

続く

 

 

 

さて、人数も増えて参りました。

これからどうなるか、作者はあんまり考えてません!(ダメだろそれ

次回も、こうご期待!