雨。
雨が降っていた。
雨粒が差している傘に当たり、弾かれ地面へ落ちていく。
誰もいない空き地。
そこが彼女の二番目に大切な場所。
一番大切な場所はどこかに行ってしまった。
彼女は空き地には二番目に大切な場所だからといった意味でここにいるわけではない。
一番大切だった場所に一番近いと思われる場所だからここにいるだけである。
傘を差して一人、雨の空き地に立ち尽くす少女。
傘を差しているのにも関わらず、まるでずぶ濡れになりながらも主人を待つ飼い犬の様な寂しげな雰囲気を放つ少女。
彼女の名は里村茜。
待ち人の名は折原浩平といった。
汐と愉快なお姉さん達 Operation World Errors 第一章・Oath Narrative Eternal
「茜……あんまり無理すると風邪ひくよ?」
「詩子……」
茜の親友である詩子は茜の異変に気付く。
それは微妙な違和感で、もともと感情の起伏に乏しい茜のそんな僅かな変化に気付けるのは詩子とあと一人か二人くらいのものだろう。
詩子はその僅かな変化を見落とさず、その違和感が表す感情の方向性までも悟る。
「……学校で何かあったの?」
大体のことは予想出来ていた。
彼女は周りが思うほど馬鹿ではないし、気遣いも出来る。
だから彼女は知っている、茜がこれから言うだろう事があまりよろしくない話題であることを。
そしてその話題が今、この場にいない誰かさん絡みであることも。
「……とうとう、七瀬さんも忘れてしまいました」
「……そう……」
茜の言葉は単純であり明確でもあった。
ただ、七瀬留美という少女が折原浩平という人物のことを忘れた。
ただそれだけのことであり、同時に塗り替えることの出来ない結果だった。
「……あと、折原君のことを憶えてるのは……」
「もうみんな忘れてしまいました。七瀬さんも川名先輩も上月さんも深山先輩も広瀬さんも住井君も……もう憶えているのは私達だけです」
「……そっか」
「……浩平……」
「あ、でも、ほら! 考えようによっては私達が一番、折原くんのことが好きっていう証明でもあるんだし……一番、折原君と心繋がってるって言うか……」
「……そうですね」
茜は顔には出さないし、言葉にもしないが親友の存在を本当にありがたく思っている。
きっと、一人なら今度こそ本当に心が折れてしまっていただろうから。
いつも心の中でお礼を言っていた。
いつも励ましてくれている詩子に。
まぁ、未だに詩子が憶えているのが少し腑に落ちないこともあるのだが、それはそれということで帰ってきたら浩平に問い詰めれば良いと思っている。
浩平は結構顔に出るからすぐにわかる、呆れるだろうか? それとも慌てふためくだろうか?
前者ならそれでいい、詩子は親友だから友達として憶えていたんだろう。
だが後者なら……お仕置きが必要、もちろん浩平に。
そんな事を考えたら、少しだけ心が軽くなったような気がした。
「ほら、そろそろ帰ろう、茜」
「ええ、身体も冷えてしまいましたし」
そういって、連れ立って帰途に着こうと空き地から出ようとする二人の前を、二人の親娘が横切っていく。
母親の方はニコニコと笑顔のまま息も切らせず、走っており
娘の方は頭にフェレットを乗せて『こーへー』と呼びかけながら走っている。
こーへー?
もしかして……
「ねぇ、茜、『こーへー』ってもしかして……」
「浩平のことかも知れませんね」
その二人の会話が聞こえたのか『あら?』と足を止めこちらを値踏みするように見つめる母親。
対する二人も、その女性を見る、とても娘がいるような風には見えなかった。
「もしかして、折原浩平さんのお友達かしら?」
「そうですけど……貴女は? それと娘さん……でしょうか?」
「ええ、私は椎名華穂、娘は繭と言います」
「みゅーっ!」
「憶えて……いるんですか?」
「ええ、最近、家の方に姿を見せないので、心配になって……」
そういって、頬を赤らめる主婦。
同じく、顔を赤くしていく茜。
無論、顔を赤くする理由は正反対だったが。
「浩平……いつになったら帰ってくるのですか……」
「本当に……困った人」
「…………何故あなたが浩平を憶えているんですか?」
「…………ふふっ」
「……浩平、早く帰ってきなさい……話し合うことが出来ました……」
永遠に祝福された少年とその帰りを待つ少女達。
彼女らのいる町で次の物語が始まる。
その9に続く
あとがき
新章突入の汐姉、更新速度が復活してきましたw
なにはともあれ、作者の秋明です、こんにちはw
第一章、Oath Narrative Eternal編
略してONE編です。
ちなみに、意味は、永遠の誓いの物語、です。
まぁ、タイトル通りの内容になるとは限りませんが(ぉ
それでは、何か思うところがある方は掲示板へw
秋明さんのレスがついてやる気と更新速度があがる(かもしれません
まぁ、下がるかも知れませんが(死
ではw
今回、思ったこと。
英語って難しいねぇ……(しみじみとサブタイを見ながら