ACT 0

 『はじまり』



 私こと藤林杏は独身だ。

 だからといって別に相手が見つからないほど容姿が悪いわけでも性格が悪いわけでもない……と思う。

 足りなかったのは出会いだと私は思っている。

 だから、今になってもあのバカの世話を焼いてしまうのだろう。

 ……でもそれも悪くない。

 そのバカが私を貰ってくれるのならば。

 ただ問題は……

 ここ最近、二日に一度くらいの割合でバカの家に上がりこんで世話するようになったというのに……

 こちらの気持ちに全く気付いてくれないところだろうか……














 汐と愉快なお姉さん達     World errors 杏編













 ACT 1

 『好きな人』



 実は朋也だって、私の気持ちに気付いているのかも知れない。

 いや、きっとそうだ。

 家に上がりこんで、世話するなんて結構、露骨だと思う。

 ……と言う事で、朋也の娘である汐ちゃんに聞いてみる。


 「汐ちゃーん、ちょっとこっち来てー」

 「ん、なーに、せんせー?」

 「えっとねぇ……お父さんに聞いてきて欲しい事があるの」

 「わかった。何きけばいいの?」

 「今、お父さんが好きな人は誰か聞いてきて」

 「はーい」


 これで朋也はきっと『そーだなー、いつも世話してくれてる杏とか好きだな』とか言ってくれちゃって。

 それで私は汐ちゃんからその事を聞いて、いつもの様に朋也の部屋に世話しに行って、何でもない風に言うの『あのさ、ずっと世話したげてもいいわよ』って。


 で、朋也が…




 『ああ…ずっと杏に世話して欲しい』

 『え……もう、誤解しちゃうわよ』

 『誤解なんかじゃない』

 『朋也?』

 『杏……お前じゃなきゃダメなんだ』

 『朋也…』

 『杏……お前が欲しい』

 『ちょっ……朋也、汐ちゃんがいるのよ?』

 『大丈夫、汐は寝ている。これからは大人の時間だ。杏は…嫌か?』

 『嫌じゃないけど……でも他の娘たちだって朋也の事が…』

 『風子はちびっこだし、ことみは天然だし、宮沢は変なとりまきがいるし、芽衣ちゃんは彼氏もちだし、春原は論外だし、智代は春原の蹴り過ぎで留置所だしな……杏がいい』

 『朋也ぁ…』

 『杏……今夜は寝かせないぜ』


 なーんてことになったりしちゃって!

 もう、どうしよう。 うふふ……




 翌日



 「せんせー、きいてきた」

 「で? どうだった?」

 「えっとねー、パパが好きなのは汐だって」



 うぅっ、そうよね……朋也が一番大事なのは汐ちゃんよね……

















 ACT 2

 『予想できた結末』




 「じゃあ、汐ちゃん。今度はその次に好きな人は誰か訊いて来て」

 「はーい」


 てててーと走り去っていく汐。

 汐ちゃんは例外。

 愛娘が嫌いな父親はそういないだろうから仕方ない。

 けどその次はさすがに私よね?

 今度こそ、『そーだなー、いつも世話してくれてる杏とか好きだな』とか言ってくれちゃって。

 それで私は汐ちゃんからその事を聞いて、いつもの様に朋也の部屋に世話しに行って、何でもない風に言うの『あのさ、ずっと世話したげてもいいわよ』って。




 で、朋也が…




 『ああ…ずっと杏に世話して欲しい』

 『え……もう、誤解しちゃうわよ』

 『誤解なんかじゃない』

 『朋也?』

 『杏……お前じゃなきゃダメなんだ』

 『朋也…』

 『杏……お前が欲しい』

 『ちょっ……朋也、汐ちゃんが隣にいるのよ?』

 『大丈夫、汐はテレビに夢中だ。番組が終わるまでに済ませばいい。杏は…嫌か?』

 『それってかなり無茶な気がするけど……嫌じゃないわ……でも他の娘たちだって朋也の事が…』

 『風子は妄想しすぎで病院だし、ことみは店の本を切りすぎて留置所だし、宮沢はおまじないにのめりこみ過ぎて今は変な宗教の教祖だし、芽衣ちゃんは彼氏と駆け落ちしたし、春原は本格的にホモの道を歩き始めたし、智代は春原の蹴り過ぎで無期懲役だし……杏がいい』

 『朋也ぁ…』

 『杏……汐の姉妹をつくるぜ』



 
 なーんてことになっちゃったりして……

 これで行かず後家にならなくて済むわ、うふふ……




 翌日



 「せんせー、きいてきた」

 「で? どうだった?」

 「えっとねー、パパが汐の次に好きなのはママだって」




 そうよね……汐ちゃんの次に好きなのが亡き妻でもおかしくないわよね……しくしく

















 ACT 3

 『完全敗北』






 「ちなみにねー、ママの次に好きなのは早苗さんだって」


 人妻にまで……義母にまで……


 「せんせー、なんで泣きながらたおれふしてるの?」





















 ACT 4

 『立ち直れません』





 「それでねー早苗さんの次に好きなのは……」

 「いやー、言わないでー! これ以上聞いたら立ち直れない!」

















 ACT 5

 『朋也の認識』



 古河一族に三連敗を喫して気力が極限にまで落ち込みながらも何とか仕事をこなす。

 気が付けば、もう園児たちが帰る時間だ。

 園児たちは外で親を待ちながら遊んでいる。

 汐もボタンを『なべ〜』とか言いながら追いかけて遊んでいる。

 そんな光景を見ながら思う。

 私、ずっとこのままなの?

 ずっと一人で暮らさないといけないの?

 気が滅入る。


 「汐ー、迎えに来たぞー」

 「あっ、パパー!」


 気が滅入る元凶が来た。

 まったく……幸せそうに……どうして私はこんなの好きになったんだろう。


 「おっ、今日もボタンと遊んでいるのか」

 「うん」

 「…………今度、鍋パーティーでもしようと思うんだが……ボタンもくるか? 主賓扱いで」

 「ぷひっ!?」

 「…………」

 「…………」

 「…ん? どうした杏? いつものツッコミが無いぞ。何か変なもんでも拾い食いしたか?」

 「…………」

 「違うのか? 他に考えられそうな事は…………ついに一般市民を轢き殺したのか?」

 「…………」

 「違うか? ……まさか、バイクじゃなくて辞書で?」

 「…………」

 「ま…まさか、素手で……」


 プチン


 ばきぼこぐしゃ…


 「人が感傷に浸っていれば〜、なんでそういう暴力的なイメージしか出てこないのよ! あァ!?」

 「そ、そういうところが起因してるからな……」












 ACT 6

 『大失態』



 「で? 何を悩んでたんだ?」

 「……朋也には関係ないわよっ!」

 「どーせ、婚期もこのまま何事も無く過ぎ去りそう〜……とかだろ?」

 「…くっ」

 「……え? あたり? 冗談のつもりだったんだが……悪い」

 「そーよっ! このまま独身のまま? とか考えちゃってたのよ! 一人寂しい余生が描かれてたのよ! いつまで経っても椋を気を使わせちゃうな……って鬱に入ってたのよ! 悪い!?」

 「悪い、俺が悪かった、だからそのな……」

 「何よっ!?」

 「少しボリューム落とせ、そして周りに他の親御さんがいる事を思い出せ……」

 「あ……」














 ACT 7

 『素直じゃない二人』



 仕事も終わり、朋也と汐ちゃんも待っててくれたので、今日はボタンも一緒に朋也の家に行ってご飯を作ることになった。

 何だかんだ言っても、このサイクルは確立しているみたい。

 さっきみたいな事があった後でも朋也の家に行くのは重症だと思う。


 「朋也のせいで大恥かいちゃったじゃない! ああ、もう本当にお嫁にいけなくなったらどうするつもりよ!」

 「そうだな……ま、今のが無かったとしても杏の先行きは真っ暗だろうけどな」

 「あんたねぇ……」

 「もし、本当に貰い手が無かったら、俺が貰ってやってもいいぞ」

 「……へ?」

 「おばさんになっても一人身は可哀相だろう? ……それ以外の理由はこれっぽっちも無いからな」

 「あ……」


 ダメ、勝手に涙が……


 「な、泣くほど嬉しかったのか?」

 「ふ、ふん……違うわよ! これはあんたなんかに心配されてる自分が情けないから涙でただけよ! そんな心配されなくても亭主の一人や二人見つけれるわよ!」

 「あーそうかい」

 「……でも、もし行くあてが無かったら、あんたの所に行ってあげるわよ。汐ちゃんが片親なのも可哀相だしね」

 「ふん、言ってろ」

 「そっちこそ」









 ACT 8

 『汐の見解:テレフォンショッピング』



 「……せんせー、ママになるの?」

 「もしかしたら、なるかも知れないってこと」

 「パパ、ママはせんせーがいい」

 「ん? どうしてだ汐?」

 「せんせーがママになったら、なべもセットでお得」

 「ぷひっ♪」








 ACT 9

 『汐の見解:親子』




 「でもパパ、おててつないで歩いてたら、今でもせんせーママみたい」


 私も朋也も真っ赤。

 ……なんだ、朋也だってしっかり私の事、意識してるじゃない。

 うん、大丈夫。

 このまま行けばきっと汐ちゃんと親子になれる。

 焦る事無い。

 言質もとったし、時間の問題よ。

 それに……


 朋也とボタンに乗った汐ちゃんと手をつないでいる私。

 汐ちゃんの言う通り、三人と一匹の姿はきっと親子に見えてるはずだから。
















 ACT EX

 『そしてオチ専用独身』




 「噂で聞いたんだけど彼氏募集中なんだって? それじゃあ仕方ないから僕が旦那になってあげるよ」

 「アンタはとっとと田舎に帰ってなさい、ヘタレ」



















 あとがき


 はい、作者の秋明です。

 即興で作った突発的SSです。

 だから、設定は連載中の『汐と愉快なお姉さん達』からもってきてます。

 あの世界だけど少しだけ変わってるおかしな世界……ってことでタイトルが World errors ……スペル間違ってないよね? ←英語ダメ人間

 杏編と言う事で、気が向いたら別キャラかくかも…

 あとちょっと作風をいじって書いてみました。

 だから地の文が少ないのは仕様です。決してメンドくてサボってるわけじゃないですよー(汗

 ま、即興の割には良い出来…………なのか?

 しかし、クラナドSSって汐Afterしか書いてないような……そのうち別のも書いてみよう。

 それでは今回はこの辺で……それではー