「と、ととととととととと朋也、一体、なんのつもりよっ!」

 「そっ、そりゃこっちのセリフだーーーっ!」

 「っていうか、なんでこんな所に朋也がいるのよっ!」

 「それもこっちのセリフだーーーっ!」


 こんな感じで二人が倒れたまま言い争っている所に後ろからかけられる声が一つ……


 「お…岡崎…さん?」

 「え? …………誰だ?」


 朋也の背後にいたのは年の頃は二十歳を過ぎた位の女子大生っぽい女性。

 いや、どこか女性ではなく、女の子と言った方がしっくりくる雰囲気の女の子。

 黒い髪の両端をリボンで留めており、どことなく元気そうな印象をもっているのが特徴と言えよう。


 「あ……あの、わたし芽衣です。春原芽衣」

 「芽衣ちゃん!? 大きくなって……全然解らなかった……って、何故に芽衣ちゃんまでここにっ!?」

 「えーっと、話せば長くなるような、ならない様な……ところで岡崎さんは……お見合い? ……でも無さそうだし……すでに婚前交渉とか?」

 「違う!」

 「えーっ、でも……」


 と言って視線を朋也の下……すなわち組敷かれている杏へと下げていく芽衣。

 それに気付いた二人は神速で飛び退き、顔を赤くする以外の行動は取れなかった。












 汐と愉快なお姉さん達     その11














 一方……



 「…………」

 「…………」


 私、坂上智代は困っていた。

 春原をふき飛ばした先には、見るからに怪しい謎のグラサン集団。

 ……どこかで会ったような気がするのだが……どこだったか思い出せない。

 どうやら、春原か朋也の関係者だと思うのだが、いかんせん声をかけ辛い。

 そもそも、何故サングラスをしているのだろうか?

 見れば、何故かここ『料亭ササラ』の店員までサングラスをかけている。

 何故?

 あと、この目の前に木彫りの星を構えて(?)私の前で敵意らしいものを振りまいてる子供。

 例によってサングラスをかけているのだが、もう、何というか全体的におかしい。

 こんな小さな子がサングラスをかけ、置物を構えて敵意を身に纏っているのだ。

 先程までは子供は二人いたのだが、一人はどこかへ行ってしまった。

 まぁ、そんな感じで膠着状態が続いていたのだが……

 始まりがあれば終わりがあるもので、ことこういう雰囲気を壊すのに適した人物がこの場にいるわけで……


 「いてて……久々に食らったら死にかけちゃったよ。……って何だか人が増えてるよ」

 「なんだ、もう起きたのか……今は忙しいんだからそのまま死んでてくれ」

 「あんた、サラっととんでもないこと言いますねぇ!?」

 「そもそも、お前は何しに来たんだ」

 「そりゃ、岡崎を助けに……」

 「何だお前……小僧の知り合いか」


 春原の言葉に反応して一歩前に踏み出してくる赤い髪をした男。

 ……やはりどこかで会ったような気が……


 「秋生さん、春原さんですよ。渚と朋也さんのお友達の」

 「ああ、確かいたなそんなの」


 渚?

 古河渚を呼び捨てで「渚」と呼ぶ人物は限られている。

 朋也かもしくは……

 ああ、思い出した。

 古河の葬式の時に一度だけ会った筈だ。

 古河の両親。

 しかし、何故このタイミングでここへ……

 まさかと思い、勢いだけで生きてる母の方を振り向いたが、母はブルンブルンと首を横に振る。

 どうやら母さんの悪戯でもないらしい。


 「あのー」


 と絶妙のタイミングで声をかけて来る小柄な店員。


 「どうやら皆さん全員、朋也さんのお知り合いみたいですし……一度、状況を纏めてはどうですか?」


 と、板に付いた動作で中に入って席を勧める店員。

 正論ではあるのだが、納得いかない。

 私は朋也とお見合いをしに来ただけなのに、何故こんなことになっているのだろうか?

 本当に朋也と関わると騒動が尽きないな……






















 「……で? 何でここに杏と芽衣ちゃんがいるんだ?」


 とりあえず、落ち着いてから立ち上がって、廊下を歩きながら、同じく隣を歩いている二人に問う。

 杏の方は俯いたまま……芽衣ちゃんはニヤニヤと何かを楽しむような表情だ。


 「私はお兄ちゃんを探しに来たんですけど……」

 「何だ? 春原もこっちに来てるのか? 杏といい、芽衣ちゃんといい、親父といい、春原といい、一体どうなってるんだ」

 「何だかよくわからなかったんですけど……お兄ちゃんが、岡崎さんが大変だー、って行って夜遅くにどこかに行っちゃって、岡崎さんのお父さんと一緒に探しに来たんです」

 「親父の奴……芽衣ちゃんを連れてきた事、隠してやがったな」

 「それで駅前でお兄ちゃんを発見したんですけど……『誰か』にお兄ちゃんが連れ去られちゃって……それで多分、お兄ちゃんと『誰か』の行き先は岡崎さんの所だろう……って思いまして、岡崎さんのお父さんが岡崎さんに電話したんです」

 「なるほど……」

 「それで一緒に来たんですけど、岡崎さんのお父さんがトイレに行ったまま帰ってこなくて……」


 さっきから『誰か』の言葉を強調しているが、俺には誰のことだかサッパリだ。

 思い当たる節がない以前に、情報が混沌としすぎていてわからない。

 ひょっとしたら、芽衣ちゃんはこの一連の騒動の全体像を知っているのではないだろうか?

 まぁ、中学生の頃から春原の妹とは思えないほど聡い娘だったし。

 しゃべる芽衣ちゃんと相対して杏は無言。

 いつもの騒がしさが嘘みたいだ。

 まぁ、知り合いとあんなことがあった直後なのだから、正常な反応なのかも知れないが。

 反撃が無いのなら、舌でも入れて置くべきだった……って、いやいや、そうじゃないだろう俺。


 「で? 杏はどうしてこんな所にいるんだ?」

 「そ……それは、わ、私だって偶にはおいしいもの食べにここに来ただけよ!」

 「怪しいな……なーんか話が出来すぎてるような気がするぞ? ……そもそも本当にそうなら、なんでどもるんだよ」

 「う、うっさいわね! あんまり細かいことばかり言ってると、その口を火鉢か何かで溶接するわよ!」


 相変わらず、恐ろしい事を口走る奴だな……

 まぁ、杏も何か隠してる事は間違いないようだ。

 二人とも何かを隠しているが、言わない。

 何か変な陰謀にでも巻き込まれているのだろうか?

 俺はただお見合いをしに来ただけなんだが……


 「…って、しまったぁぁぁぁぁぁぁ!? 二人に会ったショックで、すっかりお見合いのこと忘れてたぁぁぁ!!!」


 死ぬ!

 死んでしまう!

 智代、無茶苦茶怒ってそうだ。

 至急、『朱の間』に行かないと、愛しき娘、汐に二度と会えないかも知れん。


 「…そういうわけで俺は行く。じゃあな二人ともっ!」


 そう言うが早いか、俺は廊下を突き進んでいく。


 「なっ? ちょっと待ちなさいよ朋也ぁ!」

 「岡崎さんに先に行かれたら、お兄ちゃんの居場所がわからなくなっちゃうんで……」


 二人が追いかけてくる。

 何とか振り払って、先に『朱の間』に行って、素早く智代とのお見合いの席を移さないと厄介なことになりそうだ。

 なりそうって言うか、絶対なる。

 しかし、二人とも身体能力が高いのか、中々引き離せない。

 ここは次の曲がり角で勝負に出るしかない。

 曲がってすぐの部屋に、失礼承知で入り込んで二人をやり過ごそう。

 出来れば空き部屋だと嬉しいんだが、人がいても謝ればきっと許してくれるだろう。

 ……希望的観測が多いがするしかない。


 曲がり角を右に曲がる。

 勢いを落とさずに、素早く障子を開き、中に潜り込んで静かに……そして素早く閉める。


 トン…と蚊の鳴くような声……もとい音しかならさずに障子を閉めて、ミッションコンプリート。

 ふぃ〜、と安堵の溜息をする暇もなく、障子に耳を当てて、外の様子を探る。


 『朋也ーー……っていない?』

 『きっと、どこかの部屋でやり過ごそうとしてるんじゃ……』


 相変わらず春原の妹とは思えない頭の回転だ。

 ……まぁ、俺でも思いつくような考えなんだから、普通ならわかるか……わからないのは春原ぐらいだろう。

 何にしても長居は出来ないようだ。

 別の出口から部屋伝いに逃げるしか……

 と思い、別の出口があるか部屋を見渡そうとして、後ろを向いて……俺、岡崎朋也は固まった。


 「え?」
















 続く










 あとがき


 どうも、相変わらず駄作書きの秋明です。

 『汐と愉快なお姉さん達 その11』を読んでいただき、真にありがとうございます。

 終わりに近づけば近づく程、筆が進まないという罠。

 中々に書き辛くなって来ました。

 まぁ、あと1,2話ほどで終わりですがw

 今回も微妙なところで切れてます。

 これで、実はその部屋が美佐枝さんがいた部屋とかだったら、それはそれで面白そうですがw

 そして、ことみが帰ってきて、以下、無限ループw

 …………面白そうかも(ヤメロ

 ループするということは、杏とのキスも無限ループな訳で……

 キス魔朋也、爆・誕!(w

 ……はい、アホなこと言ってないで、続き書きます(汗

 それでは、この辺で撤収です。

 それではー。