「でも、本当にこんな所に人が住んでいるのかしら?」
「分からん。ただ、シイルで聞いた話だと誰かいるみたいなことを言っていたな」
鬱蒼とした森の中を歩く。
遠くからは滝の音が聞こえ、近くでは野犬が吠えている。
巨大な鴉が襲いかかってくるのを剣で払い、先へ進む。
森を抜けて目に入ったのは、一軒の家と、
洞窟だった。
シルフェイド幻想譚 回顧録
二日目後編 賢者の娘
「なになに………『ここは第二の魔王との戦いで使われた多くの武器や道具、そして財宝を納めた場所。
私が作りし“キューブ”は人の侵入を阻むだろうが、決して相手を殺しはしない。
トーテムに導かれし者ならば、破壊することが出来るだろう。戦って宝を得るがいい』………
このダンジョンも二つ目ね………」
入念にドアを確かめ、不思議な扉でないことを確認する。
不思議な扉でないことを確認した上で扉を開けようとしたが、開かない。
扉には『我は賢者、我が名を唱えよ』と書かれている。
「確か………賢者の名前って………『サリム』?」
そう答えた瞬間、静かに鍵が開いた。
「………今度こそ、今度こそ内部の探索が出来るのね!?」
「そんなに悔しかったのか? カナタよ………」
クロウの言葉をスルーし、内部へと意気揚々に入っていった。
宝箱の中には財宝という言葉通りに、お金が入っていた。
他にも宝箱を見つけたが、残念ながら鍵が無く、断念することとなった。
「路銀があるって嬉しいね、クロウ?」
「確かにな。今までが貧乏すぎたと言うのもあるが………」
更に奥の方に足を向けると扉があり、『合い言葉を唱えよ』と書かれていた。
「………サリムかな?」
今度は何も反応せず、鍵がかかったままである。
「今は開けることが出来ないみたいだな。いったん戻ろう」
クロウの言葉に頷き、素直に洞窟を出て行った。
「で、こっちが人がいるって話の場所ね」
その家は滝の真横に建っており、周りの音は滝一色に染まっている。
その家に近づき、戸をノックすると中から女性が出てきた。
「あら珍しい。橋の修理も終わってないのに人が来るなんて」
女性は彼方を手招きして家の中に入れると、日記帳みたいな物に書き込み始めた。
「さてと、○月×日、今日も下界には何も見えなかった………と」
「下界を観測しているんですか?」
彼方の問いかけに顔を向け、
「ええ、そうなんです」
とにこやかに答えた。
「そう言えば、サーショの町に行くなら家の横にワープ装置を設置しましたから利用してくださいね?」
その一言にありがとうございますと一言返し、彼方はワープ装置へ向かっていった。
「あ〜、サーショに戻ってきたわねぇ………」
「そうだな」
ワープ装置でサーショに戻ってからすぐにしたことは鍵や薬の調達である。
それ自体もすぐに終わり、町中をぶらぶらしていると、ある民家から話し声が聞こえた。
「………なんですね?」
「……………てな。……………覚えております!」
何故か気になってドアをノックする。
「はい、何ですかな?」
「あ、いえ、話している内容が気になって………」
「ああ、あなたもこの町の来客者に興味がおありのようだね。話なら私の客の方が詳しいよ」
と、ドアの前から離れ、奥へと促す。
そこには綺麗な女性が一人いた。
「………あら、どこかでお会いしました? あなたの名前は?」
「彼方、工藤彼方よ」
ごく自然にされた挨拶に、自然に反応する。
「カナタさん? …初対面みたいね、私の名前はイシュテナと言います」
そこで言葉を句切り、イシュテナが軽く息を吸う。
「あなたは賢者サリムという人にあったことはないですか?」
「………無いわよ」
「そうですか………」
顔を降ろし、少しうなだれるイシュテナ。
「カナタ、イシュテナはサリムを探しているのかもしれないな」
「………? あら? 今聞こえた声は?」
「ん? 我はカナタのトーテムだが?」
その言葉を聞くと、一瞬驚いた表情になる。
「そう、あなたも力の持ち主なのね………実は私もトーテムを持っているみたいなの」
はっきりと形を持って喋る訳じゃないけどね。と笑っていた。
「ええと、あなたは戦う力が強そうだし、これからよろしくお願いね。
………いつか、あなたの力を借りたい時が来るかもしれないから………」
「ええ、こちらこそ」
二人は握手を交わし、しばらく雑談をした後に別れた。
イシュテナと別れた後、なんと無しにリーリルへ向かった。平原を狙って通ったので敵に出会うことはなかった。
リーリル内を歩いていると、病院があったので、薬で良い物がないか覗いてみた。
「あの、この薬は何ですか?」
「ああ、エルークス薬と言ってね、いわゆる万能薬と言う奴だ。今のところこれで直せない病気は無いな」
「ふ〜ん、とりあえずもらえないかしら?」
「どうも、1200シルバです」
財布を取り出し、1200シルバを払う。
「はい、どうぞ。病気の患者さんには一日一回飲ませること、良いね?」
としっかり説明を受け、病院を後にした。
サーショに再び戻る途中、森を横切るように通っていると、人影を見つけたので近寄った。
「あ、あなたはカナタさん………」
それは、昨日助けた青年だった。
「あの時はありがとうございました………」
「どういたしまして、また薬草を採集してたの?」
「ええ、そうです。あ、僕の名前言ってませんでしたね。僕はシンと言います」
「シン………良い名前ね」
ありがとうございます、と恥ずかしそうにしながら、シンは笑った。
「あの………」
そして、笑いが消え、シンは何かを問おうとして、
「……いえ、なんでもありません」
「? じゃあ、私はもう行くね」
「はい、気を付けて」
「あなたもね」
そうして、二人はそれぞれ別の方向へ行った。
しばらく宿屋で食事を取ったりして、時間を潰していると、シンが外の道を横切った。
それを追いかけ、シンが入った家のドアをノックする。
「あ、カナタさん………いらっしゃい」
「来ちゃった。なんてね」
家の中に入るとベットに寝ている一人の女性がいた。
「この人………」
「………姉のシズナです。去年から突然病気で倒れてしまって、ずっとそのまま眠りつつけたままで………
南東の森で取れる新鮮な薬草だけが病気の進行を抑えられるそうです………」
とても辛そうに、言葉を紡ぐシン。
「だから、毎日取りにいっているんです………
本当はエルークスという薬が良く効くと言うのですが、貧しくて手が出せなくて………」
沈黙が重くなる。
その沈黙を破るように、シンが謝った。
「………あるよ」
その謝りに反応するように彼方が呟く。
「え?」
「あるよ、エルークス薬」
彼方がマントの鞄から薬瓶を取り出す。
「これをあなたに………あげる」
シンの手に握らせる。
「後は、あなた次第。私に出来るのはこれだけだから………」
「………良いんですか、こんな高価な物を………」
シンの言葉に、頷く彼方。
「あの………後で、姉さんに飲ませます。………あっ、ありがとう………ございました………」
彼方は、
「お大事に」
と一言残し、シンの家を出てワープ装置へと向かった。
その後、シイル近くの洞窟へ行き、宝箱を開けた後、
再びサーショに戻って一気にムーの村へ足を運んだところで、彼方の体力が限界を迎えた。
『災い』が起こるまで後十三日………
続く
一気に進んだ後編でした。
アイテムも人も増えました。
では、張り切っていきましょう!
シン
突然病気になった姉のために毎日森へ薬草を採りに行く。
普段野犬などに襲われないのは家宝の隠れ身の腕輪の効果。
現在の装備
イーグルブレイド(シイル近くの洞窟にて発見)
旅人のマント
生命の腕輪(同上)
使ってみよう!
お題・イーグルブレイド
カナタはイーグルブレイドを抜いて叫んだ!
「プーピピョロピピョロプルップー!」
「それはどこの言葉なんだ………」
さてさて、次回はたぶん幕間です、それでは〜。