「朋也か?」

 『親父? どうしたんだ? 何かあったのか?』

 「何かあったのは朋也の方じゃないのか?」

 『は?』















 汐と愉快なお姉さん達     その10
















 「ふむ……なるほど、そういう事だったのか」

 「ああ、何だか心配かけちまったな、親父」


 どうやら今回の騒動の原因は朋也のお見合いにあるらしい。

 朋也も段々と前向きになってきているみたいだ。

 それにしても……朋也は本当に俺と似ている。

 性格とかは遺伝しなかったみたいではあるが、その生き方が似ている。

 本当に似て欲しくない所が似てしまう。

 せめて、朋也だけは幸せな人生を生きていて欲しかったのだが……

 いや、朋也は今、幸せなんだろう。

 かつての自分がそうであったように……


 「しかし、お見合いをするなら連絡くらいしなさい。それにお見合いというなら、向こうは親が来ているのではないのか?」

 「いや、まだ辿りつけていないから、わからないんだが……」

 「ふむ……ではこちらもそっちに向かおう。相手方のご両親がいるとしたら、こちらもいても問題あるまい」

 「え? いや、急に何を……」

 「正直な話、見てみたいのだよ朋也。息子の伴侶になるかもしれない人物がどんな人物なのか……口出しはしない」

 「……いいのか? と言うか今どこにいるんだよ。田舎じゃないのか?」

 「ああ、こちらの町の駅前だ」

 「なんでそんな所に……」

 「まぁ、なりゆきというやつだ」

 「……すまない親父。もう迷惑はかけないつもりだったんだけどな……」

 「水臭いぞ朋也。私達は遠く離れてしまったが……親子だろう?」

 「親父……」

 「それで、何処に行けばいいのだ?」

 「ああ、『料亭ササラ』って憶えているか?」

 「ふむ……そこか。ではすぐに行く」

 「ああ、わかった。親父が来るまでには抜け出しておく」

 「抜け出す?」

 「いや、こっちの話だ。じゃあ、また後でな親父」


 ガシャンと受話器を置いて、テレホンカードを取り出す。

 そして、様子を伺っていた芽衣ちゃんに事情を説明する。


 「岡崎さんがお見合いですか…………お見合いっ!?」

 「まったく……人騒がせな息子だよ」

 「……ということは、お兄ちゃんもそこにいる可能性が高いですね。他にいく所無いでしょうし」

 「うむ……まずは……」


 とそこで言葉を切って、手を上げる。

 都合良く駅前に帰ってきたタクシーを止めて乗り込んだ。

 そして芽衣ちゃんもあとから乗り込んだ所でドアが閉まる。


 「『料亭ササラ』まで」

 「あいよっ! 親子でおいしいものでも食いに行くんですかい?」


 ドライバーの意外な言葉に芽衣ちゃんと顔を見合わせて笑う。


 「そうだな……芽衣ちゃんが娘になってくれれば安心なのだがなぁ……」


 事実、芽衣ちゃんはしっかりしている。

 まだ一日も一緒にいてはいないのに、そう感じさせるほど気が利く。

 ちょっとしたことでもよく気が付くし、対処も的確で素早い。

 まぁ、俺がだらしない生活を続けていた事も一因して、芽衣ちゃんはよく働く。

 だから、今のような言葉が出てしまうことも無理ないだろう。


 「もー、嫌ですよ、おじさんったらー」


 あははと笑う芽衣と、大して期待してなかったものの若干寂しかった直幸を乗せて車は走り去って行った。























 ふーこさんとしらない着物のひとが黙ったままみつめあってる。

 なんなんだろ?

 みんなだまったままでおもしろくない。


 「アッキー、トイレにいってくる」

 「お? ついていってやろうか?」

 「いらない。ひとりでできる」

 「よし、じゃあ気を付けて行ってこい」

 「あと、コレ、まえ見にくいからいらない」


 そういってアッキーにくろいメガネをかえす。


 「ちっ、まだ汐には早かったか」

 「あっ、トイレは玄関の右にありますから」


 アッキーがうしろでなにか言ってるのをきにしないでトイレにいく。

 ちいさな着物のひとがトイレのばしょをおしえてくれたので、そこにいってみる。


 あ、トイレあった。

 トイレでおしっこして、出てくると知らないおじさんが、わたしのまえでかたまってた。

 だれだろ?


 「君は……もしかして汐ちゃん……かな?」


 コク。


 「ふむ……写真で見た通りの娘だ」

 「おじさん、だれ?」

 「岡崎直幸……朋也の父で君のお祖父さんだ」

 「パパのパパ?」

 「そうだ。朋也がお見合いをするというので来たんだが……朋也は何処にいるかわかるかな?」

 「パパはどこにいるかしらない」

 「……? それじゃあ君はどうやってここまで来たんだい?」

 「アッキーにのってきた」

 「あ、あっきー?」

 「ママのパパ」

 「……事情がよく飲み込めないが……詳しく教えてくれないかな?」





















 ピッ…と携帯を切って立ち上がる。


 「さて、親父も来るみたいだし、本気で抜け出さないとな」

 「抜け出すも何も……もう止めないわよ」

 「……? やけにあっさり引きますね」

 「いや、そのさ……岡崎の親のことは春原から聞いてたし……」


 そういって、ちょっとバツが悪そうに頬を掻く仕草をする美佐枝さん。

 確かに昔は……っていうか最近まではギスギスした親子関係だったんだが……どうも、誤解してるらしい。


 「いやね? あたしもあんまり聞く気は無かったんだけど、いつも夜遅くまで寮にいたから気になっただけで……悪気はなかったのよ?」

 「いいですよ別に」

 「あと、ことみちゃんは岡崎の父親に会った方がいいわ。きっと会って置かないと後悔する」

 「わかったの」

 「なっ!? 邪魔しないんじゃなかったんですか!?」

 「やーねー、あたしゃこの部屋から抜け出すのを止めないって言ったけど、ことみちゃんの味方よ?」

 「おともだちなの」

 「あー、もう、三十六計逃げるに如かず!」


 扉を乱暴にバンと開いて外に逃げ出す。

 逃げ道は『朱の間』の場所がわからないので適当だ。


 「朋也くん、待ってほしいの〜」

 「待てるかっ!」


 十分ぐらいそうしていただろうか……ことみを振り切ったみたいなので、改めて『朱の間』を探す。


 「どこにあるんだよ、『朱の間』はよ……」


 悪態をつきながら曲がり角を曲がる。



 きっと、そこが俺の運命の分かれ道だったんだろう。

 もう少し前方に注意していたら……

 向こうも同じく注意していたら……

 こんな事にはならなかったのだろう。


 「どわっ!?」

 「きゃっ!?」


 完全に前方不注意だった俺と、同じく前方不注意だっただろう人がぶつかる。

 完全に不意打ちだった衝撃に二人はバランスを崩して曲がり角の廊下に転がって……



 「んんっ!?」

 「ううんっ!?」


 唇を重ねあっていた。


















 「はぁ……」


 気が付けば溜息を付いてる自分がいた。

 春原をお見合い場所に送り込んだんだけど、所詮は春原、期待は出来ない。

 そもそも、椋の作戦には穴がありすぎると思う。

 確かに、春原を放り込んどけば甘い雰囲気とは無縁の世界にはなるでしょうけど……春原を排除されたらそれまでじゃない!

 あー、無性に落ちつかない。

 私ってこんなにこらえ性無かったかしら?

 ほら、気が付いたら様子を見に行こうと『料亭ササラ』の中に入っちゃってるし。

 店員の人がいないので勝手に上がらせてもらおう。

 別に悪いことするわけじゃないし、いいわよね?

 さて、春原が駄目だった場合の作戦を考えないと……

 ……と、トコトコと中を歩いていく。


 きっと、この一瞬が私の運命の分かれ道だったんだろう。

 私がもっと、前を見ていたら……

 私が考えに没頭していなかったら……

 きっと、こんな事にはならなかったんだろう。


 「どわっ!?」

 「きゃっ!?」


 なんか何処かで聞いたような声がした。

 その声の主がバランスを崩した私にのしかかってきて……


 「んんっ!?」

 「ううんっ!?」


 唇を重ねあっていた。











 あとがき


 相変わらず一話一話が短い『汐姉』

 場面は最終局面一歩手前にw

 汐VS直幸、杏VS朋也、風子VS智代、ことみ&芽衣が行方不明(ぉ

 しかし、ここにきてようやく杏の出番がきました。

 秋明も、もうこのまま終わっちゃうんじゃないかとヒヤヒヤしてました(マテヤ

 しかし、登場して速攻でキスイベントか……なんか、使い古された手だよねー ←人事っぽい

 さて、次回でファイナルステージに行きたいけど……いけるのかな?

 それでは、また次回にw































 ……しっかし、結局誰が勝つんだろうね、コレ? ……秋明でさえわかんないです。(禁句