PM17:35

工藤家リビング 視点・朝倉純一

 

「お、お祖母様!」

「あら、どうしました、叶?」

 叶にしては珍しく息を切らせていた。

「私、私どうしたらいいか………分からなくって………!」

「とりあえず落ち着くんだ、叶。順にゆっくり話してみろ………」

 その一言にゆっくりと深呼吸をして、息を整える叶。

「落ち着きましたか?」

「すみません………」

 息も完全に整い、落ち着きを取り戻した叶が口を開く。

 そして、その口は予想出来ない言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼方が、彼方ちゃんが………私の目の前で消えました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シルフェイド幻想譚 回顧録

幕間その2 そのころの工藤家・大混乱の嵐。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

同地点 視点・工藤叶

 

 

 

「「はい?」」

 やはり二人とも固まった。

「信じられないと思いますが、私の言ったことは事実です………」

「と言うことは、彼方ちゃんが………消えたって事?」

 静かに頷く。

 私自身もまだ何がなんだかよく分かっていない。

「とりあえず、彼方の部屋へ行きましょう。そこで詳しい話を聞きます。良いですね、叶?」

「………はい、お祖母様………………」

 お祖母様の言葉を発端に、彼方の部屋へ移動することになった。

 

 

 

 

PM17:40

工藤家彼方の部屋 視点・工藤叶

 

「………私が声をかけたら、急に光り出して、気が付いたら消えてました………」

 一部始終を二人に説明する。

「………」

 朝倉君は何かを考え込むように黙っている。

「これは………不可解ですね………」

 お祖母様も頭を抱えている。

 無理もない。

「………もしかして」

 朝倉君が何かを呟く。

「何か手がかりでもあるんですか!?」

「それならばぜひ話して欲しいのですが………」

 朝倉君が頷くと、口を開いた。

 

 

 

 

視点・朝倉純一

 


「昔、俺は人とちょっと違う力を使えたんだ。
 自分のカロリーを消費して和菓子を生み出す力と、他人の夢を見せられる力という微妙な物だけどな」

 とりあえず、今は消え失せた力について説明する。

 何かの手がかりになるかもしれないからだ。

「『使えたんだ』、という事は今は使えないの?」

「ああ、この島の桜が散った頃にふと使えなくなった」

 まあ、たいして役に立つ力じゃないからなと笑う。

 そのことを聞いた叶は何か考え込み、

「………っ!」

 急に顔を真っ赤に染めた。

「どうしたんだ?」

「じゃあ、朝倉君………私にくれた桜餅って…………!」

「ああ、俺の力で出した物だ」

 叶の顔と言わず全身が真っ赤に染まる。

「ということは、ということは………!」

 叶が熱暴走寸前に陥る。

「まあ、今はそれをとやかく言う時じゃない。彼方ちゃんの事が優先だろう?」

「………あ、うん。ごめんなさい」

 軽く咳払いをして、

「あの力は俺の推理が正しければ、俺にその力を教えてくれたばあちゃんが関係していると思う」

「ではその人に話を聞いて………」

「残念ながら、ばあちゃんは死んでいる………」

 聞いてはいけない事を聞いてしまったと後悔の表情を浮かべる叶。

「それではその朝倉君のおばあさんが残した力がこの事の原因という事ですか?」

「しかしそれを知る人はもうすでにこの世にいない………」

「そうなるな………だが、糸はまだ切れていない」

 叶と叶のお祖母さんがこちらを向く。

「「どういうことですか?」」

「ばあちゃんの孫に聞けばいい」

 二人とも目を点にしている。

「あの、孫って………」

「芳野さくらだ。一時期だけ通ってただろう? あのちみっこいのがばあちゃんの孫だ」

 とりあえず、希望の光が見えてきたと喜ぶ。

「じゃあ、今から連絡を取るから………」

 懐から新しく買った携帯電話を取り出す。

 手早くダイアルをプッシュ。

 コールが鳴り、すぐに回線が繋がる。

「………もしもし、さくらか?」

『あ! お兄ちゃん! ひっさしぶりー!!』

「なあさくら、国際電話な上緊急なんだ。ちょっとやばいことが起きてる」

『あにゃ? 私になにか関係あるの?』

「あるかもしれない。今すぐこれるか?」

『………OK! お兄ちゃんのためなら火の中水の中!』

「すまないな、さくら」

『じゃあ、すぐ向かうね♪ 明日までに着くからー♪』

「頼んだぞ」

『じゃね〜』

 電話が切れる。

「これで大丈夫だ。明日まで着くって言っていたからそれまで調べられるだけ調べるぞ!」

「はい!」

 叶が返事を返した。

 

 


視点・工藤叶


 そのとたん、いきなり朝倉君の携帯が鳴り出す。

「………音夢から電話? いきなりなんだ?」

 通話ボタンを押し、電話に出る。

「はい、ただいまこの電話は使われていません。またお掛け直しください」

 いきなりそんなボケをかます。

「久しぶりだな、音夢。で、どうしたんだ?」

 どこか楽しそうに話す朝倉君。ちょっと妬ける。

「へぇ、いつ帰ってくる予定だ?」

 どうやら話が本題に入ったようだ。

 そう思ったら、朝倉君がいきなり何かを吹き出した。

「な、ななな………なんだとーーーーーー!!」

 目に見えて混乱している。

「あ、おい! 音夢!?」

「朝倉君?」

「………なんというか、大混乱になりそうな予感が………」

「どうしたの?」

 私が問いかけると、

「音夢が………帰ってくる……………………………………」

 私と朝倉君が、石になった。

 

 

 


続く

 


狂乱の幕間です。

ええ、必死です。

もう大変です。

これからどうなるか、こうご期待!