「やっぱり……この部屋……この世界のものじゃないよ」

 「っていうと、やっぱり別世界から部屋ごと切り取られたってことかしら?」

 「そうじゃな……おそらく幻想世界の方が仕向けたのじゃろう……世界法則を破壊されるよりは他世界に火種を投げ捨てることを選んだ……渚殿は朋也殿をつなぐ鎖と言ったところじゃろう」


 いや、だからな……取りあえずは部屋の中に入って、そのインド人もびっくりの空中浮揚をやめて欲しいんだが。

 俺以外、みんな固まってるし。

 いや、二人、固まってないのがいるな。


 「パパ、パパ、あれ、どうやるの?」

 「そうだな……汐にはまだ早いな。というか頼むからあんなのにはならないでくれよ?」

 「岡崎さん! 風子も浮いてみたいですっ!」

 「いや、俺に聞くなよ」










 汐と愉快なお姉さん達 Operation World Errors その8 ――――or sister









 「で、結局のところなんですけど……この子たちは一体、何なんでしょう?」

 「うむ、実に良い質問だ宮沢。この混沌とした場でのほほんとそんな事を聞ける宮沢が俺は好きだ」

 「もう……褒められていないような気がしますけど、最後のセリフだけは脳内に永久保存しておきますね」


 そう言ってやや顔を赤くして、にっこりと微笑む宮沢。

 これこそが本来の宮沢であり、彼女の本質。

 宮沢のいる空間『だけ』は癒し空間になるのだ。

 ちなみに、宮沢の背後では『その羽って本物? ちょっと触らせて』『嫌じゃ、その手つきが嫌じゃ』『まぁまぁ、そう言わずに……』とか

 『風子に空の飛び方を教えてくださいっ!』『わたしもー』『ちょっと、こら、引っ張らないで!』『……お空、飛んでみたいの』『だから、誰でも簡単に出来るわけじゃあ……』とか

 『きゃー、かわいい! ちっさくてふにゅふにゅですよ、坂上さん』『そうだな、やっぱり女としては小さくて可愛いものに憧れる』『うぐぅ!? ボク、これでも高校生……』とか、とんでもないカオスワールドが繰り広げられている。

 っていうか、この狭い中を走り回るな、お前ら物を倒すな、湯飲みを投げるな、ヒトデを飾るな、春原を壁に投げつけるな壁が傷む、勝手に飲み物を漁るな。

 ちなみに、春原は真っ先に皆に踏み潰されて気絶している、ヘタレっぷりは健在だ。


 「朋也くん……モテモテです。みんなに好かれてうれしいですけど、ちょっと複雑ですっ」

 「朋也さん、みんなに優しいですから、ちょっとぶっきら棒で変なところとかありますけど、いつも朋也さんは暖かいです」

 「いや、ストレートに言われると照れるんだが」

 「ところで朋也くん、さっきの話……本当なんですか?」

 「いや、それは俺にも解らないんだが……目の前にあの三人と渚がいる以上、信じざるを得ないな」


 つい先刻、場が混沌と化す前、状況を整理ということで話をした。

 内容は今日のこと。

 ただし、前世(?)ですでに4人と添い遂げたことと汐が亡くなることは伏せておいた。

 前者は、さすがに渚の前で言うのが憚られる。

 後者は……言いたくなかった。

 言ったらそれが実現しそうで怖かった。


 「私のいた世界じゃ朋也くんが亡くなって、こっちでは私が死んでいるなんて……」

 「でもま、ちょうど良いんじゃないか? お互い、相方に先立たれた者同士」

 「それは違います、朋也くん」


 そう言って、渚は幸せそうな顔で俺に抱きつく。

 俺は、もう二度と見ることは無いだろうと諦めていた笑顔を目の前に、何も言えなかった。


 「朋也くんがここにいて、私がここにいます。私達は何一つ失っていないんです」

 「そうだな……過程はどうあれ、結局は元鞘……」

 「ちょっと待ってください。まだ元鞘にはさせませんよ。朋也さんは私にとっても大切な人なんですから」

 「え、で、でも朋也くんと私はどっちでも夫婦で……」

 「大丈夫よ、朋也、雰囲気に流されやすいのわかってるし……そのうち落とすわよ」

 「ええい、だから放せ、放さぬか! 余は翼人じゃぞ!?」

 「パパ、きょうせんせーにおとされるの?」

 「そうだなぁ……どっちかって言うと、締め落とされることの方が多そうだな」

 「どうちがうの?」

 「それはな……って、渚?」


 汐と話している俺を見て、口をパクパクさせている渚。

 地味にレアな光景だ。

 渚はとても悲しそうな顔になって、小さく呟く。


 「朋也くん、子供、作ったんですね……何年も離れ離れでしたから仕方ないのかも知れませんけど……やっぱり、すこし悲しいです」

 「……は?」

 「いや、渚……」


 何言ってるんだ? と言いかけて気付いた。

 渚が生きている。

 世界が違えど、渚の死因はただ一つ。

 渚が生きている、それは即ち――――


 「この娘は汐。岡崎汐。渚が必死に考えてつけた名前だ。母親の名は岡崎渚――――目の前の渚と同じ人物の名だ」

 「わ、私と朋也くんの……?」

 「そうだな……いや、実際、俺、迷ってるんだ。確かに渚なんだが、それでもやっぱりこっちの渚とは違うんだし、それでも渚は渚だしな」

 「私は……」

 「パパ、このひと、ママ?」

 「……まぁ、ママみたいな人だ」

 「じゃあ、ふーこさんやきょうせんせーといっしょ」

 「汐ちゃん?」

 「だって、ふーこさんもせんせーもパパとけっこんするっていってた」

 「……そうですね、私、汐ちゃんのことは何も知らないですから……もっとちゃんと知ってママになりますっ」

 「じゃあ、なぎさおねえちゃん?」

 「はい、今はそれで……でも、もう少ししたらママって呼んで欲しいですっ」


 こうして、取りあえずはひとまずの平穏が保たれたわけで……

 まぁ、あくまでひとまずなのは解りきっているんだが……

 だって俺は感じてしまっているから。

 歯車は動き出していて……

 もう、止まる事は無いのだということを……

 三人の異世界の少女と渚という歯車が組み込まれて運命が動き出す……

 もう、誰も抗えない……

 舞台は整っていて……

 あとは踊ることしか出来ないのだから。










 次章へ続く







 あとがき

 はい、急いで書いて短くなった汐姉です(マテ

 っていうか、何故に秋明さんは普通に挨拶できないのか微妙に疑問な今日この頃。

 とりあえず、1話で終わらせるはずだった渚復活編、何故か分かれてしまいましたが、いったん解決です。

 で、次は章が変わったりw

 ころころと変えていく秋明さん、さすがに節操ありません。

 いや、通常生活では節操あるからね?(弁解

 ってわけで、今回はこの辺で