「岡崎によろしく言っておいてくれ」

 「わかりました。岡崎さんによろしく言っておきます」

 「いってらっしゃい、ふぅちゃん」

 「はい、いってきます。おねぇちゃん。汐ちゃんは風子のものです」


 そう言って彼女……伊吹風子は出かけていった。

 行き先は朋也のところ。

 目的は、朋也のお見合い場所にのりこんで、お見合いを中止させ、なおかつ朋也を誘惑し汐の母になること。

 その為の秘密兵器も持ってきた。


 「んー! いい感じに彫れてますっ! この至高のヒトデならいくら美的センスのずれてる岡崎さんでもイチコロ……」


 その効果の程はわからないが……少なくとも彼女にとっては効果抜群だったようだ。


 玄関先ではにゃ〜んな顔になって立ち尽くす妹を見て、その保護者二人はため息をつくのであった。

















 汐と愉快なお姉さん達     その7













 もう、プチ最悪ですっ!

 知らない間に時間がすぎてましたっ。

 きっと家の時計が壊れてたんです。

 帰ったら修理しないとダメです。

 とにかく、今は岡崎さんのところに行くのが先決です。

 確か、お見合いは『料亭ササラ』で……


 「劇薬なんですねーーーーーーーーーーーーっ!?」


 ……今、何かが目の前を物凄いスピードで通り過ぎていきました。

 でも、どこか聞き覚えのある声です。

 いや、むしろ頻繁に聞いているような……


 「俺も劇薬だぁーーーーーーーっ!」

 「アッキー、がんばれー」


 って汐ちゃんですっ!

 汐ちゃんが近所のパン屋にさらわれていますっ!

 これは追いかけるしかないです。


 「汐ちゃん! 今、風子が行きます。 もう少しの辛抱です」












 風子が汐ちゃんと誘拐魔に追いつくと、そこにはパン屋の夫婦が抱き合っていました。

 汐ちゃんはそれを下から見ています。


 「はぁっ、はぁっ、ふ……風子、参上です」

 「あ、ふーこさんだ」

 「汐ちゃん、無事ですか? 変な事されませんでしたか?」

 「ううん、アッキーがへんなことするのは、さなえさんだけ」


 なにはともあれ、汐ちゃんが無事でよかったです。


 「さてと……早苗を止めたことだし、早く小僧の所にいかねーと……って、誰だ?」

 「伊吹さんの所の妹さんの風子ちゃんですよ、秋生さん」


 って、パン屋さんがこちらの存在に気付きました。

 早く汐ちゃんを連れて逃げないといけません。


 「ああ、お前が風子か、小僧から話は聞いてるぞ」

 「わ、風子のことが知られてます。風子、有名人です」

 「なんでも、俺の汐を狙っているそうじゃねーか」

 「汐ちゃんは風子のです。貴方のじゃないです」

 「かーっ! いいか風子、俺達はな五年も汐の世話を見てきたんだぞ、俺達以上に汐を知ってるやつはいねーんだよっ」

 「時の長さは関係ないです。汐ちゃんがどれだけ好きかが全てです」

 「ほーう、よく言ったな風子。なら汐に聞いてみるか」

 「望むところです。パン屋になんか負けません」

 「では、汐ちゃんに聞いてみますねっ。汐ちゃん……汐ちゃんは誰が一番すきですか?」


 パン屋の奥さんが汐ちゃんに聞きました。

 聞かなくても風子の勝ちはゆらぎません。

 あんな子供みたいなパン屋に大人の風子は負けないです。


 「パパ」


 ……って、岡崎さんに負けてしまいました!

 プチ最悪ですっ!


 「ちっ、慕われてやがんな小僧め」

 「……もしかして、小僧と言うのは岡崎さんのことですか?」

 「そうですよ、風子ちゃん」

 「岡崎さんは小僧じゃないです。むしろオッサンです」

 「かーっ、あんなの俺様から見れば、まだケツの青いガキだ。ガキ」

 「でも、パパはアッキーのほうが、こどもだっていってた」

 「小僧め……デマを流して汐を独り占めする気だな」

 「……もう、風子は付き合ってられないです。風子はこれでも忙しいんです」

 「おっと、そうだった。早く小僧の所にいかねーと……」

 「パン屋さんも岡崎さんに用があるのですか? 最悪です」

 「なんだ、お前もあるのか? ……けっ、お前も小僧に惚れてるクチか?」

 「違います。岡崎さんなんていりません。風子が欲しいのは汐ちゃんだけです」

 「あん? じゃあ、なんで小僧に用事があるんだ?」

 「今、岡崎さんはお見合いしてると聞きました。そんなことされたら、風子以外の誰かが汐ちゃんの母親になってしまいます。それはまずいです。だから、その前に岡崎さんを、風子の魅力でメロメロにするんです。そして風子が汐ちゃんの母親になるんです」

 「ふーこさんが、ママになるの?」

 「そうです、風子と汐ちゃんで一緒に暮らすんです」

 「パパは?」

 「岡崎さんはポイです。仕事から家に帰ってきても、家に入れてあげないです」

 「パパかわいそう」


 ……おかしいです。

 さっきから、パン屋さんの反応がないです。

 ずっと、何かを考え込んでいるようです。

 あ、パン屋さんがこっちを見て何か言いました。


 「……お前みたいなヤツの方が、今の小僧には合っているのかもな」

 「どういうことですか?」

 「こっちの話だ。行くぞ早苗、汐、風子。小僧に一泡ふかしてやるぜ」

 「頑張りますねっ!」

 「パパのところにいく」

 「風子も行きますけど、一緒にしないで欲しいです」






















 「『料亭ササラ』っていうのは、ここか。行くぜっ!」


 そう言って、無駄に元気にパン屋さんが店の中に入って行きます。

 何故かサングラスをして。

 ちなみに奥さんも汐ちゃんも風子もサングラスです。

 パン屋さんが言うには、隠密行動する際にはつけていないといけないそうです。

 とにかく、風子も行きます。


 ガラガラと扉を開けて中に行くと、笑顔の店員さんがパン屋さんと話しています。


 「今日、岡崎朋也っていう小僧がお見合いに来ている筈だが……」

 「あら、また朋也さんの関係者の方ですね。今日は賑やかです」

 「あん? お前も小僧の知り合いか?」

 「はい、以前、朋也さんにはお世話になっていました宮沢有紀寧といいます」

 「俺は古河秋生だ。で? 小僧はどこにいるんだ?」

 「『朱の間』でお見合いをしている筈ですね」

 「よし、そこまで案内してくれ」

 「はいっ、ではついてきてください」


 そう言って、着物を着た店員さんが奥へと進んでいきます。

 風子たちも続いて進んでいきます。













 笑顔の店員さんに連れられて『朱の間』の前まできました。

 何だか中が騒がしいです。

 さっきから、言い争う声ばかりしています。

 言い争ってるって言う事は、間に合わなかったわけでは無いみたいです。

 風子、一安心です。


 「ここが『朱の間』です」

 「ここで小僧がお見合いしてるのか」

 「さなえさん、おみあいってなに?」

 「汐ちゃんの未来のママと会って、色々と話すことですよ」

 「汐ちゃんの未来のママは風子です」


 風子がそう言って、扉を開けようとしたとき……



 『私は女だっ!』

 『ひぃっ!』



 どぐしっ! どぐしっ! どぐしっ!

 ドカーン!



 爆発音(?)と共に扉が風子のすぐ横の扉が吹き飛びました。

 何かどこかで会ったような気がする人が扉を破って飛んできたみたいです。

 風子が恐る恐る中を見てみると、銀髪の綺麗な着物の女の人がこちらへ向かってきました。

 この人が岡崎さんのお見合い相手でしょうか?

















 続く








 あとがき


 …と言うわけで、『汐と愉快なお姉さん達』 その7でした。

 久々に本編書いたので、書き方忘れてたよ_| ̄|○

 しかも、中途半端なところで切れてるし。

 おまけに短いし。

 短いのは元から、そーゆーつもりで書き始めたんだからいいんだけど…(よくないよ)

 まぁ、今回と次回は最終局面へと向かうための布石ですので、あんまり面白くないのはご容赦ください。

 次は、智代&杏&春原の話。

 ようやくと言うかなんと言うか……やっと(お馬鹿度が)全力の春原を書く事ができます(笑)

 時間軸的には、風子が到着する少し前になります。

 朋也くんは次回もおやすみ(笑)

 次の次くらいに出ます。

 そりゃもう、意外な展開で(80%嘘ですw)

 …というわけで、次回をお楽しみにです。

 それではー