「岡崎……」
「…………なんだ?」
「お前、すげぇよっ!」
「…………何がだ?」
「くそぅ……なんで岡崎ばっかりモテるんだーーーっ!? しかも幼子にまで手を出すなんてーっ!」
なんだかワケわかんない事を吼えるバカ一人。
奴の目には、そのせいでズタボロになっている俺の姿が映っていないのだろうか?
あと、ついでに隣で兄に向かって足を大きく振り上げて、踵落としの体勢に入っている妹の姿も。
「朋也さん…………」
「宮沢?」
お出かけということか、少々めかしこんでいる宮沢が小さな手でズタボロになった俺の手を包み込むように握る。
その表情はまさしく聖母。
きっと、感動的なワンシーンみたいな感じに見えてるんだろう。
宮沢の手が暖かくて心地いい。
それだけで凄く幸せな気分になれる自分がいる。
宮沢の癒し効果は今でも健在のようだ。
そして、笑顔で更なる癒しの言葉を紡いでくれr……
「……手を……出したんですか?」
「え?」
更なる癒しの言葉を……
「手……出しちゃったんですか?」
「あ、あのー、宮沢さん?」
癒しの言葉を……
「手……出しちゃったんですね?」
「も、もしかして、実は凄く怒ってらっしゃる?」
癒しの……
「…………」
「あ、あのー、宮沢さん? 出来れば、未だかつて見たことの無い色にまで変色しちゃいそうな俺の手を放してはいただけないでしょうか? むしろ放して! 痛い! 痛いから!」
「…………っ」
「痛い痛い! ごめんなさい! 何だかわからないけど俺が悪かった! お願い、許してください!」
「…………ぃっ」
痛い!
痛いよ宮沢!?
宮沢、なんでそんなに握力が強いんだ!?
っていうか、もうそろそろ手の骨格変わりそうなんですが?
っていうか、もう変わり始めてる!?
「朋也さんの変態っ!」
「みぎゃぁぁぁっ!!!!!」
俺の右手からかつて聴いたことが無い音が響いた。
汐と愉快なお姉さん達 Operation World Errors その2 寄生虫と言わないで
「しくしくしくしくしくしくしく…………………………」
「ご、ごめんなさい朋也さん。ついカッとなって……」
右手粉砕後、兄をKOしたあとに慌てて止めに入った芽衣ちゃんに救助された。
その時ばかりは、本気で芽衣ちゃんが天使に見えた。
春原の妹なのに、本当に真っ直ぐ育ったもんだ。
俺的インナースペースでは、芽衣ちゃん株が急上昇中だ。
ちなみに、春原と芽衣ちゃんはこの町に住んでいる。
あまりにも馬鹿馬鹿しい話なのだが、春原はあのお見合いの翌日、大事な仕事があったのを忘れて二日酔いで轟沈。
それだけならばまだしも、仕事場から電話が携帯にかかってきた時に、『ナイスガイ春原はただいま二日酔いっす。御用のある方も無い方もこれ以上電話をかけないで下さい』……と、死にそうな声で出てそのまま電源を切ったらしい。
はっきり言って究極バカだ。
当然、仕事はクビ。
一応、曲がりなりにも俺の騒動に巻き込まれた被害者なので、俺と杏とで色々とコネを使って何とか春原に職を与えることにした。
結果、今ではこっちで定職に就いている。
芽衣ちゃんも一緒に住んでいる。
芽衣ちゃん曰く、『放っておいたら何をするかわからないので……』……だそうだ。
「そう言えば、さっきの三人、居なくなってるわね」
「ホントなの……」
「…………」
「ふーこさん、どうしたの?」
「汐ちゃん……いいや、何でもないです」
「……? へんなふーこさん」
そう、三人が居ない。
忽然と姿を消した。
では、三人はどこに行ったのかというと……
『どうじゃ? これで余たちの言うことがまことであったと解ったじゃろう?』
や、もう、何のことやらサッパリなんだが……いきなり頭にお前の声が響いてきた事で一体何を理解しろと?
『本当にお主は益体無しじゃのう。お主の身体には『光』が宿っておる。そして余達は『光』に宿ってこちらまで来たのじゃぞ?』
『つまり、今はあんたの身体の中にいるってことよ』
お前らは寄生虫か?
『うぐぅ……仕方なかったんだよ。そうでもしないとボクたち消えちゃってたんだし』
『やれやれ……寄生虫扱いとは……その様なことを言うておると、その右手、治してやらぬぞ?』
何?
『私達はなにもタダでここに間借りさせてもらう気じゃないってことよ。家賃代わりに私達が出来ることなら力を貸してあげる』
ちなみに断ったらどうなるんだ?
『その時は、すぐに出て行くよ…………ううん、本当は最初からここにいるべきではなかったんだよ』
どういうことだ?
『ボク達は、いわゆるこの世から追放された存在なんだよ。まさかこんな形でもう一度こっちに来ることになるとは思わなかったけど』
『そうね…………私達は思わずはしゃいじゃってたけど、ここは私達のいるべき場所じゃない。『えいえん』にすら帰る場所は無い……最初から大人しく消滅しとくべきだったのかもね……』
ちょっと待て。どうしていきなり消滅だなんだと物騒な話になる?
『恥かしい話なのじゃが、余達はすでにこの世から追放された身。それ故一人では存在することすらままならぬ。かと言ってもと居た世界に帰ることも出来ぬ。故にここを出て行けば後に待つのは消滅のみなのじゃ』
おい、さっきは無茶苦茶、外にいて俺とくっちゃべってたと思うんだが?
『それはお主の傍にいたからじゃ。今、この世界で余らの存在を支えておるのはお主の中に宿る『光』なのじゃ。じゃから『光』の恩恵が届く範囲ならば大丈夫なのじゃが……』
なるほどな……じゃあ、『光』ごと俺から持っていけば……
『それはダメだよっ! これはキミに絶対に必要なものになるはずだから……』
…………わかった。じゃあ仕様がないな。
さすがに出て行ったら消えちまう奴らを放り出すわけにも行かないしな。
『まことかっ!?』
『いいのっ!?』
『本当にっ!?』
いや、俺はそこまで鬼じゃないしな。
いいぞ。しばらくここにいても…………ただし一つ条件がある。
『なんじゃ?』
身体……治してくれよな? 何だか俺って異常に身体の損傷率高いし。
「パパッ! パパッ!」
「はっ、汐か……どうした?」
「『どうした?』 じゃないわよ。泣いてたと思ったらいきなり何も反応しなくなるんだから……」
そう言って心配そうに顔を覗き込む杏。
どうやら、あの不思議三人娘との会話に熱中しすぎていたらしい。
「それよりパパ。ゆーえんち!」
「ああ、そうだな早く遊園地行こうな、汐」
「うんっ!」
……と、言うわけでとっとと着替えて遊園地へと向かう俺達一行。
その道すがら、杏が口を開いた。
「ねぇ、朋也。あんた、この頃、またバカになったわね」
「いきなり何を言い出す」
「そうですっ! 岡崎さんは常日頃からバカですっ」
「風子……お前にだけは言われたくなかったぞ」
「失礼ですね。これでも風子は賢いお子さんだ、ってご近所で評判ですっ!」
「いや、賢いかどうか以前に、子供扱いされてることに気付こうな?」
「朋也くん…………馬鹿なの?」
「ああ、確かに最近の朋也はバカだな」
「そんなバカバカいったら岡崎さんが可哀想ですよ」
「確かに朋也さんは面白い方ですね」
フォローなしかあんたら。
彼女らの愛の形に疑問を抱く今日この頃。
「別に僕は岡崎はバカだとは思わないけどね」
「うおおぉぉぉっ! す、春原なんかにフォローされた!? もう生きていけないっ!」
「それ、どういう意味っすかねぇっ!?」
「そのまんまの意味だろう?」
「お、岡崎ぃ! 僕達は親友じゃなかったのかーっ?」
「そんなの一度たりとも思ったことねーや」
「酷い言い草っすねぇっ!?」
「……………………すまん、お前のこと、親友とは思えないんだ」
「しんみり言っても、それ内容、同じっすよねぇっ!?」
「あ、バレた?」
「バレないとでも思ってるんっすか!?」
「まぁ、春原だし?」
「ぬおおおぉぉぉっ!」
「うるさいぞ春原。近所迷惑だぞ?」
「……って、さっきあんたも叫んでいたでしょうが!?」
「気のせいだ」
「パパとすのはらのおじちゃん、すごくなかよし」
「ぬおおおおぉぉぉっ! 汐、汐にこんな馬鹿の総大将みたいな奴と同じに言われたー!?」
「ぬおおおおぉぉぉっ! ぼ、僕はおじちゃんなんて年じゃないんだぁぁぁぁぁっ!?」
「うん、何だか高校時代に戻った感じね。以前の朋也って、なんか悲壮感ばっかり漂ってばっかりだったし……」
「朋也もようやく吹っ切った、と言うことか」
「後は、誰がその後釜に座るかという事ですね?」
「汐ちゃんの母親になるのは風子です」
「……負けないの」
「うーん、岡崎さんって競争率激しいですよね……」
身悶える馬鹿二人を暖かい目で見ながら彼女たちは先に歩いている三人の後について行くのであった。
おまけ
「なぁ、宮沢?」
「何でしょうか?」
「宮沢って見た目の割に握力強かったんだな?」
「ああ、その事ですか? 実は家を出る前に戯れに身体が丈夫になるおまじないを……」
「いや、それ、もうおまじないの域を超えてるからな?」
あとがき
何だか作者の書きたい方向とは逸れていってる汐姉OWE その2 です。
なかなか本題まで進んでくれません。
かなり軌道修正しないといけない感じです。
あー、まぁ、話のネタが無いので、今回のポイント。
@三人娘は朋也の中に宿ることが出来る。
A三人娘はこの世界にいる限り『光』の恩恵が無いと消滅する。
B三人娘はそれぞれ、一度、この世から去っている。
@、Aはそのまんまの意味です。
Bは、この世から去っていると言っても、死んだ事とは限りません。
文字通り、この世から去っただけかも知れないし、死んだのかも知れません。
まぁ、そこら辺の設定はまだ秘密です。
何だかややこしいことに……(汗
それでは、今回はこの辺で……