時は少し戻ってお見合い前日。
遥か遠い北の地で苦悩する男がいた。
「俺は……やり遂げていた」
朋也の父、岡崎直幸である。
彼の歩んできた人生は常に苦難の道だった。
もちろん、幸せだった時もあった。
だが、百人中、九十九人は彼の歩んできた道は辛苦の道だと思うだろう。
思わないのは、きっと彼自身のみだろう。
彼には守るべきものがあった。
彼の子、朋也である。
彼は、子を守り、磨耗していった。
身体も……精神も……磨り減っていったのだ。
ある日、磨耗した心に魔が差した。
朋也を傷付けた。
それからの日々は、さらに過酷だった。
子を友人の様に扱い、遠ざけた。
唯一、守りたかったものを遠ざけて、それでもなお子を守ろうとした。
全てを擲ってでも、守った。
守りきった。
いつしか、子供は守られる存在では無くなっていた。
守った。
守りきった。
自分自身にたてた誓いを守った。
そして、守りきった末に……彼は存在意義を失った。
ただ、守るだけの人生だった彼から守るものが消えた。
達成感がそのまま喪失感になる。
故に彼は悩んでいた。
しかし、そんな彼に朗報が来る……
汐と愉快なお姉さん達 その9
「直幸や……」
「うん? なんだい、母さん?」
「お客さんだよ」
「こんな夜遅くにかい?」
直幸は訝しがりながらも、部屋を出て客のもとに行く。
そこには意外な人物がいた。
「君は確か、朋也の友人の妹の……」
「はい、春原芽衣って言います。あの……実は…」
春原の実家と朋也の実家は近い。
芽衣は兄からその事を聞いており、この近くを二人で通った際にこの場所のことを教えてもらっていた。
「……ふむ、朋也のことかね?」
「あ、はい。私もよくはわからないんですけども、岡崎さん……えっと、朋也さんの方の友人から兄に電話がかかってきまして、おか……朋也さんが、どうやら何か大変な事になってるそうなんです。それで一応、こちらにも知らせて置こうと……」
芽衣は岡崎さん、と呼ぶと目の前の直幸と被ってしまうので、なれない口調で朋也さん、と言い直す。
いつもはもっと元気なしゃべり方なのだが、年上である直幸を前にすると、さすがにフランクには話せないようだ。
「なるほど……そういうことだったのか。わざわざ、ありがとう芽衣ちゃん。早速、朋也に電話……いや、直接行って見るよ」
「え? 直接行かれるんですか?」
「別に電話でもいいんだけどね……朋也とも会ってみたいのだよ」
「それじゃあ、私も一緒について行っていいですか? あっちに行っちゃったお兄ちゃんを連れ戻したいですし、朋也さんとも久しぶりに会いたいんです」
「そうか。それではすぐに行くとしよう」
……と、いうことで二人が夜行列車に乗り込んだのが十二時間ほど前。
ちなみに、夜行列車というのは数が少ない。
なので、実は春原(兄)も同じ列車だったのだが、到着するまで芽衣は気付く事は無かった。
「さて、まずは朋也の家に行くとするか」
「あ、はい。そうですね」
……と、二人が並んで駅から出ようとした時に……
ピ〜ンポ〜ンパ〜ンポ〜ン
『迷子のお知らせをします。春原陽平くん。保護者の方がお待ちです。至急、南改札口の方までお越しください』
ぶーっ!?
先ほどに自動販売機で買ったお茶を噴き出す芽衣。
「おっ、お兄ちゃん!?」
「ふむ……なかなかユニークな歓迎をされてるみたいだね、君のお兄さんは」
「……どこに出しても恥ずかしい兄で……恥ずかしい限りです」
…と、真っ赤になりながら答える芽衣。
「家に行くより、君のお兄さんに聞く方が早そうだ」
「そ、そうですね。確か南改札口はこっちとは逆の出口の筈です」
……と、いうわけで、南改札口に行く直幸&芽衣の異色コンビ。
で、彼らが南改札口付近で見たものは……
『Go!』
『ちょっと待って、藤ばや……、う……うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー』
哀れなピエロの姿だった。
声をかける間もなく、引きずられて行った息子の友人兼、実の兄。
二人はそんな光景を絶句したまま見ているだけだった。
二人はたっぷり一分程、固まったままだったが、何とか再起動を果たす。
「一つ、解ったことがある」
「何ですか?」
「あちらは、家でもないし、義理の娘の実家の方でもない」
と、西部劇風シーンの中でしか見れない刑を執行したバイクが走り去っていった方を指差して直幸が言う。
「そうなんですか? でもそれだと、朋也さん、家にいない可能性が高いですね」
「ふむ……出来れば、こっそりと様子を見てから行動したかったのだが、仕方ないな」
「どうするんですか?」
「なに…単純な方法だよ」
そう言って、直幸は昨今では珍しくなってしまった電話BOXの方へ歩いていった。
そして一方、朋也はと言うと……
「朋也くんをがっちりとほ〜るどなの」
「ことみちゃん! もっと強くよ、あと、微妙に着衣を乱れさせて」
「こう?」
はら……と紺色の上着の掛け紐をずらすことみ。
…で、悲しいかな男の性でそれに見入る俺。
そして……
「んー、いいわよことみちゃん。あと少し表情を切なげに…」
「わかったの」
純真無垢なことみを使って、俺の情けなさ過ぎる姿を携帯のカメラ機能でパシャパシャと撮りまくる美佐枝さん(ピー歳)
ドスドス!
「今、何か失礼なこと考えなかった?」
「……いえ、滅相もございません」
俺の真横の畳に突き刺さっている割り箸。
美佐枝さん、貴女は何者ですか?
「いい加減、放してくれ、ことみ」
「ダメよ、ことみちゃん。こんなおもしろ……そんな事したら、岡崎がお見合いに行っちゃうわよ?」
「今、本音が出かけてましたよ、美佐枝さん」
「お見合いは、しちゃダメなの」
……と、膠着状態が続いている。
それと、先程から俺達だけではなく、外も騒がしくなってる。
何か爆発音(?)みたいなのも聞こえてきたし。
……まさか、智代がシビレ切らして暴れてるんじゃないだろうな。
もしそうだとしたら……
・
・
・
・
・
「きっと、火葬された後の遺骨はぐちゃぐちゃなんだろうな……」
「朋也くん、燃えちゃうの?」
「燃えるかっ! ……と言いたい所だが、このままだと本当に燃えることになりそうだ」
……などと、以前に春原が灰からの蘇生は可能かどうか考えていたことを、俺に当てはめ直して考えようとしていると不意に…
『あ〜る、晴れた〜、ひ〜る、さがり〜♪』
…と、激しく今の俺の思考にマッチしたメロディーが俺のポケットから鳴り響いた。
「……あんた、なんて歌を着信メロディーにしてんのよ……」
「俺の携帯がなる時は、大抵、娘と休んでるときに来る仕事の電話なんだよ……」
「それはご愁傷様ね。……でもねぇ、岡崎。普通、お見合いの時に携帯の電源入れっぱなしにしておく? せめてマナーモードにしときなさいよ。もしも、これがお見合い中に鳴ってみなさいよ……どうなることやら」
……少し想像してみよう。
『ご趣味は?』
『春原を蹴ることだ。朋也も知ってるだろう?』
『特技は?』
『春原を蹴ることだ。おそらく春原を蹴らせて私の右に出るものはいない。そういう朋也の趣味と特技はなんだ?』
『ああ、俺は……』
……と言いかけて
『あ〜る、晴れた〜、ひ〜る、さがり〜♪』
『…………』
『…………』
『……そうか、それが私とお見合いをしている朋也の心境なのだな?』
『ま、待て、智…』
『さよなら、朋也……』
ドガガガガガガガ! バキッ!
YOU ARE DIE!
「………………」
「朋也くん、真っ青」
「ちょっ、大丈夫? 岡崎?」
なんだか凄いものを想像した気がする。
「ことみ……美佐枝さん……引き止めてくれてありがとう。二人は命の恩人だ」
感極まって、のしかかってきていることみに抱きつく。
ことみは顔を真っ赤にさせて照れながら、それでも抵抗せずに身を委ねていた。
パシャ!
「ん〜♪ ベストショット!」
「美佐枝さん、その携帯、破壊してもいいですか?」
「そんなことより、早く携帯に出なさいよ」
ああ、そうだった。
早く、この延々と鳴り続けるドナドナを止めないと……
しかし、長いな。途中で切れてもおかしくないと思うのだが……
パカっと、携帯を開くと、仕事先の事務所からではなく、今時珍しい公衆電話だと表示されていた。
「はい、もしもし、岡崎ですが……」
続く
あとがき
ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!
一話で収めるつもりだったんです、ごめんなさい!
こんなに長くなるとは思ってなかったんです、ごめんなさい!
ことみを使って趣味に走ってたら長くなったんです、ごめんなさい!
無駄に直幸出した所為で長くなったんです、ごめんなさい!
芽衣が直幸と組んだ所為で芽衣の持ち味が生かせず、目立ってないです、ごめんなさい管理人さん!(ぉ
本当はもっと書けた筈なのに、遊び回ってた所為で一話が短くなりました、ごめんなさい、それと便座カバー!(w
……と、まぁ、ひたすら謝り倒して弁解w
……そういうことで、9話&10話はセットですw 前後編みたいなもんだと思っといてくださいw
うぅ…直幸と芽衣のコンビって書きにくいよw ←じゃあ書くなよw
本当はWorld errorsの方から書くつもりだったんだけどな〜、なんで本編書いてますかね、秋明は?
さて、今回はこの辺で……それでは、また次話でお会いしましょう!