予言者が居るという薬屋に来たのは良いが、今は店番の人が居ない。

 このまま入るのも気が引けるので、しばらく待つことにする。

 ………奥から声が聞こえるが、何を喋ってるか分からない。

 奥の気配が動く。

 ドアが開き、店主と思われる女性が出てきた。

「………え? あ、いらっしゃいませー、お待たせしてごめんなさいね」

 どこか驚きを含んだ声で挨拶してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


シルフェイド幻想譚 回顧録

2日目中編 予言の力

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


(どうしたのかしら、今日は誰も来ないはずじゃ………ウリユの予言が外れるなんて一度もなかったのに………)

「あの、どうかしましたか?」

 お客さんが声をかけてくれるのにも気が付かないほど考え込んでいたらしい。

「え? だ、大丈夫です。ちょっと考え事していただけですから………ところで、西の橋がまだ直ってないのに旅の人が来るなんて………
 一体どうやってこの町までいらしたんですか?」

 旅人さんは少し考え込むようにして、

「森を越えてきました」

 と言った。

「まあ、怖い目に遭いませんでした? 苦労していらっしゃったんですね………」

 森を越えてくると言うことは相当の実力者だろう。

「ところで。ここに予言者がいるって話を聞いたんだけど………?」

「予言者………あ、はい、娘のウリユの事ですね? ウリユは向こうの部屋におりますのでお話はどうぞご自由に………」

 旅人は会釈を返すと、ウリユのいる部屋へ入っていった。

 

 

 女性に言われた部屋に入る。

 ベットの上に女の子が寝っ転がっていた。

「あの………」

 呼びかけてみるとたしかウリユという女の子がこちらを向いた。しかし、

「………えっ?」

 沈黙が訪れる。

「あの………誰?」

 一言だけ発せられた言葉が再び沈黙を呼ぶ。

「…………………お、お母さーん………」

 その一言に店番をしていた女性が部屋まで来る。

「どうしたの、ウリユ?」

「こ、この人、誰………?」

 どこか恐怖を隠した声でウリユがお母さんに聞く。

「えっ? 人と会う時はいつもあう前から名前が分かってるじゃない」

「わ、分からないの………どうしよう………」

 ウリユのお母さんの顔に笑顔が灯る。

「まあ、ウリユに分からないことがあるなんて………あの、失礼ですけれどあなたのお名前は?」

「彼方、工藤彼方です」

「カナタさん、ですか?」

 名前を聞いた後、ウリユの方を見つめて、

「それで………ウリユ、カナタさんが誰だか分かる?」

 と問いかけた。

「………やっぱり分からないみたい」

 ウリユのお母さんは少々複雑な表情をしながら、そう………と返した。

「あ、あの、カナタさんってお兄さんなの? お姉さんなの?」

「カナタお姉さん、ですよね?」

「そうですよ。私は女です、ウリユちゃん」

 優しく名前を呼ぶと、嬉しそうな微笑みを称えていた。

「じゃ、じゃあ、カナタお姉さん………ちょっとだけで良いから、お話ししたいの………ダメかな?」

「私は良いわよ?」

「えっ、ホント?」

「嘘じゃないわ。本当よ」

 途端にウリユの顔が完全に緩んだ。

 

 

 

「娘のわがままに付き合わせてしまって、なんだか申し訳ないですけど………」

 カナタはいえいえ、おかまいなくと返すと、

「………じゃあ、せめてお茶でも用意してきますね」

 ウリユのお母さんはそう言って、厨房へ向かった。

 二人きりになり、会話が途絶えて数秒、

「あ、あのね………聞いていい?」

「答えられる範囲ならいいわよ?」

 じゃあ、と前置きして、

「カナタお姉さんって『どこからやってきた』の?」 

 一瞬身がこわばる。

「『どこからやってきたか?』か、微妙な質問だな。なんと答える?」

(こう答える)

「この世界の外から来たわ」

 ウリユの顔が一瞬厳しくなる。

「やっぱりそうなんだ………カナタお姉さんが来るのが見えなかったから、一体どこから来たのかなって思って………」

「まあ、好きで来た訳じゃないからね………」

 少々照れくさそうに頭をかいた。

「あの………旅のお話とか、聞いていい? 予知って言うけどね、私のは自分の周りの子だけしか分からなくってね………
 だから、わたしの知らないお話、いっぱい教えて欲しいな………って」

 そう、ウリユが告白している時、

「はい、お茶が入りましたよカナタさん」

 と、ウリユのお母さんが入ってきた。

 

 

 

 それからしばらくの間………

 カナタは旅のことや日常の話などウリユとたわいのない話をした。

 そんな中、

「そう言えば、カナタお姉さんってどうしてここに来たの?」

 と質問された。

「最初は予言して貰おうかと思ってたんだけど………最終的には何となく、かな?」

「そうなんだ………予言して欲しいって言われたらどうしようかと思っちゃったから………」

「えっ、どうして?」

 うん、と頷き、ウリユの目がこちらを向く。

「あのね、わたし、カナタお姉さんの未来がこれからどうなるか全然わからないの………他の人がどんな未来なのかは分かるし、絶対当たるんだけど………」

 カナタお姉さんってなんだか特別みたい、と笑いながら言った。

「あの、大分話し込んでますけど、旅の方はいいんですか?」

 すっかり忘れていた。と彼方は思った。

「あっ、そっか………カナタお姉ちゃんもやる事があるんだよね。じゃあ、今日はこの辺でお別れだね………」

 席を立ち、身だしなみを揃えている最中、

「あの………今日はありがとう、カナタお姉ちゃん。明日も来てくれたら嬉しいな………」

 その一言を背に、部屋を去っていった。

 

 

続く

 

 

後書きとして書けること………

もうネタ切れっす。

いや、今回は書くことが一つだけある!

 

 


ウリユ

シイルの村に住む予言者。

彼女の予言は100%当たるが、

何故か彼方の未来だけ見えない。

 

 

次回までに何とかプロットのメドを完全にしたいなぁと思いつつ終了!