しおりん改造計画
(Kanon)
 第3話『しおりん、猛勉強する?』 
written by シルビア  2003.11-12 (Edited 2004.3)




朝、通学路。

「おはようございます、祐一さん」

「おはよう、栞……って、え? 栞、メガネなんかかけてどうしたんだ?
 栞って、目が悪かったか?」

「物事は形から入るというじゃありませんか。だからメガネをかけたい気分なんです。
 私は学業に目覚めたのです。来週の模試で学年50位以内に私は入るんです」

「そ、そうか……がんばれよ。
 だけど、そのメガネ、まあまあ似合ってるな?」

「伊達メガネですから、ちょっとお洒落なものをと思いまして」

「お洒落ね〜、勉強には関係ないぞ?」

「そんなこという祐一さん、嫌いです!
 いいんです、これは私の決意の象徴なんですから。
 それよりも、私が学年50位以内に入ったら、デートをしてくれる約束、忘れてませんよね」

「あ、ああ。1日ぐらいなら、かまわないぞ」

「約束ですからね。嘘ついたら、アイス10個たべさせますよ」

「おお、10個でも20個でも食べてやるぞ」

「加えて、祐一さんも50位以内に入らなかったら、私とデートです」

「げっ……」

「当然です。
 お姉ちゃんに聞きました。今、祐一さんは55位だって。
 人に言う以上、自分も同じことをして頂きます」

「分かったよ。とにかく栞もがんばれよ」


【祐一】


(お、あれは佐祐理さんじゃないか)

「佐祐理さーん!」

「あ、祐一さん、おはようございます」

「今から大学?」

「そうですよ〜。あ、そうだ。これ、頼まれていたものです」

俺は七景島シーパラダイスの特別招待券を2枚もらった。

「お、これは……特別招待券、それもフリーパス……高かったろうに」

「この施設は、倉田家がスポンサーですから。
 ただで貰いましたから代金はいただきません」

前売りチケットを少しでも安く買えれば御の字だったのに……

「金欠気味だから助かったよ、佐祐理さん。この恩は必ず返すから」

「その代わり、勤労奉仕していただきますよ。
 佐祐理もお父様におねだりしたんですから、その苦労には報いていただかないと。
 今日の夕方、祐一さんは私が洋服を買う時の荷物持ちということでいかがです?」

「へぇ〜、一生懸命、お荷物を担がせていただきます。
 20kgの米袋で鍛えたこの肉体、なんなりとお使いください」

「あはは〜、覚悟してくださいね〜、祐一さん。
 舞の分もありますから、かなり重いと思いますよ〜」

ちなみにこのチケットは栞とのデートに備えたものだ。
だが、栞がレベル・クリアしないと、俺は栞とデートできないからな〜。
一応、それは香里との協定だし。


【栞】

(む〜、祐一さん、また佐祐理さんとべったりです〜。
 でも、今の私じゃ、嫉妬すら資格はありませんし……
 それに、佐祐理さんは祐一さんの好みのタイプですし……悔しいです)

でも、祐一さんの周りってどうしてこう女性が多いのでしょうか。
ライバルが多すぎます、それも美少女ばかり。

とにかく今は……勉強あるのみです!
なんとかデートを取り付けて……早く祐一さんと既製事実を作って……ライバルをけ落とすしかないのです。

まず、気合いを入れるためアイスを……いえいえ、今のままではいけません。

"栞ちん、ファイト"……あ、これちょっとキャラが違いますね。
"栞ちゃん、ふぁいと、だよ"……これも違いますね、燃えません。
とにかく、頑張るです。

(うーん……)

私は机とにらめっこしてました。
やっぱり慣れないことはするもんではないのですが、とにかく気合いをいれねば。
でも、さすがにちょっと難問を見ると、くじけますね。

やっぱり頼りになるのはお姉ちゃんです。
こういう時は素直に聞きに行きましょう。

「お姉ちゃん、勉強教えてくれない?」

「いいわよ。今日は……数学と英語ね」

「うん。この問題なんだけど……」

「あ、これはちょっとここに直線を書くと、公式を当てはめやすくなるのよ」

「あ、凄いです。これなら、簡単に解けます。
 でも、どうしてお姉ちゃんは着眼点がいいの?」

「数学のポイントはね、基本的な計算を正しく行って、数少ない公式を上手に使うことなの。それに、図形問題で着眼点が分からないときは、何かを足したり引いたりして見ると解法が見えることが多いのよ。ある程度パターンをこなすと、視点の取り方を間違えなくなるわ。それは練習ね。そうすると、簡単にレベルアップするわ」

「でも、どうしても出来ないときはどうするの?」

「数学はね、答えのある学問なの。誰が解いても同じ結果になる。
 解法が見えないときはたとえ答えを見てでもいいから、着眼点に注意して学習するといいわよ。栞は数学者じゃないんだから、同じことを次にはきちんと出来るようにすればいいの」

「なるほど。じゃ、私、頑張ってみる」

「英語はどう?」

「長文読解がちょっと厳しいかも。解くのに時間がかかって効率がわるいし」

「どれどれ……あ〜、なるほどね。
 栞って、英文全体を完璧に直訳しようとする傾向があるのね。
 でも、長文の時は前から順に読み崩さないといけないのよ。
分からない単語があっても、文章のキーワードがつかめれば問題はとけるからね。
それに、名文というのは同じ表現の文を何度も並べたりはしないわ。
ちょっとだけ違う表現で言い換えたりするの。
言いたいことは何度も繰り返すことが多いから、2つ以上繰り返されている文のどちらかが分かれば文意というのは取れてしまうものなの。
だから最初に出た方の文ばかりに意識を取られてはだめよ」

「あ、本当だ。2番目の繰り返しの文章なら私でも訳せる」

「英文だからと気を張らなくて、文章の読み方は日本語の文章と同じだと考えると案外すっきり行くのよ。例えば、この長文は論文調子だから、この2行だけでほとんど言いたいことを言い切っているでしょ? ここだけ訳して読めれば、問題も解けるわね?」

「うわ〜、30分掛かっていた問題が5分で解けちゃいました」

「そうね、この文だと、"つまり"という単語から全体を要約して結論を言っているわね。
 この場合は問題文を先に読んでおくことで、狙いを絞るという逆パターンもつかえるから更なる時間の節約も可能だわね」

「なるほど」

「まあ、下手な英文だと全文を理解しないといけないけど、学校の試験や受験で出題される英文は、それなりに練られているものだから悪文は少ないわ。
 あとは最低限の語彙力とかをつければいいというわけ。
 国語で学ぶ文章の読み方を英語で生かせるようになると、一層上達も早まるわ」

「さすが、お姉ちゃん!」

「でも、栞、上達したね。このペースだと50位以内も夢じゃないわよ。
 恋する乙女のパワーも半端じゃないわね」

「えへへ♪ 祐一さんとのデートが掛かっているから」

「はいはい。好きなだけのろけなさい。
 相沢君に栞はこんなにがんばったんだから、デートではちゃんと栞を楽しませるようにときつく言っておくわ」

【栞】

うーん、どきどきします。

(えい!)

私は配られた模擬試験結果を見ました。
もちろん、一番最初に見るのは、校内順位です。

模擬試験 結果……美坂 栞
-------------------------------------------
国語      185/200
 英語      160/200
数学      90/100
社会(世界史) 87/100
理科(化学)  100/100
-------------------------------------------
総合点数 617/700 全国 4000位/23000人 校内 45/200


「やりました〜♪ 校内順位45位です〜♪ 祐一さーん……」

栞は得意満面な笑顔を浮かべて祐一に会いに行った。

「お、やったな〜♪ じゃ、早速今度の土曜日、デートしてやるぞ。
 七景島シーパラダイスでいいか?」

「嬉しいです、楽しみです♪
 それともう一つ、放課後にジャンボミックスパフェDXも食べにいくのです♪」

「おいおい、栞。なにげに約束が増えてないか?」

「いいんです。祐一さん、私には甘いんですから。当然、つき合ってくれますよね!
 それと、私知ってるんですからね……祐一さんの模試の結果が校内"51位"だったこと」

「うっ……香里に聞いたな!
 分かった、分かった。それでデート2回分と言いたいんだろ?」

「はい♪」


【香里】

まったく、栞ったら……
成績表は、普通、教えてあげた私の方に先に見せるものじゃない?
そのくせ、相沢君の成績のことは真っ先に聞くんだから〜。
やっぱり勉強よりも恋愛なのね、あの子は。

まあいいわ……おめでとう、栞。さすが、私の妹だわ。
計画はひとまず成功ね。


【祐一】

「香里、これで栞とデートしてもいいんだろ?」

「そうね。家の両親もとても感激してたわ。
 それで、両親が今回のデートの資金を特別に援助してくれたの。
 相沢君も受験生だし、お金の方も結構きついんでしょ?
 栞との今後のデートに使いなさい。はい、これ」

「おお、なんと〜、諭吉様〜! ああ、有り難や〜」

栞〜、お前はなんて偉いんだ!
これで憂いはないぞ、あとは栞と楽しむだけだ。

 

 

(つづく)

後書き

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