ゴーカート(風子&芽衣&春原)の場合




 「パパ、あれにのりたい」


 ん。と指差した先にあるのは、小さな車みたいなのが何台もかたまって置いてある場所。

 コースとかは無く、ある一定空間を縦横無尽に走り回って遊ぶやつだ。

 汐のお願いだし、断ることは選択肢には無い。

 すぐさま行く。

 とりあえず、汐一人に乗せるのは危険なので一緒に乗ることにする。

 今回ついてきたのは、風子、芽衣ちゃん、春原。

 杏とかも来たのだが、ちょうどそこで定員が区切られてしまったのだ。


 「わくわくする」

 「よし、思いっきりいけ、汐」

 「うん」


 娘はやるき満々だ。

 で、我等がもう一人の娘さんはと言うと……


 「ぷち最悪ですっ! 風子は子供じゃないですっ!」

 「まぁまぁ……風子さん、落ち着いて」

 「落ち着けません! 失礼すぎます! あの店員にはいずれヒトデの神様の天罰が下りますっ!」


 風子は大層ご立腹だ。

 まぁ、子供に間違えられたら腹立つか。

 しかし、芽衣ちゃんと風子だと姉妹に見えるな。(もちろん、風子が妹)

 他の奴と並ぶと親子に見えたりもするのだが。


 「岡崎、今日こそ決着をつける時がきたみたいだね」

 「まぁ、色々といいたい事はあるんだが……勝負できる乗り物じゃないからな?」

 「ふ、そう言ってられるのも今のうちさ」


 何か謎の自信に満ち溢れている春原。

 あ、芽衣ちゃんがまた呆れた顔をしている。

 まぁ、俺もきっと同じような顔をしているんだろうな、と思った。













 汐と愉快なお姉さん達 Operation World Errors その4  遊園地は怖いところ? 中編












 ブー、という音と共にそれぞれの車が走り出す。

 まぁ、そこまではいい。

 問題は……


 「岡崎ぃぃ! 覚悟ぉ!」

 「岡崎さん、覚悟するんですっ!」


 いい年して遊園地のゴーカートに情熱を燃やす者達。

 一直線にこちらへ向かってくる。

 風子は右から、春原は左から、それぞれ体当たりを敢行してきた。

 理由はわからないが狙われているらしい。


 「汐、アクセルを踏むんだ!」

 「あくせる?」


 汐はわかっていない様だった。

 このままぶつかるのも癪なので俺が自分の足でアクセルを踏む。

 一応、俺もアクセルやブレーキは踏めるのだが、なるべくは汐にやらせてあげたいと思っていたので、何もしないようにしようとしていたのだが……

 車が動き出して、そのすぐ後ろで激突音がした。


 「うわっ!?」

 「「きゃっ!?」」


 正面衝突を起こして、激しい衝撃が三人を襲う。

 で、ここで毎度毎度、ネタをやってくれる人物がいるわけで……

 具体的に言うと春原が車から転げ落ちたのだ。

 そんな春原を見て、他のお客(子供ばっかり)が話し始めていた。


 「おい、アレみろよ。いい年したおっさんがゴーカート乗ってるぜ?」

 「本当だ、恥かしくないのかな?」

 「きっと、会社とかクビになって、やることも無くて子供をいびってるんだぜ?」

 「あ、あのねぇキミたち? それは僕のことを言ってるのかなぁ?」

 「うわ、こっち見た」

 「やばいぜ、きっとお腹が空いてて気が立ってるんだ」

 「お弁当の残りのパセリとかあげたら落ち着くかなぁ?」

 「大丈夫だろう。アイツは『スノハラヨウヘイ』っていう雑食性のヘタレ科ヘタレ目の動物だからな」

 「……って、岡崎! なんであんたまでそのガキどもの会話に参加してるんですかねぇ!?」

 「いや、お前のこと誤解してるみたいだから、本当のことを教えてやろうと思って」

 「今のが本当のことッスかねぇ!?」

 「……もしかして……違うのか!?」

 「なんでそんなに驚いているんですかねぇ!?」

 「よし、なんだか本人だけ納得がいって無い様だから、妹である芽衣ちゃんに聞いてみよう」


 そういって芽衣ちゃんの方を見てみる。


 ジー。 ←俺が見てる。

 ジー。 ←春原が見てる。

 ジー。 ←子供達が見てる。

 フイッ。 ←芽衣ちゃんが視線を逸らした。


 「……と言うことで、こいつはヘタレ科ヘタレ目の動物だということになった」

 「わーい、ヘタレだ。ヘタレがいるー」

 「ヘ・タ・レ・ヘ・タ・レ!」

 「これ、完全にイジメっすよねぇ!? ええぃ、芽衣なんか信じた僕が馬鹿だったよ。汐ちゃんなら僕の本当の姿を言ってくれるはずだ!」

 「ほぅ……では汐に聞いてやろう。汐、アレを見てどう思う?」

 「僕、『アレ』扱いっすかねぇ!?」

 「……すのはらのおじちゃん? うーんと……けられておそらをとぶのがすきなひと?」

 「……と言うことで、こいつは蹴られて空を飛ぶのを生きがいとしているヘタレ科ヘタレ目の動物だということになった」

 「ちょっと待ちましょうよねぇ!?」

 「ふーん、蹴られて空を飛ぶのが好きなんだってさ」

 「きっと、変なシュミなんだぜ、アレ」

 「じゃあ、僕らもアレのシュミに協力してあげようよ。どうせいいこと無い人生なんだろうし」

 「そうだな……せめて遊園地にいる時ぐらいは夢を見せてやろうぜ」

 「って、子供にまで憐れまれていますか、僕? っていうか、ここの子供はどうしてこんなに達観してるんすかねぇ!?」

 「今日もヘタレさが絶好調だな」

 「誰のせいですかねぇ!? ぐえ!?」


 話している最中に、ドーンと吹っ飛ぶ春原。

 子供達のゴーカートに轢かれたみたいだ。


 「ほら、みんなもこのおじちゃんのために轢いてあげようぜ!」

 『お〜!』


 その言葉を皮切りに跳ね飛びまくる春原の身体。

 最近の子供っていうのは、加減をしらんなぁ……


 「そういえば、風子はどうなったんだ? さっきから音沙汰無いが……」

 「ふーこさん?」


 ん。 と汐が指差した先には風子が芽衣ちゃんに抱かれて出口に向かっていた。

 ゴーカートが終わった後に、最初の激突で気絶した、と芽衣ちゃんから聞いた俺は盛大に溜息をつくのであった。






















 「はぁ、疲れた……」


 ジェットコースターで肉体的に、ゴーカートで精神的に疲れた俺はベンチに座っていた。

 今はみんなコーヒーカップに乗っている。

 あんなただグルグル回るだけの乗り物の何が楽しいのか判らないがみんな嬉しそうな顔をして乗っている。

 そして盛大な溜息をついて、空を見上げた。


 遊園地に来た時あたりから困ったことに気付いていた。

 気付いてしまった。

 俺の知らない四つの記憶。

 知らない筈だった四つの記憶。

 杏と添い遂げたまた別の俺の記憶。

 風子と幸せを掴んだまた別の俺の記憶。

 智代の想いに応えたまた別の俺の記憶。

 ことみとの事を思い出したまた別の俺の記憶。

 四人のことを意識してしまっている自分がいる。

 その四つの記憶が確かに存在してるのだ、俺の中に。

 四股をかけているみたいでいい気分ではない。

 でも、その記憶を愛しく思っている自分もいる。

 そしてもう一つ思うこと……それは……









 どうして渚との記憶が無い?

 どうして全て渚が死んでしまった記憶なんだ?

 どうして渚だけ……

 どうして……どうしてなんだ。

 俺と渚は幸せになれない運命なのか?

 俺は渚を……幸せにはできない運命だったのか?

 そして、四つの記憶に共通している、もう一つの事。

 それは……




 このままだと汐まで失ってしまう。

 どの記憶でも汐は渚と同じ症状で命を落としてしまっている。

 雪の降る季節は近い。

 過去四回の記憶通りの展開になるのなら、それは即ち、汐の命のタイムリミットでもある。

 だが、それがわかったところで俺にはどうする事も出来ない。

 失われる時に抗える術は持っていない。

 また……奪われるのだろうか?




 『パパ?』

 「汐?」


 ボーっと空を見ていた視線を前に戻すが汐の姿は無い。

 聞き間違いだったのだろうか?


 『パパ……』

 「やっぱり聞こえる」


 周囲を注意深く見てみる。

 すると、遠くの人ごみの中に汐がいた。

 白い風船を持って昼になって密度を増した人ごみの中、汐はそこにいた。

 まっすぐにこちらを見て、悲しそうにこちらを見ていた。


 『パパ』


 かすかに動いた口元が、そう言っていた様な気がした。

 手に持った白い風船が道行く人に当たってふらりふらりと揺れている。


 『パパ……さびしい』


 「汐っ!」


 ガタン、とベンチを立ち上がった時には汐は白い風船と共に人ごみの中に消えていた。


 「……」


 何となく現実感の無い感じ。

 それが今の俺を取り巻いていた。

 ふと、コーヒーカップの方に目をやると、そこには確かに汐の姿があった。


 「……」


 俺は再びベンチに腰を下ろし、溜息を付いた。


 「俺って本当に疲れてるんだなぁ……」


 自然とそんな言葉が出るくらい疲れていた。













 その5に続く










 あとがき


 結構時間がかかった、汐姉 OWE その4。

 思うように進まない展開に泣きそうな秋明です。

 とりあえず、今後の展開。

 …って言っても具体的に何が起こるかは言いませんがw

 その5でとりあえず遊園地は終わり(の予定)

 その6で本題っぽいことに突入(だといいなぁ…)

 その7でビックリイベント(できるかなぁ…)

 ちなみに括弧内の文字がポイントです。

 むしろ、出来ない確立のほうが高いです(死

 そんなこんなで、次回にまたお会いしましょう。

 それではー。